4・同棲中の二人

文字数 1,057文字

 人には二つのルートがあると思う。
 一つは知れば知るほど好きになる。
 もう一つは、知ると段々嫌になる。

 少なくとも……ううん。
 わたしにとって連は前者。

 少し仮眠を取ったせいか、先ほどよりはマシになった蓮。ぎゅっと手を繋ぎながらマンションの部屋に向かう。
 同棲を始めたのは、付き合い始めて割と早い段階だった。

──こうなったのは、喧嘩が発端だったのよね。
 とは言え、一方的にわたしが怒っていただけなのだけれど。
 だって恋人って言う割にはデートにも誘ってくれないし。

『何よ。池内くんの言うおつき合いって、身体の関係だけなの?!
と言ったら、彼は真っ赤な顔をして、
『そういうのは、まだ早いと思うんだけど……』
と目を泳がせていた。

──そんなの。
 きゅんとしちゃうに決まっているじゃない!
 普段は下ネタばっかり言っているくせに、あんな反応されたら萌えるわ!

 だがその時は、相当頭にきていたため、
『形だけのお遊びにつきあってられない! 別れましょう』
とまだデートすらしていないのに、悠は一方的に別れを突きつけたのだった。

 ”あの時は色々あったなあ”と想いを馳せていると、いつの間にか玄関の前にいて、彼が困った顔をしてこちらを見ている。
「うん? どうしたの?」
と首を傾げ、彼を見上げる悠。
「あ、いや。行きたくないなと思って」
 蓮がなんでも本音を漏らす相手は、自分だけなのだと気づいたのはいつだったか。彼とおつき合いを始めてから、かれこれ一年近くになるが、悠だけが知っていることは意外と多い。

 外で明るく振舞っている彼だが、本当は静かなのが好き。
 恋人とイチャイチャしていたい人。
 ツマラナイ人と元カノにフラれたことがトラウマでクレイジーな言動に出るようになったこと。 
 実は純情で、一途。

「そんなわけにはいかないよね」
 彼はそう呟くと、ポケットから鍵を取り出してドアを開ける。
「悠、シャワー先にいいよ」
 いつもなら、一緒に入る? と冗談を言う彼の元気がない。
 疲れているのかもしれない。
 靴を脱ぎ、玄関に上がる蓮。
 それに続く悠。
「蓮」
 名前を呼べば、彼はどうしたの? と言うように振り返る。

──会社とのギャップがあり過ぎるのよ。

 悠はその蓮の襟元を掴み、背伸びすると彼に口づけた。
「ちょ……」
 自分からするのは平気なくせに、不意打ちに弱い彼が可愛い。
 赤い顔をして口元に腕をあてる蓮。
「疲れてる?」
と優しく問うと、
「そういうわけじゃないんだけれど……」
と口ごもる。
 
 なんだか浮かないその理由(わけ)は、後ほど知ることになるのだった。
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