第21話  芦屋祐一郎~エルフ王の勅使  

文字数 872文字

 ユーイチローの10才の誕生日に故郷から届いた伝書鳥には、ユーイチローの両親ルイーズとヨハンは魔の森へ行くことになったこととユーイチローが元気でいることだけを祈っているという簡単なものであった。
 だが、これが意味することは決して楽観できる内容でないことをユーイチローもシンセラも即座に理解した。
 
 ソウラ王国はこの時、内乱状態に陥っていた。
 各地の領主は、武力と金力を増強させるため魔物を始めとした魔の森の資源獲得に躍起となり、引退した冒険者であろうと無理矢理に魔の森へ向かわせていたのだ。
 だが、魔の森に棲む魔物は侵入してくる人間が多ければ多いほど狂暴化する。
 このため多くの冒険者が犠牲になっていたのだ。

 ユーイチローとシンセラは、すぐにでも両親のルイーズとヨハンを助け出してシンセラ領に匿おうと出立の準備に取り掛かった。
 ところが、ユーイチローとシンセラそれにシンセラの娘アカネに森の民(当時はエルフをこう呼んでおり、エルフの正式名称)の王から至急王都まで参内せよとの文を持った勅使が派遣されて来たのだ。
 勅使によると、10年に一度、森の民の王国と竜人国の間で交互に特使を派遣しており、今回は竜人国から森の民の王国へ特使が来訪の予定であった。
 通常、特使は大臣級が派遣されるのだが、今回は急遽予定が変更され、特使として来訪してきたのは竜人国の国王と同義である最長老のトージューロウ様であった。
 トージューロウ様は、我が王とソウラ王国内乱の対応についての協議とともに、ユーイチロー殿、アカネ嬢、シンセラ公と是非会って話さねばならぬと仰ったというのだった。

 西はソウラ王国、北は魔の森に接し、異界の門(この当時は、次元近接点をこう呼んでいた)を護っている王族のシンセラに参内せよというのは分かるが、勅使が真っ先に名を挙げたのはユーイチローであり、次にアカネ、最後にシンセラであったのだ。
 三人はこのことに驚きつつもただ事ではないことを十分に理解した。

 ユーイチローは、()く心を抑えつつアカネ、シンセラとともに早馬車で王都へと向かったのだった。
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