1・抗議のおまんじゅう
文字数 1,167文字
おまんじゅうねえ、と思いながら蓮はマグカップを持って立ち上がると給湯室へ向かった。
茶色の薄皮饅頭。こしあんだ。
程よい甘さで緑茶に合うに違いない。
ワイシャツの袖を捲り、ネクタイをシャツの間に挟むと給湯室の入り口から何故かシャツター音。
「?」
マグカップに伸ばした手を止め、音のする方に視線を向けるとスマホを構えた悠がいた。
「何してるの」
「えー、腕まくりがカッコいいから撮ってた」
「今、業務中でしょ?」
まんじゅうを食べようとしている自分も自分だが、業務中に彼氏の写真を撮っている悠も悠だと思う。
「それより何か揉めているみたいよ?」
と悠。
彼女に言われて給湯室からフロアへ顔を出すと確かに社長と社員たちが揉めていた。
「池内くんにだけおまんじゅうあげるなんてズルいです! 贔屓です」
「俺たちにもください」
普段お土産で貰うおまんじゅうに反応を示さない者も混じっているようだ。
「ちょっと待って君たち。そんなにおまんじゅう好きだった?!」
社長は困惑している。
「社長がくれるなら貰うに決まっているじゃないですか!」
蓮は肩を竦めると再び給湯室へ戻った。
「みんな社長大好きだもんね」
と悠。
蓮は特に返答をせずにマグカップを洗うと緑茶のティーパックを缶から取り出す。
「半分食べる?」
と問えば、悠はフロアへ視線を向けた後 、
「買ってくることになりそうだから、様子見」
と。
「大変ねえ、社長」
悠はお茶を注ぐ蓮の手元を見ながら。
社長が蓮を気に入っているのは何も、優秀だから……だけではないのだ。
彼はスキンヘッドで怖そうに見えるが、人と話すのが大好き。今でこそ、社員たちと呑みに行くこともあるが、以前はその容姿のせいで恐れられていたのである。
髪(紙)がないや、禿(剝)るなど頭にまつわる用語が社員たちの間で禁句とされていたほどに。
だが蓮は違った。変に気を使うことなく、普通に接していたのだ。
その効果もあり、社員たちも社長へ恐々接するのを止めた。
蓮がクレイジーな行動に出だしてからは、社長は愛される人気者。
「これ、株原の蒼姫くんが持ってきてくれたやつなのよね。新商品の試食とかで」
「えー」
社員たちからはブーイングの嵐。
「しょうがないな。三多くーん!」
社長は蒼姫と懇意にしている三多を呼びつけた。
「どうやら三多くんが捕獲されたみたいよ?」
と様子を見ていた悠。
どこで買えるのか聞いて、人数分買って来いという指令が出たようだ。
「人数分ってかなりの量だけど」
蓮は緑茶を一口含むと、それを持ってフロアへ。
「蓮?」
「お使い手伝おう。行くよ、受付お嬢」
言って蓮が自分のデスクへ向かう。
「ちょっとー。名前呼びなさいってば」
蓮はカップを置き、上着を掴むとチラリと悠に視線を向ける。
彼女は慌てて上着を掴むと、三多を追って玄関へ向かうところだった。
茶色の薄皮饅頭。こしあんだ。
程よい甘さで緑茶に合うに違いない。
ワイシャツの袖を捲り、ネクタイをシャツの間に挟むと給湯室の入り口から何故かシャツター音。
「?」
マグカップに伸ばした手を止め、音のする方に視線を向けるとスマホを構えた悠がいた。
「何してるの」
「えー、腕まくりがカッコいいから撮ってた」
「今、業務中でしょ?」
まんじゅうを食べようとしている自分も自分だが、業務中に彼氏の写真を撮っている悠も悠だと思う。
「それより何か揉めているみたいよ?」
と悠。
彼女に言われて給湯室からフロアへ顔を出すと確かに社長と社員たちが揉めていた。
「池内くんにだけおまんじゅうあげるなんてズルいです! 贔屓です」
「俺たちにもください」
普段お土産で貰うおまんじゅうに反応を示さない者も混じっているようだ。
「ちょっと待って君たち。そんなにおまんじゅう好きだった?!」
社長は困惑している。
「社長がくれるなら貰うに決まっているじゃないですか!」
蓮は肩を竦めると再び給湯室へ戻った。
「みんな社長大好きだもんね」
と悠。
蓮は特に返答をせずにマグカップを洗うと緑茶のティーパックを缶から取り出す。
「半分食べる?」
と問えば、悠はフロアへ視線を向けた
「買ってくることになりそうだから、様子見」
と。
「大変ねえ、社長」
悠はお茶を注ぐ蓮の手元を見ながら。
社長が蓮を気に入っているのは何も、優秀だから……だけではないのだ。
彼はスキンヘッドで怖そうに見えるが、人と話すのが大好き。今でこそ、社員たちと呑みに行くこともあるが、以前はその容姿のせいで恐れられていたのである。
髪(紙)がないや、禿(剝)るなど頭にまつわる用語が社員たちの間で禁句とされていたほどに。
だが蓮は違った。変に気を使うことなく、普通に接していたのだ。
その効果もあり、社員たちも社長へ恐々接するのを止めた。
蓮がクレイジーな行動に出だしてからは、社長は愛される人気者。
「これ、株原の蒼姫くんが持ってきてくれたやつなのよね。新商品の試食とかで」
「えー」
社員たちからはブーイングの嵐。
「しょうがないな。三多くーん!」
社長は蒼姫と懇意にしている三多を呼びつけた。
「どうやら三多くんが捕獲されたみたいよ?」
と様子を見ていた悠。
どこで買えるのか聞いて、人数分買って来いという指令が出たようだ。
「人数分ってかなりの量だけど」
蓮は緑茶を一口含むと、それを持ってフロアへ。
「蓮?」
「お使い手伝おう。行くよ、受付お嬢」
言って蓮が自分のデスクへ向かう。
「ちょっとー。名前呼びなさいってば」
蓮はカップを置き、上着を掴むとチラリと悠に視線を向ける。
彼女は慌てて上着を掴むと、三多を追って玄関へ向かうところだった。
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