2・お洒落でしょ

文字数 1,123文字

「いーけーうーちーくーん!」
 ドドドドと、効果音が付きそうな勢いで、いつも通り社長が蓮のデスクを目指して走ってくる。この会社はワンフロア式。パテーションだけで課が区切られていた。
「なんです? 社長」
「もう! なんで。なんでなの! 営業部があんなに必死で仕事を50件も取ってきたのに、全部やっちゃうの!」
「営業部と50回もヤッてませんよ?」
 蓮は涼しい顔をしてキーボードを叩いている。

「んもー! 池内くん?!
「そんなにカッカしていると、バケ……てます」
 蓮はバケますよと言おうとし、社長を二度見してから言い直した。
「誰のせいだと思ってるの!」
と、社長。
「パイパンも悪くありませんよ」
「きいいいい! スキンヘッドをパイパンとは言わないでしょ!」
「ツルパなら、毎日違うヅラでお洒落できるじゃないですか」
 ニコニコと社長を見上げる、蓮。
「社長、俺とおそろいにしますか?」
 自分の頭をポンポンと叩く蓮に、社長は目を見開いた。
「ま、まさか。池内くんも……」
 すると、蓮は急に真面目な表情になり、
「いえ、俺はパイパンじゃないです。地毛です」
とハッキリそう返答する。
「きいいいい!」
 社長は発狂した。
「営業部ー!」
 今日も怒りの矛先は、別な場所へ向かうらしい。

 そんないつもの風景を、頬杖をつき眺めている悠。
 ”営業部ったら、どうやって50件も仕事を取って来たのかしら”と思っていると、丁度蓮のところへ向かう営業部の面々。
「池内、今日の合コンちゃんと来いよ」
「んー」
 蓮は気のない返事をしている。これは一体どういうことなのか! 悠は徐に立ち上がると、蓮の元へ。
「ちょっと、どういうことよ!」
 私というものがありながら。という言葉を飲み込んで。
「おう、受付お嬢」
「合コンなんて聞いてないわよ」
「俺もさっき、聞いた」
 こちらを見上げる蓮の顔はイケている。脳内はイケてないが。

「あ、悠ちゃん。池内と付き合ってるんだっけ?」
 ごめんねと両手をあわせる、営業部の男性。
「突きあってなどいない、突く突かれの関係だ」
と、横から蓮が口を出すが、悠は張り手をして黙らせた。
「痛っ。激しいな、受付お嬢」
「いやあ、こいつを餌に仕事を取って来たんだよ」
 どうやら、池内の写真をばらまいたらしい。
「コイツ、見かけだけは良いから」
 それもどうなんだ、と思いつつ。
「心配なら、悠ちゃんもおいでよ」
と、営業部の男性。蓮のモテ具合いは心配などしていないが、即決で行くことに決める。いろいろと別な部分が心配だからだ。
「なんだ、俺が心配なのか? かわいいや……ぐはっ」
 やかましいと更に張り手を決める、悠。行くことに決めたものの、”そう言えば私お酒飲めないんだったわ!”と別な心配をするのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み