7・スピード感を持ちすぎる?!

文字数 1,231文字

「はあ?!
 悠に言えないことはたくさんある。
 これもまたその一つだ。

「池内。今、同棲って言ったか?」
と三多。
「急展開過ぎるだろ!」
と蒼姫。
 蓮は相変わらず玄関先でゴルフクラブを振っていた。
「付き合って半年でフラれて、ヨリ戻して初デート」
「初デートで初エッチになだれ込んだと思ったら、同棲かよ! 重すぎるだろ、それ」
 三多と蒼姫が交互に経緯を辿る。
「うるさいなっ」
と蓮はゴルフクラブを振りあげる。
「ナイスショット」
とハモる三多と蒼姫。
 素振りだ。

「で、相模さんはなんて?」
 急に声を落としひそひそ話を始める三多。
 蒼姫はチラリと社内に視線を送った。
「一日待ってって言われた」
 蓮はため息をつき、再び狙いを定める。
「なんなの? することしちゃったから責任とります的な、あれなの?」
「違う」
 蒼姫の質問にしっかりと否定する蓮。
 それについては悠にも同じ質問をされたのだ。

『ねえ、蓮。責任を取ろうととかそういうのなら、良いからね?』
 悠は優しい。とても。
『合意の上だったし、わたしが望んでこうなったんだから』
 彼女の初めての相手になれたことは嬉しい。
 ホントに良いのか、何度も確認した。
 後悔して欲しくなかったから。
『違うんだ。そうじゃなくて、俺は……』

「デートに誘えなかった理由もそうだけれど、もっと一緒にいる時間が欲しいなって思ったから」
 おかしな始まり方だったから自信が持てなくて。
 それどころか、どうやってデートに誘ったらいいかも分からないままフラれた。返す言葉が見つからなくて、彼女の背中をただ見送ることしかできなかっのだ。
 やっぱり自分だけが好きだったんだと思って追いかけなかった。
 追っても無駄だと思ったから。

「それで同棲って……まともにお付き合いもしてないのに大丈夫なのか?」
 三多の心配はもとっもだと思う。
 互いのことを良く知らないのに、一緒に暮らすのは楽じゃないだろう。
 それでも、もっと一緒にいたいと思ったのだ。
 たった一回のデートに運命を感じるほどに。
「お前、重たいやつだったんだなあ」
と蒼姫。

 蒼姫の言葉にはショックを受けたが、翌日悠は約束通り返事をくれた。
「昨日ね、両親に蓮のことを話したの。もちろん同棲のことも。そしたら、反対はしないけれど一度会いたいって。どうする?」
 最初から前向きに考えてくれていたことを知って嬉しくなる。
「挨拶に伺うのはもちろんだけれど、悠はいいの?」
 名前で呼ぶことになったのも、別れを切り出されたことがきっかけ。
 それくらい順番の滅茶苦茶な恋愛だ。
「わたしは、蓮が思ってるいるよりもずっと……あなたのことが好きよ?」
 優しく微笑む彼女を蓮は思わず抱きしめた。
 彼女を知るたびに好きになる。
 それなのに……

「ちょ……物騒なこと言っちゃだめだよ」
 今、目の前にいる悠の怒りは蒼姫に向いている。
「蓮は少し怒った方がいいわ!」
「そんなこと言われても……」
 彼女を怒らせてばかりいる自分に、不甲斐なさを感じるのであった。
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