第1話  始まり、就職試験

文字数 1,710文字

 作品を読んでいただきありがとうございます。
 本作品は、巻頭の作品紹介文にもあるとおり、当初は、拙作「人生大逆転!」の外伝として数話を予定していましたが、構想段階で長くなってしまい独立させることとしました。
 剣と魔法のファンタジーものですが、大人の視点を軸にして進めたいと思っています。
 応援のほど、よろしくお願いいたします。

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 2025年のある日

 34才の芦屋祐真は、通りの雑踏を眺めながらオープンカフェでコーヒーを飲んでいた。
 ここは、イタリア中部のチタニヤという地方都市だ。

 (ここから始まった気がするな・・・)

 4年前まで祐真は、竹田製薬工業のMR(製薬会社の医薬情報担当者)であり、海外事業課長として多忙を極めていた。

 さらに、その8年前、祐真は大学卒業間近にも拘わらず未だ就職が決まっていなかった。

 それを見かねた亡くなった叔母の旦那さん、つまり義叔父の紹介で、竹田製薬工業の本社で面接を受けることになった。
 義叔父が親交のある近藤康平という取締役に、正規の採用試験は既に終わっていたにも拘わらず、面接だけでいいからと頼み込んだのだ。
 近藤という人には祐真が子どもの頃一度会ったことがあるとのことだったが、祐真は良く憶えていなかった。
 義叔父から電話があったのは、面接の前日だった。
 納得のいく十分な準備は出来なかったが、祐真は、藁にも縋る思いで面接に臨んだ。

 面接官は、男性二人、女性一人の計三人だけだった。
 祐真は、簡単に自己紹介をした後、勧められて椅子に座った。

 (義叔父さんか近藤とかいう取締役への義理上の形だけの面接かもしれないな・・正規の採用試験は、とっくに終わっているからな・・・)

 祐真は、落胆を顔に出さないよう必死に取り繕った。

 祐真が椅子に座ると、面接官が自己紹介を始めた。
 先ず、
 「私は、副社長の森山秀二です。今日は来てくれてありがとう」
 次に、
 「私は、研究開発部門第一分野統括の高田裕次です。よろしく」
 最後に、女性の面接官が、
 「私は、人事部長の高田里帆です。今日はよろしくお願いしますね」
 と、親しみのある笑顔で祐真に自己紹介をした。

 意外にも三人の面接官は、高位の役職者であり、三人からは、フレンドリィーな印象を受けた。
 だが、そのような感情は消し飛ぶほどの驚きを祐真は受けていた。
 祐真が、小学6年生から中学生にかけて、竹田製薬工業では日本を揺るがすような国際的産業スパイ事件が起き、マスコミが連日のようにニュースを流し、特番も組まれたりしたのだ。
 祐真は意味がよく理解できないまでも事件の重大さは分かった。
 連日の報道を食い入るように視たものだ。
 その中でも個人を特定できる映像は流されなかったが、武闘派の中心人物とされた高田裕次と高田里帆の名前と活躍の内容は、鮮明に記憶にあった。

 義叔父から電話をもらって急いで会社のホームページを確認したのだが、社長と副社長の名前しか無く、写真も竹田社長の物だけだったため、面接で自己紹介されるまですっかり失念していたのだ。
 また、まさかあの二人が面接官だとは夢にも思っていなかった。

 祐真は、興奮が少し収まるとすっきりした気持ちになった。
 (まさか、高田ご夫妻から面接をしていただけるとは・・落ちてもお礼を言いたいのは俺の方だ・・・)
 祐真は、自身でも驚くほど面接の受け答えが落ち着いて出来た。
 面接が終わると、祐真は心から感謝をして退室したのだった。

 結果は、あっさりと合格した。
 翌日には、人事課から内定の電話があり、さらにその翌日には正式の内定通知が届いたのだった。

 内定の電話があった直ぐ後、祐真は、義叔父に内定を報告した。
 内定通知が届いた日は、祐真は通知書を大事に持って義叔父の家を訪れたところ、義叔父の一家は、皆で喜んでくれて豪華な食事で早速お祝いが始まったのだった。
 祐真にとって、この日のお祝いは一生のうちでも忘れられない思い出の一つになった。
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