8・9・10曲 小間物屋さん、紅ください 他

文字数 2,007文字

馬車のように始まる、軽快なスレイベル(鈴)の音。

同時に、何やら目立つ女性が出てきたようです!

小間物屋さん、紅ください

あたしの頬を染めるのよ

若い男たちを捕らえるためなんです

捕らえて紅の力で恋をするためなんです

さあ、あたしをご覧、若い男たち!

楽しませてあげよう

何だ、このケバい女?
ちょっと蓮っ葉な感じだね~
歌の方は、着崩した感じやうっとりとしたハミングなどが混じります。

となると、彼女の職業は何だか分かるでしょ(笑)?

中世には、キリスト教会の儀式から発展する形で「復活祭劇」が始まったとされています。

さらにその前段として、イエス・キリストが十字架上で死を迎える「受難劇」も始まりました。


カルミナ・ブラーナには二つの「受難劇」の詩があります。この歌は「大受難劇」と呼ばれる作品のうち、マグダラのマリアが登場するシーンから取られたものです。

中世において、マグダラのマリアは「罪のある女」と解釈されていました。聖書の記述とは異なるそうですが、この曲では敢えて中世の解釈そのままで作ってありますね。


……要するに、この歌は娼婦の歌なのです(笑)!

恋をしなさい 素敵な男よ

愛らしい女たちに!

恋は心を勇敢にし

高い誇りを与えるの

待ちに待った世界よ

歓びに満ち溢れた世界

私はあなたのしもべとなりましょう

いつもあなたの愛に捕らえられて

続いての「輪舞」は、またオーケストラから始まる曲です。

「輪を描いて踊るもの…おいで、おいで、私の友人たち」という副題が付いています

前半は優しげな踊りの曲が、オーケストラで演奏されます。

後半はガラっと雰囲気が変わり、弦楽器のピチカートから激しい曲調になっていきます。

ここで入るのが、次の歌。

美しく踊る娘たち。

だけど「挑発には絶対に乗らないわ」といった感じで、やや拒絶気味。

ここで彼女らは踊る 輪になって踊る

彼女らはみな乙女なのだ

誰も男を欲しがらない

この夏の間には!

ああ、スラ! (※スラの意味は不明)

男たちはめげずにアタック。

お誘いの言葉は、教養人のしるしであるラテン語です。

おいで、おいで、僕の恋人

一生のお願いだ

一生のお願いだ

おいで、おいで、僕の恋人

芳しいバラ色の唇よ

ここへ来て 僕を元気にしておくれ

ここへ来て 僕を元気にしておくれ

芳しいバラ色の唇よ

ここで彼女らは踊る 輪になって踊る

彼女らはみな乙女なのだ

誰も男を欲しがらない

この夏の間には!

ああ、スラ!

娘たちが誘いに応じるかどうかは、神のみぞ知る……
おいおい、何かやべーぞ、この歌。

「元気にしておくれ」って、そういう意味だろ?

ドキドキしちゃうねー
「カルミナ・ブラーナ」には、ラテン語ではない歌も含まれます。

この曲も古ドイツ語ですが、一説によると土着言語は女性が歌う部分とのこと。

当時のラテン語は教養人による国際語でしたが、話せるのはほとんど男性でしたから…

え、そーなの?
当時はそうだったんだね。つまり男性のラテン語による愛の呼びかけに、女性が古ドイツ語で答え、輪になって踊るイメージ!
参考:クリストファー・デ・ハーメル『世界で最も美しい12の写本』
さらに次の曲もいっちゃおう。

「たとえこの世界がみな」という歌です。

たとえ世界が全部我が物になるのでも

海からライン河まで全部そうであっても

私は敢えて放棄するだろう

英国の女王を

この腕に抱くためなら……!

壮大で真面目な内容かと思ったら、これもエロだった
スケールはめっちゃデカいね〜!
この「英国の女王」が、誰を指しているのかは分かりません。

でも中世ヨーロッパの女傑として知られるアリエノール・ダキテーヌという女性は、チェックしておいて良いかも。フランス王妃でありながら十字軍の遠征に自ら参加し、その後離婚して今度はイングランド王妃になったという、すさまじい経歴の持ち主です。美人で奔放で、しかも好戦的だったと言われます。

↓ちなみに、この騎馬の女性です

……よく分からんが、確かに怖そうな女だな
これほどの女性をも征服したい~という、

熱く壮大な歌なんだね

オルフもこういう詩を気に入って取り上げたんだ?
実は「カルミナ・ブラーナ」が発表された1937年の前年、いわゆる「王冠をかけた恋」のニュースが世界中を駆け巡ったんだ。

イギリス国王エドワード8世が、離婚歴のある女性シンプソン夫人と恋に落ち、彼女と結婚するために王位を捨てたのです!(有名な事件です)

この詩が選ばれたのは、事件と関係があるのでは、と言われているよ

「小間物屋さん、紅ください」は19.40~。女性小合唱によって歌われる、いかにも楽し気なメロディーです。

「輪舞」は23.09~。穏やかなオーケストラで始まりますが、途中でドラマチックな合唱に取って代わられます。

「たとえこの世界がみな」は27.57~。短い曲ですが、金管楽器のファンファーレが力強く、印象に残る曲です。

80年代のベルリンフィル。
金管楽器の上手いことといったらないですね~!

思わず拍手してしまいます

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