第2話  生い立ち

文字数 1,305文字

 祐真の父は、祐真が5才の頃、仕事中の事故で亡くなっていた。
 父の死は、殉職であった。
 会社は、遺族である祐真の家族に誠心誠意の補償を行った。
 父も何か予感することがあったのだろう、多額の生命保険と祐真のために学資保険に加入していたこともあり、残された祐真と母の生活は、金銭的には何の心配も無かった。
 だが、母は、亡き夫が残してくれた保険金には手を付けず、仕事に就きその収入だけで祐真を育てたのだった。
 夫の突然の死に遭い、もし自分にも何かあれば残された祐真が困るに違いない、せめてお金だけは残してやりたいとの思いからだった。
 祐真の母がそう決意したのには、もうひとつ理由があった。
 母には妹がいたのだが、その妹も祐真の父が亡くなる8年前に他界しており、血の繋がった肉親は、もはや母子以外誰もいなかったのだ。

 その妹は、亡くなった時すでに結婚しており、夫は敷島僚介と云った。
 二人の間に子どもはいなかった。
 僚介は、誠実な人柄であり、妻を亡くした後、独身でいたのだが、知人の薦めで良縁があり、3年後再婚をした。
 翌年女の子を授かり、真理と名付けられた。
 祐真が年長であるが、1才しか年が違わず、家も近くだったため両家の交際はその後も続き、幼い二人はよく一緒に遊んだものだ。
 義叔父夫婦は、その後子宝に恵まれず、男の子がいなかったため、夫妻は祐真を特に可愛がってくれた。
 祐真の父が亡くなってからも義叔父夫妻は祐真親子のことをいつも気にかけてくれていたのだった。

 父が亡くなるという悲しい出来事はあったが、それから10年は穏やかな日々が続いた。
 だが、祐真が15才の時、母が突然亡くなったのだ。
 心臓があまり強くなかった母は、気が付かないうちに無理をしていたのだろう。
 母は、夜、就寝中に発作を起こし、朝になっても起床して来なかったのだ。
 起きて来ない母が心配になり、祐真が母の寝室に入ったところ、母はすでにこと切れていたのだった。

 高校受験を控えた多感な年齢の祐真を、義叔父夫婦は我が子のように心配し、それ以降は、祐真の親代わりとして祐真を育てることになった。
 義叔父である敷島僚介夫妻は、祐真を本当の子どもとして接し、祐真に恩着せがましい言動をした事は一切無いが、祐真は子ども心にも深い恩義を感じていた。
 祐真が引き取られた時、すでに法律上は、敷島僚介は義叔父でもなんでもなく、祐真を扶養する義務も無かったことを後に知ると尚のことその思いを強くしたのだった。
 それに義叔父は、祐真の父と母が残してくれた金には一切手を付けず、祐真が成人を迎えた時、全額を祐真に渡した。
 祐真は、この時、義叔父夫婦を本当の父母として、一生を懸けて親孝行しようと決意したのだった。
  
 進学した大学が義叔父夫婦の自宅から遠かったため、祐真は大学の寮に住むことになり、自宅を離れたが、何かあれば義叔父夫婦の元へ帰り、幸せな家族の一家団欒を満喫するのだった。
 
 祐真は、自分の内定を実の子ども同様に喜び祝ってくれる義叔父一家を見ながら、
 (竹田製薬工業に入ったらどんな親孝行が出来るだろう、今から楽しみだ)
 と、胸を躍らせたのだった。
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