3曲 春の愉しい面ざしが

文字数 1,353文字

導入部は前回まで。

ここからは第一部「初春に」に入っていきます。

春がやってきたっていうこと?
愉しい面ざし、と言っているぐらいだから、

次こそは明るい曲になるんじゃな~い?

と思うでしょ?

ところが(またこのパターン)、何とも神秘的で不思議なイメージの曲なんだ

こちらの画像は「フォリオ64v」の画面いっぱいに描かれた絵。

(フォリオとは羊皮紙の一枚のことで、表面はr、裏面はvで示されます)

植物の繁茂する森を描いたものです。

上の段には、いろんな鳥がいるな
下段には動物がいるよ。ウサギ、ウマ、シカ……それからライオンかな?
この絵は、聖書の天地創造の場面ではないかと言われてるよ。

つまり中世に実在した牧歌的な風景ではなく、神の創造物である「自然」の表現というわけ

この絵を主要なイメージにした、春の音楽。

「春の愉しい面ざしが」という歌の内容を見てみましょう。


生命が萌えいずる春という季節。

「さあ、恋をしようよ」というお誘いのメッセージがふんだんですよ(笑)

春の明るい顔が 世界に飲物を与える

冬の厳寒はもう すでに逃げ去ったわ

色とりどりの衣をまとった春の女神フローラが支配する

森の小鳥の歌で フローラはたたえ祝われる

フローラの膝に横たわり 太陽神フィーブスはあらたにほほ笑む

多くの花に飾られながら

西風(ゼフィルス)神酒(ネクタル)の香りを振りまく

さあ急げ

恋の競争で 賞品をもらおう

「カルミナ・ブラーナ」には、ギリシャ・ローマの神々についての知識が前提となっている部分が多々あります。以下はここの歌詞に登場する神々について。


フローラ……かつてギリシャではクローリスという名のニンフ(下級女神・精霊)だったが、西風神ゼピュロスによってイタリアに連れて来られ(※多くの絵画の画題になっています)、以後花の神となる


フィーブス……太陽神アポロの別名


ゼピュロス……西風神。春の訪れを告げる豊穣の風

きれいな乙女は 教養のある人に呼び掛けるの

動物みたいな男は 呪ってやるわ

恋は夏の輝きで 皆の肌を焦がし

皆の分かる言葉で 語りかける

甘い小夜啼鳥(ナイチンゲール)は 歌声をひびかせ

色鮮やかな花で 明るい野は笑い

小鳥らの群れは 美しい森に鳴き

乙女らの群れは 百の喜びを作る

森は新緑に輝き 小鳥は今や鳴き

喜びは限りなく 五月の力は愛の

憧憬(あこがれ)を祝し誰が 春で若返らぬ

五月は優等賞だ 冬はけなされた

参考:

ロンドン交響楽団『カルミナ・ブラーナ』解説(訳:石井歓)

永野藤夫『全訳カルミナ・ブラーナ』ほか

恋愛至上主義って感じだな
春がやってきた。

それって中世の人にとって、そんなにも人生の喜びだったんだね

喜びを歌っている割に、曲調はそんなに明るくないの。

何とも不思議な雰囲気が漂ってるよ。

これはエオリア調の旋法(ラシドレミファソラ)が生み出しているものです

旋法とは、音と音との関係性を表したもの。正確な音の高さは決まっていません。

教会旋法は中世のグレゴリオ聖歌に使われたもので、現代の音階の基になりました。

14ある教会旋法の中でも、エオリア旋法は短音階の基になったとされています。

木琴とフルートの強烈な一撃から始まります。

その後に続くのは荘厳かつ、どこか沈鬱ささえ漂う曲。

二台のピアノの音も印象的です。


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