第18話

文字数 1,474文字

 いつもだったら放課後すぐほむらが来てその後の予定の話をする。これからLAMBDAと会うなんて言ったら喜んでついてきたはずだ。しかし昼の出来事がまだ引きずっているのか、彼女の姿は見えない。やはりあの時桃花を振り切ってでもその場に残ってほむらに声をかけ続けるべきだったのだろう。それにしても何故桃花はあんなことを…私の連れ出し方がやや強引だったというか、あの状態のほむらを見て心配するどころか孤立させようとするなんて非情ではないか…。そもそもタイミングも絶妙だった。まるで私たちを引き裂こうとしていたかのような…いや、こんなことを考えるなんて良くない。
 「…おい、返事がないけどほんとに”ミサキ”で合ってるよな?」
「…えっ、あっ、はい!」
色々考えてたせいで既に狩生先輩が来ていたことに気付かなかった。
「まったく、ボクがわざわざ来てやったのにうわの空だなんて大層な御身分だな」
「す、すみません…!」
「まあ今日は機嫌がいいから許してやる。で、今日は顔合わせと、白鯨に関する情報提供で良かったか?」
「あ、はい」
こんなことを思うなんて失礼かもしれないが、なんというかやっぱり前髪で顔が隠れていて、細身で、猫背ぎみで、大人しそうな見た目なのに高圧的な口調なのが面白い。
「ところで情報を教える前に確認したいんだけどさ、お前どこで白鯨を知った?」
「どこでって…えっと…」
一応初対面(?)の狩生先輩にあの怪しいおじさんの存在を話していいのだろうか。
「自分でたどり着いたわけではないんだろ?」
「は、はい…ある人に教えてもらって…」
「”ある人”?まさかと思うが枯れ草の老人とか名乗る怪しいやつじゃないだろうな?」
枯れ草の…?あの人の名前はわからなかったけど、見た目の雰囲気的にそう名乗っていてもおかしくはないかもしれない。それに確か私のことを狩生先輩の仲間と思っていたようだし、あの人が狩生先輩とも面識がある可能性は高い。
「名前はわからないですけど、たぶんその枯れ草の老人って人だと思います」
「ほんとか!?…なんなんだあいつ、ボクには”白鯨を追うのはやめろ”って言っておきながら…」
「あ、えっとその件についてはたぶん向こうの事故です。私があなたの仲間だと勘違いしてつい白鯨ってワードを口にしちゃった的な…」
「ふーん、なるほど。あいつもマヌケだな。まあいいや、その感じならあいつと手を組んでボクを止めようとしているわけでもなさそうだし」
「ええ、まあ…私もやめとけって言われたんですけど、はっきり嫌だと言って逃げてきちゃいました」
「へぇ…お前やるじゃん!」
急に前のめりになって距離を詰められたので少し驚いた。前髪で隠れてよく見えないが、なんとなく先輩の目がキラキラしているように感じる。
「そうだな、これから一緒に戦う仲間が周りに遠慮してばかりの軟弱者だったらどうしようかと思ってたけどお前なら大丈夫そうだな!」
「そ、それはよかったです…!」
良かった、なんとか気に入ってもらえたようだ。
「そうだ、盟友にはボクのリアルネームも教えとくべきだな。狩生来夢って言うんだ。なんとなくカリウムっぽい響きだろ?」
「た、確かに…」
こちらはLAMBDA=狩生先輩だとわかっていたから今更だったが、そういえば言われてみるとカリウムみたいな響きかもしれない…。
「えっと私は割とゲーム内での名前そのままなんですが、有河ミサキと言います」
「下の名前そのままとかほんとに初心者だったんだな!…まあいいや。盟友、これから2人で白鯨の正体を明らかにして憎き金ヶ崎の陰謀を阻止しよう!」
「…えっ、金ヶ崎…?」

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登場人物紹介

有河ミサキ(アルガ-)

両親の他界により理研特区化学研究科の親戚に引き取られ転校してきた少女。真面目で行動的、正義感の強い人物。編入試験で満点を取るほど優秀だが理研特区の常識には疎く、彼らが魔法と海を頑なに避けていることに疑問を抱いている。

金ヶ崎桃花(カネガサキ モモカ)

一文路本家が滅亡したことで理研特区の覇権を手にした金ヶ崎財閥の令嬢。社交的で華がある。転校生である有河にも友好的で、彼女に学校を案内したり、理研特区の歴史や常識を教えたりする。

名取ほむら(ナトリ-)

お団子頭が特徴の元気で愛らしい小動物のような少女。勉強が苦手で仮進級状態のため成績優秀な有河に助けを求める。フレンドリーだが落ちこぼれゆえ友達が少ない。

狩生来夢(カリウ ラム)

有河たちより1学年上のダウナー系少女。出席日数不足で留年している。理研特区近海で秘密裏に進められている計画について調べている。

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