第2話
文字数 1,649文字
「はぁ…転校初日からハブられて先行き不安だなぁ…」
数か月前両親を亡くし親戚のいる地、理科研究特別地区化学研究科に引っ越してきたものの、まだここの勝手がわからない。先ほどの自己紹介だって普通のことしか言っていないはずなのにクラス全体から冷ややかな視線を浴びた。そもそもよそ者に厳しいところならどうしようもないけれど、私の記憶が正しければここは元々科学技術に興味がある人たちが移り住んできてできた移民国家であるはずだ。転校生というだけでハブられるなら”あんたたちだってもとは全員よそ者だろー!!”と叫んでやりたいところだけど恐らくそうではないのだろう。
「あら、有河さんったらこんなところにいたのね!すぐに姿を消してしまったから探すのに手間取ったわ」
「あなたは確か同じクラスにいた…」
「金ヶ崎桃花よ。普段は名前なんて名乗らなくてもみんなすぐに私ってわかってくれるけれど、どうやらあなたは何も知らないようだから」
「うん、ここについてはわからないことばっかりかな。なんでみんなからハブられているのかも、金ヶ崎さんがどんな有名人なのかも…」
「桃花でいいわよ、まあ金ヶ崎財閥を知っている人は誰も私を呼び捨てになんてしないけれど…」
金ヶ崎財閥…ああ、ここに来てから長くはないけどもう何度もCMで見かけた経営グループの名前だ。何故その名を聞いた瞬間ピンとこなかったのだろう。
「で、桃花に教えて欲しいんだ。他に私と話してくれる人もいないし…」
「…!…うふふ、私堂々とした人好きよ。そうね…あなたの自己紹介、あれは良くないわ」
「自己紹介?」
「この学園や化学研究科だけじゃない…理研特区の人たちはみんな海をタブー視しているの。それなのにあんな海が好きなことをアピールした自己紹介じゃ…」
「海をタブー視?埋立地で目の前に綺麗な海があるのに!?」
「ええ。昔電子工学研究科と生態研究科、政府があの海で戦争をしたらしくて、それから当事者ではない私たち化学研究科にとっても海は良くない場所という考えが広まっているの」
「へぇ…確かにご先祖様が眠る場所をレジャーに利用するのも罰当たりだね。理研特区の人にもそういう考え方があるんだ…」
「まあ実際は3つの機関が勝手に海洋進出をしないよう牽制し合ってできた考えなんだけど。ここの人たち隙あらば開発を進めたがるから」
「ああ、なるほど…」
どうやら様々な理由から理研特区では海やそれにまつわるものは歓迎されないらしい。つまりここで生きていくためには私の好きなものを隠していく必要があるということだろう。言葉を発しなくても異端だとわかる、このクジラのバッジも外した方が安全かもしれない。…でも本当にそれでいいのだろうか。
「…そういえば桃花はどうして私に声をかけてくれたの?」
「そうねぇ…私も海が好きだから、かしら」
「え、いいの?桃花みたいな立場の人がそんなこと言って…」
「いいのよ。別に言いふらしているわけじゃないもの。海は私たちに恵みを与えてくれる素敵な場所だもの、忌み嫌ってはいけないわ」
…驚いた、桃花のような人の上に立つ層の人間でも常識に疑問を抱いているんだ。”もったいないじゃない”と付け足された言葉には経営者や理研特区民の血を感じたけど。
「…とにかく私はそんなことであなたを避けたりはしないわ。だからまたわからないことがあったら何でも聞いて。…まあ昼休み以外は難しいかもしれないけれど」
「ああ…桃花すごい囲まれてるもんね…」
「仕方ないわ、みんな金ヶ崎 のことが大好きなんだから」
「人気者なんだね」
「ええ。そんな私とお近づきになれるなんて…ミサキちゃんも幸せね?」
「そうだね、このまま1人かぁ…って思ってたから桃花と友達になれて嬉しい!」
「友達…」
「あれ?私またやっちゃった?理研特区の人にとっては暑苦しい距離感だった?」
「いいえ、そうではないの。そうではないけど…”友達”ね…やっぱり面白い子」
「…?何か言った?」
「…なんでもないわ。私もあなたとお友達になれて嬉しいわ、ミサキちゃん」
数か月前両親を亡くし親戚のいる地、理科研究特別地区化学研究科に引っ越してきたものの、まだここの勝手がわからない。先ほどの自己紹介だって普通のことしか言っていないはずなのにクラス全体から冷ややかな視線を浴びた。そもそもよそ者に厳しいところならどうしようもないけれど、私の記憶が正しければここは元々科学技術に興味がある人たちが移り住んできてできた移民国家であるはずだ。転校生というだけでハブられるなら”あんたたちだってもとは全員よそ者だろー!!”と叫んでやりたいところだけど恐らくそうではないのだろう。
「あら、有河さんったらこんなところにいたのね!すぐに姿を消してしまったから探すのに手間取ったわ」
「あなたは確か同じクラスにいた…」
「金ヶ崎桃花よ。普段は名前なんて名乗らなくてもみんなすぐに私ってわかってくれるけれど、どうやらあなたは何も知らないようだから」
「うん、ここについてはわからないことばっかりかな。なんでみんなからハブられているのかも、金ヶ崎さんがどんな有名人なのかも…」
「桃花でいいわよ、まあ金ヶ崎財閥を知っている人は誰も私を呼び捨てになんてしないけれど…」
金ヶ崎財閥…ああ、ここに来てから長くはないけどもう何度もCMで見かけた経営グループの名前だ。何故その名を聞いた瞬間ピンとこなかったのだろう。
「で、桃花に教えて欲しいんだ。他に私と話してくれる人もいないし…」
「…!…うふふ、私堂々とした人好きよ。そうね…あなたの自己紹介、あれは良くないわ」
「自己紹介?」
「この学園や化学研究科だけじゃない…理研特区の人たちはみんな海をタブー視しているの。それなのにあんな海が好きなことをアピールした自己紹介じゃ…」
「海をタブー視?埋立地で目の前に綺麗な海があるのに!?」
「ええ。昔電子工学研究科と生態研究科、政府があの海で戦争をしたらしくて、それから当事者ではない私たち化学研究科にとっても海は良くない場所という考えが広まっているの」
「へぇ…確かにご先祖様が眠る場所をレジャーに利用するのも罰当たりだね。理研特区の人にもそういう考え方があるんだ…」
「まあ実際は3つの機関が勝手に海洋進出をしないよう牽制し合ってできた考えなんだけど。ここの人たち隙あらば開発を進めたがるから」
「ああ、なるほど…」
どうやら様々な理由から理研特区では海やそれにまつわるものは歓迎されないらしい。つまりここで生きていくためには私の好きなものを隠していく必要があるということだろう。言葉を発しなくても異端だとわかる、このクジラのバッジも外した方が安全かもしれない。…でも本当にそれでいいのだろうか。
「…そういえば桃花はどうして私に声をかけてくれたの?」
「そうねぇ…私も海が好きだから、かしら」
「え、いいの?桃花みたいな立場の人がそんなこと言って…」
「いいのよ。別に言いふらしているわけじゃないもの。海は私たちに恵みを与えてくれる素敵な場所だもの、忌み嫌ってはいけないわ」
…驚いた、桃花のような人の上に立つ層の人間でも常識に疑問を抱いているんだ。”もったいないじゃない”と付け足された言葉には経営者や理研特区民の血を感じたけど。
「…とにかく私はそんなことであなたを避けたりはしないわ。だからまたわからないことがあったら何でも聞いて。…まあ昼休み以外は難しいかもしれないけれど」
「ああ…桃花すごい囲まれてるもんね…」
「仕方ないわ、みんな
「人気者なんだね」
「ええ。そんな私とお近づきになれるなんて…ミサキちゃんも幸せね?」
「そうだね、このまま1人かぁ…って思ってたから桃花と友達になれて嬉しい!」
「友達…」
「あれ?私またやっちゃった?理研特区の人にとっては暑苦しい距離感だった?」
「いいえ、そうではないの。そうではないけど…”友達”ね…やっぱり面白い子」
「…?何か言った?」
「…なんでもないわ。私もあなたとお友達になれて嬉しいわ、ミサキちゃん」