1・抗議が来るのは想定内

文字数 1,124文字

「池内いいいい!」
 ここで会ったが百年目。
 いつものようにゴルフクラブを持ち、玄関から出たところで悲壮な声を聴く。だが、問題はない。いざとなったら、このゴルフクラブで返り討ちに……。

「なんなんだ、これは! 何か恨みでもあるのか?!
 揃いもそろって、『一八五番目の殺人~男たちの賛歌~』のパンフレットを目の前に突き出すのは、三多と蒼姫。
 元気そうで何よりだ。
「観に行ったのか?」
 ゴルフクラブを構え、二人に問う蓮。
「行ったよ、行きましたとも!」
と蒼姫。

「相模嬢が是非にというものだから」
と三多。
 どうやら二人で観に行って、二人で股間を抑えながら帰ったらしい。
「そりゃあ、相模さんのお奨めなら行くでしょう」
と蒼姫。
 悠がまともな映画を観ているのを見たことがない蓮としては、複雑な笑みを浮かべるしかなかった。
「そんなこと、俺に言われても困るよっ」
と蓮はゴルフクラブを振りあげる。
「ナイスショット」
 素振りだ。
 だがその声は三多でも蒼姫でもない。

「ん?」
 蓮が不思議に思って振り返ると、仁王立ちした悠が立っていた。
「受付お嬢」
「蓮を苛めないでよね!」
 悠はプンスコしている。

──蓮は繊細なんだから!

「いやいやいやいや。待って相模嬢。俺たちは股間をいじめられたんだが?」
 何にだ。
「あんな、股間に大ダメージを受ける映画だとは……」
 思い出したのか、蒼姫は股間を抑えている。
「蒼姫くんも三多くんも、蓮をいじめたんだからそのくらいの罰は必要でしょ?」
 
──そうよ! わたしの可愛い蓮を苛めたんだから。

「ちょ……俺いじめられてんの?」
 蓮が悠を宥めようとするも、右から左。
「ほら、相模嬢。池内も俺たちの無罪を証明している。いじめられてないと」
 そもそも何を指して『いじめた』と言っているのかもわからないが、股間の危機である。蒼姫も三多もそれどころではなさそうだ。
「はい、じゃあ次はこれ。持ってきたから観てね」
 悠の手元をみた蓮がぎょっとする。
 それは昨夜、レンタルビデオ屋に行って購入した『戦場のアナルリスト』

「悠、それはちょっと……」
と素で止めにかかる、蓮。
 しかし会社で彼が悠の名前を呼ぶことが初めてだったので、そのことに萌えた。
「え? 何」
「なんでもないよー?」
 蓮の腕にしがみつき、社内へ誘導する。
「ちゃんとそれ! 感想寄こしてよね」
と三多と蒼姫に告げて。
「見る時、毛糸のパンツはいた方が良いよ」
と言う、蓮の助言付き。

 悠は自分の腕を彼に巻き付け、
「蓮、初めてわたしの名前呼んだー」
と嬉しそうに笑うが蓮は無意識に呼んだことに気づいていないよう。
「ん?」
 うふふと蓮を見上げていると社内の奥から、
「そこオ! イチャイチャしない!」
と社長に怒られたのだった。
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