第5話

文字数 1,404文字

 編入試験とは出題の仕方が違かったとは言え無事計画通りに定期試験で優秀な成績を残すことができた。元々の予定ではクラス1位を取れればいいと思っていたけど予想以上に頑張れてしまったようで…
「ちょっと、あの転校生やばくない?いきなり学年1位って…」
「1位はいつも桃花様って決まっていたのに…」
…なんというか、むしろ逆効果だったような気もしている。成績優秀アピールをすることで勉強を教えて欲しいと声をかけてくれる子が出てこないだろうかと期待していたのに、これじゃ余計に距離を置かれてしまう。
 「…びっくりだわぁ、ミサキちゃんここまで頭が良かったなんて…」
「桃花。自慢じゃないけど、一応私ここの編入試験満点だったから…」
「えっ、嘘!?うちの試験を突破して入ってくる転校生自体只者じゃないと言われているのに…それを満点だなんて…」
…桃花だけじゃない、周りにいる子たちもどよめいている。確かに親戚に受験を勧められた時女子が入れる学校の中なら化学研究科で一番難しいところだと言われた気がするけど、そこまでだったとは。
「でもこれじゃ作戦は失敗だなぁ…」
「作戦?」
「題して”勉強会で仲良くなろう作戦”!ここのテスト難しいって聞いたからきっと成績で困っている子もいるんじゃないかなと思ったんだけど…」
「合理的なプランね。ただちょっと頑張りすぎちゃったようだけれど…」
「そうなんだよ…私、ただでさえ桃花のファンの子たちに睨まれてるのに…ってそういえば、ゴメン桃花!大丈夫!?」
「えっ、どうしたの急に…」
「私が1位の座を奪っちゃったから…」
「…それはどういう意味かしら」
「あ、いや、今のは言い方が悪かったかも!えっと、ほら、桃花の家ってそういうの厳しいのかなって…”金ヶ崎家の者ならトップ以外ありえない!”みたいな…」
いや私は何を言っているんだろう。これじゃ全然弁明になっていない気がする。
「…ああ、そういうこと。もちろん理研特区の頂点に相応しい能力は必要だけれど、うちはあくまで経営者だから研究者に勝る頭脳は必要とされていないわ。それに、もしうちが成績に厳しい家だったとしてもあなたに気を遣われてトップに立つことはどんな罰より屈辱的だわ」
”だからそんなことはもう口にしないでね”と付け足した桃花の目はいつもの穏やかな振る舞いからは想像もつかないほど冷たく圧があった。


 
 …とまあ、またもや学園の秩序に石を投げてしまった私は中間試験が終わってもまだクラス内で孤立しているわけである。しかし先日ついに1人に優しい席…年度初めに転校してきたからこそ得られた教室の入り口に近い廊下側一番前と別れを告げることになった。これで強制的に人に囲まれることになれば何かしら会話が発生すると思っていたのに…
「まさか一番後ろの窓際になるとは…」
今からでも視力が悪いので席を替えたいと言いたいところだが私の視力が2.0であるということは年度初めの健康診断で明らかになってしまっている。さすがに授業に追いつくため猛勉強したせいで視力が半分以下になった…なんて言い訳は通用しないに決まっている。諦めてまた次の席替えまでこの席で過ごすしかない。
 「…」
しかし一番後ろの目立たない席のはずなのに視線を感じる。そう何度も外を見て気付かないふりをしてやると思うなよ!と勢いよく振り返った瞬間視界に入ったのは陰口を叩くクラスメイトたちではなくオレンジ色のお団子頭だった。
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登場人物紹介

有河ミサキ(アルガ-)

両親の他界により理研特区化学研究科の親戚に引き取られ転校してきた少女。真面目で行動的、正義感の強い人物。編入試験で満点を取るほど優秀だが理研特区の常識には疎く、彼らが魔法と海を頑なに避けていることに疑問を抱いている。

金ヶ崎桃花(カネガサキ モモカ)

一文路本家が滅亡したことで理研特区の覇権を手にした金ヶ崎財閥の令嬢。社交的で華がある。転校生である有河にも友好的で、彼女に学校を案内したり、理研特区の歴史や常識を教えたりする。

名取ほむら(ナトリ-)

お団子頭が特徴の元気で愛らしい小動物のような少女。勉強が苦手で仮進級状態のため成績優秀な有河に助けを求める。フレンドリーだが落ちこぼれゆえ友達が少ない。

狩生来夢(カリウ ラム)

有河たちより1学年上のダウナー系少女。出席日数不足で留年している。理研特区近海で秘密裏に進められている計画について調べている。

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