第5話 カーリー屋崎
文字数 1,480文字
真理は、華道教室に通い始めた。
教室の講師は、華道「日月流」の本部から派遣されていた。
真理が、教室に通い始めて三ヶ月経った頃、教室にハプニングが起きた。
教室にカーリー屋崎が、突然顔を出したのだ。
カーリー屋崎は、日月流の特別師範であるが、流派を越えた空間芸術としてのいけばなを確立し、フラワーアーティストとして、個展を開けば、国内は勿論、海外においても高く評価されている人物である。
その日、彼は、生徒一人一人に実技指導を行った。
授業が終わり、生徒たちは興奮冷めやらぬ思いで帰路に就いたのだが、三名の生徒が教室に残るよう講師から指示された。
その中の一人が真理であった。
カーリー屋崎は、多忙を極めていた。
流派の特別講師としての活動、出版、タレントとして週に数本のレギュラー出演、日本各地および海外での個展の開催、また、国内で開催される国際会議や国の重要な式典に際し、花の総合プロデュースを依頼されることはしばしばであった。
さらに東京パレス・ヘストンホテルとは専属契約を結び、ホテルのエントランスを始め各階の要所は勿論、その日の各室における催しに応じた花の装飾を一手に引き受けていたのだった。
日本最大のホテルのいけばなは、毎日膨大な量とその目的に応じて多種多様な趣が要求され、彼は、多くのスタッフを雇い、それに応じていたのだった。
だが、それも限界に近くなっていた。
特に、彼の意向を汲んでホテルに毎日常駐し、スタッフを纏める現場の総監督ともいうべき人材の確保は喫緊の課題であったのだ。
そのため、彼は、各地の後輩講師たちに頼んで人材の発掘に勤しんでいたのだ。
真理の通う教室の講師もカーリー屋崎から良い人材が居たら連絡をしてくれと頼まれていた。
だが、なかなか良い人材はいなかったのだが、三ヶ月前に入室した真理には天賦の才能があり、単に流派の技術に留まるだけでは勿体ないと思わせるものがあった。
講師がカーリー屋崎に連絡すると、彼はすぐに教室にやって来たのだった。
たった一度の実技指導であったが、カーリー屋崎は、真理の才能に瞠目した。
数日後、教室に残った真理を含む三名の女性は、全員が、ヘストンホテルのいけばなスタッフとして、カーリー屋崎が主宰するいけばな事業会社「カーリー フラワーオフィス」に、社員として雇用されることを承諾したのだった。
真理は、承諾する前、夫の祐真に相談した。
祐真は、才能を認められたのならやってみてはどうかと同意してくれた。
真理の両親も本人がしたいのなら仕方がないという理由で同意した。
真理もこの時点では、子どもが出来れば辞めるつもりでいたのだった。
半年後、真理は、水を得た魚の様であった。
半年に亘る毎日の業務を通して、彼女の技量は驚くべき成長を見せていた。
もはや、単なるスタッフではなく、カーリー屋崎が頼りにするスタッフとなっていた。
さらに半年後、真理は、ヘストンホテル担当いけばなスタッフの総監督に就任することになった。
真理は、毎日忙しく働き、残業も度々であった。
もはや、一人寂しく祐真の帰りを待つ生活がはるか昔のように思えてくるのであった。
真理は27才になった。
夫の祐真は28才、祐真はこの年の4月海外事業課長に昇進した。
異例の抜擢だった。
以前の真理だったら飛び上がって喜んだに違いない。
だが、真理は自分でも驚くほど冷静だった。
さらに、この年、真理は妊娠していることが分かった。
だが、もう仕事を辞めるつもりは失くなっていた。
真理もいつの間にか仕事人間になっていたのだった。
教室の講師は、華道「日月流」の本部から派遣されていた。
真理が、教室に通い始めて三ヶ月経った頃、教室にハプニングが起きた。
教室にカーリー屋崎が、突然顔を出したのだ。
カーリー屋崎は、日月流の特別師範であるが、流派を越えた空間芸術としてのいけばなを確立し、フラワーアーティストとして、個展を開けば、国内は勿論、海外においても高く評価されている人物である。
その日、彼は、生徒一人一人に実技指導を行った。
授業が終わり、生徒たちは興奮冷めやらぬ思いで帰路に就いたのだが、三名の生徒が教室に残るよう講師から指示された。
その中の一人が真理であった。
カーリー屋崎は、多忙を極めていた。
流派の特別講師としての活動、出版、タレントとして週に数本のレギュラー出演、日本各地および海外での個展の開催、また、国内で開催される国際会議や国の重要な式典に際し、花の総合プロデュースを依頼されることはしばしばであった。
さらに東京パレス・ヘストンホテルとは専属契約を結び、ホテルのエントランスを始め各階の要所は勿論、その日の各室における催しに応じた花の装飾を一手に引き受けていたのだった。
日本最大のホテルのいけばなは、毎日膨大な量とその目的に応じて多種多様な趣が要求され、彼は、多くのスタッフを雇い、それに応じていたのだった。
だが、それも限界に近くなっていた。
特に、彼の意向を汲んでホテルに毎日常駐し、スタッフを纏める現場の総監督ともいうべき人材の確保は喫緊の課題であったのだ。
そのため、彼は、各地の後輩講師たちに頼んで人材の発掘に勤しんでいたのだ。
真理の通う教室の講師もカーリー屋崎から良い人材が居たら連絡をしてくれと頼まれていた。
だが、なかなか良い人材はいなかったのだが、三ヶ月前に入室した真理には天賦の才能があり、単に流派の技術に留まるだけでは勿体ないと思わせるものがあった。
講師がカーリー屋崎に連絡すると、彼はすぐに教室にやって来たのだった。
たった一度の実技指導であったが、カーリー屋崎は、真理の才能に瞠目した。
数日後、教室に残った真理を含む三名の女性は、全員が、ヘストンホテルのいけばなスタッフとして、カーリー屋崎が主宰するいけばな事業会社「カーリー フラワーオフィス」に、社員として雇用されることを承諾したのだった。
真理は、承諾する前、夫の祐真に相談した。
祐真は、才能を認められたのならやってみてはどうかと同意してくれた。
真理の両親も本人がしたいのなら仕方がないという理由で同意した。
真理もこの時点では、子どもが出来れば辞めるつもりでいたのだった。
半年後、真理は、水を得た魚の様であった。
半年に亘る毎日の業務を通して、彼女の技量は驚くべき成長を見せていた。
もはや、単なるスタッフではなく、カーリー屋崎が頼りにするスタッフとなっていた。
さらに半年後、真理は、ヘストンホテル担当いけばなスタッフの総監督に就任することになった。
真理は、毎日忙しく働き、残業も度々であった。
もはや、一人寂しく祐真の帰りを待つ生活がはるか昔のように思えてくるのであった。
真理は27才になった。
夫の祐真は28才、祐真はこの年の4月海外事業課長に昇進した。
異例の抜擢だった。
以前の真理だったら飛び上がって喜んだに違いない。
だが、真理は自分でも驚くほど冷静だった。
さらに、この年、真理は妊娠していることが分かった。
だが、もう仕事を辞めるつもりは失くなっていた。
真理もいつの間にか仕事人間になっていたのだった。