第1話

文字数 584文字

 ―あなたはクジラという生き物を知っていますか?
―馬鹿にしないで、そんなもの誰でも知っているわ
―では、それを実際に見たことは?
―あるわけないじゃない、遠い異国に生息する獣のような魚でしょう?そんなものがこの辺にいるわけが…
―…そうですか

 クジラという生き物について聞いた答えのアベレージはこんな感じだ。遠い異国の生き物、我々には無縁という考えが大半を占める。流石に知に対するプライドが高い国民性のせいか”知らない”と回答する人は誰一人いなかったが、おかしな話である。彼らがまるで遠くの珍獣のように認識しているそれはたった1時間ほど船に乗れば出会うことができる比較的身近な生き物なのだ。この国に隣接する私の故郷ではそれを売りにしたクルージングツアーなども盛んだった。
 私の引っ越し先であるこの地、一般的に理研特区と呼ばれる地域は確かに変わった場所だ。ここでは魔法を使う者は誰もいない。それにクジラの例からもわかるように生き物や自然に対する関心が薄い。生態研究科という生物学を専門とする研究機関が集まった自治区もあるようだが、正直科学大国がその程度か、とため息をつきたくなるようなレベルのことしかしていない。知をシンボルとして掲げる彼らにとって未開の分野が存在することは許しがたいことなのではないのか。それともこの国には開けてはならないパンドラの箱か何かがあるのだろうか…
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登場人物紹介

有河ミサキ(アルガ-)

両親の他界により理研特区化学研究科の親戚に引き取られ転校してきた少女。真面目で行動的、正義感の強い人物。編入試験で満点を取るほど優秀だが理研特区の常識には疎く、彼らが魔法と海を頑なに避けていることに疑問を抱いている。

金ヶ崎桃花(カネガサキ モモカ)

一文路本家が滅亡したことで理研特区の覇権を手にした金ヶ崎財閥の令嬢。社交的で華がある。転校生である有河にも友好的で、彼女に学校を案内したり、理研特区の歴史や常識を教えたりする。

名取ほむら(ナトリ-)

お団子頭が特徴の元気で愛らしい小動物のような少女。勉強が苦手で仮進級状態のため成績優秀な有河に助けを求める。フレンドリーだが落ちこぼれゆえ友達が少ない。

狩生来夢(カリウ ラム)

有河たちより1学年上のダウナー系少女。出席日数不足で留年している。理研特区近海で秘密裏に進められている計画について調べている。

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