第20話 芦屋祐一郎~転生
文字数 2,649文字
芦屋祐一郎は、このエルフ王国の西隣りにある人族のソウラ王国で千年前に誕生した。
両親は人族の平民で、冒険者をしていたが、あるクエストに挑んでいた最中に父親が怪我をし、冒険者を引退、妻と食堂を営んでいた。
なかなか子供に恵まれなかったが、あきらめかけた頃、玉のような男の子を授かったのだ。
名は、ユーイチローと名付けた。
珍しい名前であったが、両親とも何となく浮かんだ名でとても気に入っていた。
ユーイチローは、素直な優しい子で両親の愛情を受けすくすくと育った。
ところが、ユーイチローが幼い頃、はやり病に罹り生死の間をさまよったことがあった。
一週間ほど高熱が続き、一時はもうだめかと医者も匙を投げたのだが、奇跡的に回復し全快したのだった。
久しぶりにベッドから起き上がることのできた日は、ユーイチローの5才の誕生日だった。
その時、異変が起きた。
母親のルイーズがユーイチローのベッドに彼の大好物である米に似た豆をすりつぶしたお粥 を持っていくと、ユーイチローは、何か困惑したような顔で部屋を見回していたのだ。
それから自分の体を触っていたが、しばらくすると突然泣き出したのだ。
泣きながら意味の分からない聞いたことのない言葉を言い、時々、悲痛な声で、
「ユーマ、アカネ・・・」と呟 き、泣き止まなかったと言うのだ。
ルイーズが驚いたのはそれだけではない。
ユーイチローからは魔力反応が全く失くなっており、再び昏倒したのだった。
エスタムンドの生きとし生けるものには程度の差こそあれ全て魔力が宿っている。
魔力が失くなるのは、死亡してしばらくした状態なのだ。
だが、ユーイチローは生きており、ただ昏睡状態が続いたのだった。
ルイーズは慌てて夫を呼び、夫婦は医者にも往診を頼んだのだが、原因は分からなかった。
ルイーズと夫のヨハンは、交代で24時間息子に付き添い看病した。
三日後に目を覚ましたユーイチローの外見はいつもの息子であったが、瞳には子どもとは思えない知性と意志の強さを感じさせるものがあった。
そればかりではなく、ユーイチローの魔力が桁外れに増大していたのだ。
母のルイーズは、魔法使いであった。
使える魔法は、生活魔法であり、一鍋分の水を出すことの出来る水魔法、その水を沸騰させたり凍らせることが出来る火魔法と氷魔法、それに、ランプほどの明るさを指先から出す明滅魔法も得意だったので冒険者時代の野営では重宝したものだ。
当然、相手の魔力を感じることにも長 けていたが、三日間の昏睡状態から覚めた息子の魔力は全く計り知れないほど膨大だったのだ。
これに似た現象は「魔力酔い」という名であることにはある。
冒険者は、「魔物の森」という魔力の元となる魔素が異常な量で滞留している場所に入った時、眩冒 を起こし意識も失くすことがある。
しかし、それは殆どの場合2~3秒であり、長くても1分程度である。
魔力酔いが治ると通常に戻るのだが、体内の魔力量がほんの少量ではあるが、増大する。
意識を失くした時間が長いほど魔力量が多くなるのであるが、活動には全く影響がない程度であり、魔物の森から出れば自然と元の状態に戻るのである。
だが、ユーイチローの魔力は目覚めても減少する様子は全くなかった。
このような事例はルイーズにとっても初めてであったが、再度往診を頼んだ医者も前例はないが時間が経てば元に戻るだろうと言って帰ってしまった。
ところが、ユーイチローの魔力は元に戻るどころか少しづつ増えているのではないかと思えるのだった。
このままでは増える魔力に身体が適応できず不測の事態を招くのではないかと心配したルイーズはわが子に魔法を教えることで魔力を発散させることは出来ないかと考えた。
それまではユーイチローの魔力量は、他の魔法が使えない子どもに比べても極端に少なかったためルイーズは魔法を教えたことがなかったのだ。
ところが、ユーイチローはルイーズの生活魔法を一日で習得すると、さらに自分で様々な魔法を作り出すようになったのだった。
そればかりか、日が経つにつれユーイチローの茶髪碧眼は黒目黒髪へと変化したのだった。
ルイーズとヨハンは驚くとともに、息子は、はやり病が切っ掛けで『ノアの民』への先祖帰りをしたのではないかと考えた。
古 の『ノアの民』は黒目黒髪だったとの言い伝えがあるからであった。
それならば、絶対に秘密にしなくてはならない。
自分たちが王族か貴族ならよいのだが、そうでなければ強欲な領主や冒険者ギルドに良いように利用され搾取 された挙句に命を落とす羽目になるのが目に見えていたからだ。
ルイーズとヨハンはユーイチローを隣国の森の民の王国(当時、エルフ王国は、こう呼ばれており、エルフ王国の正式名称)にいるかつての冒険者時代の友人に預けることにした。
その友人の名はシンセラと言う男性で、本名はシンセラ・フォン・グワデアンと言い、エルフの王族でありながらルイーズ夫婦以外にはそれを隠して冒険をしていたが、ルイーズたちが冒険者を辞めた時、彼も故郷に帰って婚約者と結婚しており、ユーイチローと同じ歳の「アカネ」という名の娘がいた。
シンセラは、ルイーズたちの願いを快く受け入れユーイチローを引き取った。
エルフは人族と比べ魔力量が多く魔法に長けている者が多い。
シンセラもルイーズと同じく生活魔法は勿論使えるうえ、それ以上に回復魔法と攻撃魔法が得意で、森で暮らすエルフが普段使わない大規模な火魔法も戦闘ではよく使っていた。
シンセラは王族であり、『ノアの民の末裔』としての血を濃く受け継ぎ、魔法の技量は他の追随を許さないものがあったが、そのシンセラをしてユーイチローは末恐ろしいほどの魔法の才能があると感嘆せしめたのだった。
ユーイチローは両親と離れ寂しくもあったが、シンセラのもとで日々学問、武芸、そして魔法の研鑽を積んでいったのだった。
ユーイチローが研鑽に励む日々が続き、10才の誕生日を迎えた日、故郷から伝書鳥による速達便がユーイチローに届けられたのだった。
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『ノアの民』、『ノアの民の末裔』、「アカネ」については、後のエピソードの中で説明します。
「森の民」や「エルフ」についても後のエピソードで言及します。
両親は人族の平民で、冒険者をしていたが、あるクエストに挑んでいた最中に父親が怪我をし、冒険者を引退、妻と食堂を営んでいた。
なかなか子供に恵まれなかったが、あきらめかけた頃、玉のような男の子を授かったのだ。
名は、ユーイチローと名付けた。
珍しい名前であったが、両親とも何となく浮かんだ名でとても気に入っていた。
ユーイチローは、素直な優しい子で両親の愛情を受けすくすくと育った。
ところが、ユーイチローが幼い頃、はやり病に罹り生死の間をさまよったことがあった。
一週間ほど高熱が続き、一時はもうだめかと医者も匙を投げたのだが、奇跡的に回復し全快したのだった。
久しぶりにベッドから起き上がることのできた日は、ユーイチローの5才の誕生日だった。
その時、異変が起きた。
母親のルイーズがユーイチローのベッドに彼の大好物である米に似た豆をすりつぶしたお
それから自分の体を触っていたが、しばらくすると突然泣き出したのだ。
泣きながら意味の分からない聞いたことのない言葉を言い、時々、悲痛な声で、
「ユーマ、アカネ・・・」と
ルイーズが驚いたのはそれだけではない。
ユーイチローからは魔力反応が全く失くなっており、再び昏倒したのだった。
エスタムンドの生きとし生けるものには程度の差こそあれ全て魔力が宿っている。
魔力が失くなるのは、死亡してしばらくした状態なのだ。
だが、ユーイチローは生きており、ただ昏睡状態が続いたのだった。
ルイーズは慌てて夫を呼び、夫婦は医者にも往診を頼んだのだが、原因は分からなかった。
ルイーズと夫のヨハンは、交代で24時間息子に付き添い看病した。
三日後に目を覚ましたユーイチローの外見はいつもの息子であったが、瞳には子どもとは思えない知性と意志の強さを感じさせるものがあった。
そればかりではなく、ユーイチローの魔力が桁外れに増大していたのだ。
母のルイーズは、魔法使いであった。
使える魔法は、生活魔法であり、一鍋分の水を出すことの出来る水魔法、その水を沸騰させたり凍らせることが出来る火魔法と氷魔法、それに、ランプほどの明るさを指先から出す明滅魔法も得意だったので冒険者時代の野営では重宝したものだ。
当然、相手の魔力を感じることにも
これに似た現象は「魔力酔い」という名であることにはある。
冒険者は、「魔物の森」という魔力の元となる魔素が異常な量で滞留している場所に入った時、
しかし、それは殆どの場合2~3秒であり、長くても1分程度である。
魔力酔いが治ると通常に戻るのだが、体内の魔力量がほんの少量ではあるが、増大する。
意識を失くした時間が長いほど魔力量が多くなるのであるが、活動には全く影響がない程度であり、魔物の森から出れば自然と元の状態に戻るのである。
だが、ユーイチローの魔力は目覚めても減少する様子は全くなかった。
このような事例はルイーズにとっても初めてであったが、再度往診を頼んだ医者も前例はないが時間が経てば元に戻るだろうと言って帰ってしまった。
ところが、ユーイチローの魔力は元に戻るどころか少しづつ増えているのではないかと思えるのだった。
このままでは増える魔力に身体が適応できず不測の事態を招くのではないかと心配したルイーズはわが子に魔法を教えることで魔力を発散させることは出来ないかと考えた。
それまではユーイチローの魔力量は、他の魔法が使えない子どもに比べても極端に少なかったためルイーズは魔法を教えたことがなかったのだ。
ところが、ユーイチローはルイーズの生活魔法を一日で習得すると、さらに自分で様々な魔法を作り出すようになったのだった。
そればかりか、日が経つにつれユーイチローの茶髪碧眼は黒目黒髪へと変化したのだった。
ルイーズとヨハンは驚くとともに、息子は、はやり病が切っ掛けで『ノアの民』への先祖帰りをしたのではないかと考えた。
それならば、絶対に秘密にしなくてはならない。
自分たちが王族か貴族ならよいのだが、そうでなければ強欲な領主や冒険者ギルドに良いように利用され
ルイーズとヨハンはユーイチローを隣国の森の民の王国(当時、エルフ王国は、こう呼ばれており、エルフ王国の正式名称)にいるかつての冒険者時代の友人に預けることにした。
その友人の名はシンセラと言う男性で、本名はシンセラ・フォン・グワデアンと言い、エルフの王族でありながらルイーズ夫婦以外にはそれを隠して冒険をしていたが、ルイーズたちが冒険者を辞めた時、彼も故郷に帰って婚約者と結婚しており、ユーイチローと同じ歳の「アカネ」という名の娘がいた。
シンセラは、ルイーズたちの願いを快く受け入れユーイチローを引き取った。
エルフは人族と比べ魔力量が多く魔法に長けている者が多い。
シンセラもルイーズと同じく生活魔法は勿論使えるうえ、それ以上に回復魔法と攻撃魔法が得意で、森で暮らすエルフが普段使わない大規模な火魔法も戦闘ではよく使っていた。
シンセラは王族であり、『ノアの民の末裔』としての血を濃く受け継ぎ、魔法の技量は他の追随を許さないものがあったが、そのシンセラをしてユーイチローは末恐ろしいほどの魔法の才能があると感嘆せしめたのだった。
ユーイチローは両親と離れ寂しくもあったが、シンセラのもとで日々学問、武芸、そして魔法の研鑽を積んでいったのだった。
ユーイチローが研鑽に励む日々が続き、10才の誕生日を迎えた日、故郷から伝書鳥による速達便がユーイチローに届けられたのだった。
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『ノアの民』、『ノアの民の末裔』、「アカネ」については、後のエピソードの中で説明します。
「森の民」や「エルフ」についても後のエピソードで言及します。