第12話

文字数 989文字

「この方は、そんな運命からあたくしを救ってくださろうとしている」
「あなたを殺そうとしているのだぞ!」
「殺すというなら」
 エズメラルダはぞっとするような声を出した。
「あたくしの心はすでに一年前、とっくに死にました」
 今までなぜ、来てくれなかった。なぜ、救ってくれなかった。
 終わってしまったことを責めても、仕方がないのだけれど。
「一年前……」
 アルハンドロはうわごとのようにつぶやいた。
「最初に出会ったとき、この方は自らの命を絶とうとしていたのです」
龍王は優しくエズメラルダの首の傷に触れた。その傷の大きさを見て、アルハンドロもそれが真実だと気づいたようだった。剣をにぎった手を下ろした。
「そんなあたくしを、この方が救ってくださったのです」
「なぜ、こんなことに……」
 青ざめたまま、放心したようにつぶやく。
「この、エメラルドグリーンの瞳をうらみます」
エズメラルダはつぶやいた。
「最強の王子などほしくない。エルデュリアなどどうでもいい。ただふつうに生きたかった。それで……それだけで、よかったのに」
涙がこぼれた。
それをあわてて指でぬぐう。
なんということだ。決してこの方の前で泣いたりしないとちかったのに。
「お決めください」
涙を飲みこんだ。アルハンドロに正面から向き合った。
「このままあたくしを一突きにするか、ここから立ち去るか」
「しかし……」
「あなた様を心の底から愛しておりました」
 エズメラルダの覚悟を感じ取り、アルハンドロは絶句した。
 
 そのときだった。どかん、という音とともにこの石の塔が大きく揺れた。
「何事ですか⁉」
「鬼どもです」
龍王はエズメラルダをかばうように抱きしめた。アルハンドロはとっさに後ずさった。
「あなたをここに隠していることに気づかれたようです」
 そう言って、アルハンドロを見た。
「早く、この方を連れて地下室へ。わたしの龍があなたたちを待っている。砂漠の向こうの予言者たちのもとへ向かいなさい」
「そんな……!」
 エズメラルダは色を失った。
「鬼族が攻撃を仕掛けるという知らせは、予言者から聞いたのだ。今度ばかりは、いくらわたしでもあなたをお守りするのは難しいだろう、と」
「なぜ、教えてくださらなかったのですか?」
「言えるわけはない」
 責めるようなエズメラルダの視線に、龍王は悲しくほほ笑んだ。
「もとは、わたしがあの者たちを、出し抜いたのだから」
「……それは……」
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