25曲 おお、運命の女神

文字数 2,808文字

いよいよ最後の曲だね
最後の曲は、最初の曲が繰り返されるんだ。

「カルミナ・ブラーナ」は、1曲と25曲が同じなのです。

でも最終曲はゆっくり重厚にするなど、演奏の仕方で違いを出すこともあります

最終曲を聴く前に、遍歴学生(ゴリアール)について見てみましょう。何しろ「カルミナ・ブラーナ」の多くの原詩を作ったのは彼らですから!
ヨーロッパでは中世に大きな文化の発展があったんだよね(12世紀ルネサンス)。

で、いくつかの都市に大学(ユニベルシタス)ができ始めるのです

あ~知ってる! ボローニャとか、パリとかでしょ

中世の大学は、設立母体が修道院や教会であることも。

学生たちは聖職者の一員として保護され、特権が与えられたんだよ

ちやほやされると、自分が偉くなったと勘違いしそうだな
若ければ余計に、ね

まさにその通り。

大学に行ける若者は幸運だったに違いないけど、当時は十字軍の失敗や、教会の堕落など世情不安も多かったの。苦労して大学を出たって、待っているのは大変な就職難……となると彼らは絶望し、問題行動を起こしちゃうことも。

次第に彼らは放蕩無頼の遍歴学生(ゴリアール、ゴリアルド)と呼ばれるようになっていきます

やっぱり?

ろくでなしの学生どもだな

確かに、彼らはお行儀が悪かったみたい(笑)。

でも彼らが作った劇薬のような風刺詩は、ラテン語の文学に新境地を開いたんだよ

下は15世紀のボローニャ大学の講義風景。初期にはキャンパスというものは存在せず、民家や教会で講義が行われていたようです
この真面目そうな学生たちが、どんな悪いことをするんだろ?
そりゃもう、教会をコケにして、盗みや強姦も厭わなかったんだって
中世の不良たちだね。

権威に楯突いて…

それが「カルミナ・ブラーナ」ってわけか

クラシック音楽だとはいえ、その真髄はロックだな
ではでは、チャットノベルでここまでの「おさらい」をしてみるとしましょう!

ここは森に囲まれた小さな村。

近くの町から、一人の遍歴学生がやってきます。今日はここでお祭りが開かれるので、憂さ晴らしに来たのです。


寒い冬がやっと終わった。

でもこれからは春。せめて女の子を引っ掛けたいな

などと思っていたら、ちょうど向こうから花かごを持った娘がやってきます。


森は花盛り。

春にはあらゆる命が芽吹くわ

おお、きれいなお嬢さん。僕と踊ってくれませんか?

冷めた目をして、なかなか答えない娘。

あいにく、この村には掟があってね。私たち夏の間は恋人を作っちゃいけないの

だけど周囲はイチャついているカップルだらけ。

今日はお祭り。この土地で遊ばない奴はバカだ、と言わぬばかりの空気です。

堅いこと言うなよ。誰にもわかりゃしないって。

いいだろ? ちょっと付き合うぐらい。

(ラテン語で口説くオレってかっこいいだろ。その辺の男と一緒にすんなよ)

貧乏でろくでなしの遍歴学生なんてお断り!

すたすたと、娘は歩き去ってしまいます。
あ〜、またフラれた。

クソっ。オレは将来有望な学生なのに。村中の期待を背負って留学しているのに。

田舎者は何も分かってないな

目的を果たせないまま、彼はむしゃくしゃして町へ戻ります。

そして今度は酒場へと繰り出します。

心の中はメラメラと。

留学したって、将来に希望は持てないし、女の子にもモテない。

故郷の人に会わせる顔がないよ。


酒で嫌なことを忘れるしかないじゃないか。

飲んで飲んで飲みまくってやる!

お兄さん、サイコロ賭博に参加しなよ
賭博か…

景気付けにそれもいいな

最初こそ若者は勝たせてもらえましたが、相手は玄人です。

状況はすぐに変わってきます。

う、嘘だろ。また負けた…
急に冷たくなって清算を求める店の男。
金がないのか?

だったらその服を脱いで置いて行け!

嫌だ。裸は勘弁してくれ!
急遽、居酒屋バイトで借金を返すことにした若者。

あ〜どこまでついてないんだ。

かつてのオレは、神童と呼ばれていた。白鳥のように美しかったんだ。

なのに今は何たるみじめ

だけど悪いことばかりじゃありません。

その後、がむしゃらに勉強したら、成績優秀で学寮のトップになったのです。


そんなある日、あの娘が訪ねてきました。

こんにちは♡
き、君は…

何しに来たんだ。遍歴学生は嫌いなんだろ?

乱暴な人が多いものね。

でもあなたは違うんじゃないかと思って

(ドキっ)

どういう意味?

そのままの意味よ。

優しそうなあなたのことが忘れられなくて。

恋人のいない女は寂し過ぎるわ

ほ、ほんと?
ねえ、この赤いトゥニカ、似合う?

あなたのためにオシャレしたのよ

すっごく似合ってるよ。

じゃあ、この小部屋に入って……

すぐに嫌らしいことを考えるのね
あ〜いや、そうじゃなくて、その……
正直、迷ってるの。

わがままな愛に惹かれるけど、貞節も大事よ。心の天秤が揺れ動いてる

下らない心配だね。

君はヴィーナスの神秘をくびきと言うのかい?

というわけで、二人は交際をスタート。
この上なく素敵なあなた。

あなたにすべてを捧げます

若者は有頂天ですが、彼女は高価な物をねだるようになっていきます。

彼女を満足させたくて、怪しげなバイトにも手を出してしまう若者。

あ~、幸せだ。

オレはすっかり絶好調。

あの娘への恋に完全に火がついた。

その恋で死にそうなのさ

次第に大学をサボるようになり、お酒と賭博にものめり込んでいきます。

当然、成績はがた落ち。


しかも素行の悪さがたびたび問題となり……

ついに彼は退学となってしまいました。

神学者への道を断たれてしまったのです。

これでは故郷にも帰れません。

……い、いや。どうってことないさ。

彼女はブランツィフロールやヘレナよりも美しいんだから

だけど彼女の正体は娼婦。他にも複数の男性を誘惑し、お金をだまし取っていたのです。

小間物屋さん、紅ください。

また男を引っ掛けるの

彼女が行方をくらまして、若者は愕然とします。

今になって、自分が何を失ったのかに気づきました。

オレとしたことが。

あんな女に騙されるなんて

幸運が砕け散った者たちよ。

さあオレと共に嘆くが良い!

……って感じかな。例えばの話ですが
即興で作ったのか?

かなりこじつけストーリーだな

運命を呪う主人公のお話は、どんな風にも組み立てられますね

こちらの動画も、日本語字幕が付いています。最後はこちらをご鑑賞ください。
最後にバイエルン州立図書館について、ちょっとだけご紹介。

「カルミナ・ブラーナ」を始め、有名な写本や活字印刷本(インキュナブラ)をたくさん所蔵しています。かつては王様しか上ることを許されなかった、この大階段も有名!

これが図書館の階段⁉

なんかスケールが違うな~

列柱の間を泳いだら気持ちよさそうだな
「序①」でご紹介したシュメラー(「カルミナ・ブラーナ」を出版した人)も、この図書館の職員でした。図書館は知の宝庫ですね!

図書館に行きたくなってきた

ま、外は暑いから、図書館で涼むのもアリだよな

ここの作者が図書館で働き始めたようですよ(笑)。

皆様、熱中症にはくれぐれも気を付けて~

ー完ー
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