第14話

文字数 1,042文字

 壊れた鉄格子をにぎりしめて壊れた窓のへりに立った。この石造りの塔が立つ溶岩の山のはるか向こう、尖った岩に囲まれた頑強な城の上空に、分厚い雲に乗った筋骨隆々の体つきの者たちが三十人近くいた。その体は二メートルはあろうかという大男たちで、頭にかぶった兜からは大きなシカのような角が生えている。
 鬼族だ。
それが、銀色のうろこをまとわせた大きな龍に向けて槍を放った。龍王の周りに控えた小型の龍たちはそれに対して炎を吐き、槍が王に届く前にすべて焼き払われた。鬼たちは龍たちの火をよけて縦横無尽に飛び回る。
城の周りの平地にも鬼族がいて、大砲を構えていた。その球の一つがここまで飛んできたのか、すぐ近くの岩が壊されていた。どうやら先ほどの揺れは、このせいだったようだ。龍王の配下の者たちは岩陰に隠れ、反撃の機会をうかがっていた。
 ……どうしたものか。
考えこんだとき、軽い足音がした。
「共に戦おう」
アルハンドロだった。ひどく傷ついたような顔をしていた。
「でも、あなた様は……」
「愛する人を危険な目にあわせたい男など、この世に存在しない。……龍王は、そう言わなかったか?」
「……それは……」
「自分が囮になって鬼たちを龍王の領地から追い出そうとでも考えているのだろう?」
 くやしいけれど、そのとおりだ。自分の動きはすべて、幼い日、アルハンドロに教えてもらったことが基になっている。
思わず心を重ねそうになる。エズメラルダが黙ったのをどう思ったのか、アルハンドロはさみしそうに笑った。
「あなたがおとなしく逃げてくれる人でないのは、承知している。……それならば、無理やり逃がすよりもわたしの手で守った方が早い」
 すべてお見通しなのだった。
 心にともった思いを押し殺す。
 地上にいる鬼たちの構えた大砲が火を噴いた。
 アルハンドロは指笛を鳴らした。二度、短く。そして最後は長く。エズメラルダははっとしてアルハンドロを見た。空の一点に、大きな黒い影が現れた。
それは、大きな鳥獣だった。
「まさか、あなた様がこんなことまでおできになるとは……」
「あなたが教えてくれたのではないか」
 アルハンドロは少し照れたように笑った。
 あの頃は、「汚らわしい。触りたくもない」そう言って、近寄ろうともしなかったのに。
 鳥獣は警戒心が強い。心を開いて根気よく接しなければ、決してなついてはくれない難しい動物だった。
懐かしい思いが、次から次へと押し寄せる。まるで、むかしに戻ったかのようだった。
決して、同じであることなどないはずなのに。
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