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文字数 1,097文字

 これは僕たち大人の責任なのだけど、「好きなことばかりしていては我慢強い人間になれない」という見方をする人たちがいる。
 でもそれは、「自分はそうしてきた、我慢して生きてきた」人間が言うことで、自分がそうしてきたから、きみたちにもそれを求めるんだ。

 我慢というのは、ここまでできる、これ以上できない、って限界がある。これもひとりひとり、違うものなんだよ。

 たいていの大人たちは会社で働いているね。そこにもやっぱり自分と違う人たちばかりで、中には意地悪な人間もいる。その人の命令を多くの人が聞くことになる。聞きすぎて、夜眠れなくなったり、生きているのがイヤになったり、してしまう人もいる。
 そういう人は、限界を超えてしまったんだ。

 きみたちは、身体を持っているね。ひとりひとり、違う身体だ。この身体は、チャンと、「もうやめてくれ」ってきみに訴えてくるんだよ。食欲がなくなったり、朝起きれなくなったりね。
 そういう時にずっと無理をしていると、病気になってしまうかもしれない。身体の病、気持ちの病があるけれど、今は気持ちの病気が流行っている。

 この病気は、悪くなると、「もう生きていたくない」になっちゃうんだ。
 誰でも、そういう病気になれる。大切なのは、そうなる前に、我慢することをやめることだよ。

 ただ、ここでも、ほんとうに考えなくちゃいけない。どこまでが、自分の限界なんだろう、と。
 でないと、ほんとうに自分を知ることにならないからね。いいチャンスなんだよ、こういう時は。

 もしきみのそばで、気持ちの病気で苦しんでいる人がいたら、その人に寄り添ってほしい。その人が、ほんとうに限界まで来ているのか、きみも考えてあげてほしい。
 きみ自身が、限界の苦しさを知っているなら、そうすることができるはずだよ。

 さっきも言ったように、自分の好きなことをすれば、限界というものも見えてくる。きみが本気でやり続けようとしたことに、くじけた時、きみは限界を知ったんだ。気持ちの苦しみは、その人とどんなに理由が違っても、同じ苦しみなんだよ。

 イヤなことをしないと、我慢強くなれない。そんなことを言う大人は、狭い道しか歩いて来なかったと僕は思う。自分がこうして来たからって、それを絶対だ、ってしてしまうんだ。

 いいかい、大切なのは、本気であることだ。本気で、好きなことをして、好きなことをする中でつらかったり苦しい時があっても、きみはそれを我慢することができるだろう。
 そこからきみは、ほんとうにきみを知っていくことになる。かけがえのない、ほかの誰でもない、きみしかいない、生きている・生きていくことを、知ることになる。
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