◆第22話 にぶちんの陸君は香南ちゃんの様子がおかしくて頭が混乱中♪

文字数 2,301文字

食事中、陸はひしひしと妙な雰囲気を感じていた。

香南と桃子は一切会話しない。



まあ普段から香南の方から話をすることは少ないが、

今はいつもより更に輪をかけて桃子を避けているような気がする。



かといって桃子の方は機嫌が悪そうには見えなかった。

むしろものすごく楽しそうだ。香南は不機嫌そうに黙々と食事している。



アンパンと一緒に四人分の食事を買い、テーブルに戻ってきた時、

彼女達は話をしていて、なにやら大声でエキサイトしていた。



特に香南の方が珍しく興奮していた。

一体どんな話をしたらこんな状況になってしまったのかすごく気になる。



気になるが聞いたら香南の奴が怒り出しそうなのは目に見えているので躊躇った。

さてどうしたものか、と陸は一人息をつく。



アンパンはこの場の妙な雰囲気など関係ないとでも言うように、

一人でとんこつラーメン、カレーライス、牛丼、明太子スパゲッティーと

全て一人で、見てて気持ちのいいくらいにがつがつと食べていた。



この後絶叫マシーンに乗ってお腹を

シェイクされて体調崩しても知らないぞ。



食後しばらく休憩をとった後、

桃子が率先してわざとらしく思えるくらい、



ペアを組んで楽しむアトラクションばかり

選んでいったのは陸の気のせいだろうか。

特に不満もないので言及はしなかったが。



「私はアンパンとペアを組むわね。陸君は香南と」

「マジか!マジで?!」



桃子の提案にアンパンは嬉しそうに赤面して鼻息を荒くしている。

どういう風の吹き回しだろう。



桃子の奴、やっぱり喧嘩が原因で意図的に香南のことを避けてるんだろうか。

事の経過がどうあれ遂にアンパンの奴にも春が訪れるんだろうか。



香南の方はというと。

桃子に敵でも見るようなまなざしを向けたかと思うと、

アンパンに対しては哀れむような視線を送っている。



「勘違いして可哀想・・」

なんて一人呟いている。



桃子の意図に気がついているのだろうか。

しばらく様子を見る事にした。



先をアンパンと桃子が楽しそうに会話しながら歩いていく。

アンパンの方は普段のテンションより三割増しぐらいははしゃいでいる。



友人として微力ながら恋がうまくいくといいなと祈ってやる。

ふと香南がついてきていないことに気がついた。



振り向くと彼女は立ち止まったまま口をぐっとつぐんでいる。

「どうした、早く来いよ、おいてくぞ」



声をかけたがついてくる様子がない。

仕方ないなと思いながら彼女の元まで歩いてく。



ほら、と香南の腕をつかもうとした時―。



「きゃっ!」



短い悲鳴をあげると陸の接触にビクッと反応した。

なんだなんだ、と陸の方もびっくりする。



腕を胸の前で包み守るようにして、

目を見開きこちらを凝視している。



黒目がちな瞳が揺れているのは気のせいか。様子がおかしい。

「香南?」



「な、なんでもないわ。ぼおっとしてたからびっくりしただけ。ごめんなさい・・」

「桃子と何があったか知らないけどさ、

気にしてたら時間が勿体無いんだし。午後も楽しもう」

「そんなこと・・わかってるわよ」



長い睫を伏せて小さく呟いている。

彼女の中で今一体どんな感情が渦巻いているのだろうか。



陸にはわからない。陸が歩き出すと、

後をとぼとぼとついてきたので、一先ず安心した。



機嫌を損ねて帰ると言い出しはしないだろうかと心配していたから。

アンパン達に追いつく途中。



ふと思いついたことを口にした。

「あ、もしかして俺とペア組むのが嫌なのか」



香南は大きく目を見開いていく。

他人から見たら二人で乗り物に乗ると、

年頃の男女だから恋人同士に見えなくもない。



桃子との軋轢とは別に、

彼女はそれを嫌がっているのではと思ったのだ。



「ひ、一言も嫌だなんて言ってないでしょう!」

急にムキになって怒ったように言ったかと思うと、

ハッとした顔をして俯いてしまった。



普段の香南からは考えられないくらいに表情がコロコロ変わる。

その頬が朱に染まっているように見えるのは気のせいだろうか。



彼女の心情が読めず、持て余して陸は困惑する。

やれやれ、と前を見ると桃子が肩越しに顔だけふり返ってこちらを見ていた。



目が合うと片目を閉じてウィンクをされた。

しかもとびっきりの笑顔で。

意味不明だ。その真意を陸がわかるはずもなかった。





途中四人で揃った写真を撮る事にした。

ちょうどいい具合に写真を撮るのに絶好の広場があったのだ。



桃子が気の良さそうな婦人に声をかけてシャッターをお願いしてもらった。



一番前にアンパンがでん、と座り込み、その後ろに陸と香南が立つ。

その間後ろから桃子が顔を出すような形になった。



何を考えているのか桃子は陸と香南の肩に手を回して、

必要以上に互いを密にくっつけたがろうとする。



香南が不満そうに声をあげる。

「ちょっと、桃子っいいかげんに・・」



「折角の記念写真なんだから、少しは我慢しなさいな」

それにと声に強みのトーンを持たせて続けた。



「後で見返した時に絶対後悔することはないって保証してあげる」

諭すようなその言い方に圧されたのか香南は黙り込んでしまっていた。





「右のお姉ちゃん、もっと笑って」

カメラを構えた婦人が言う。



香南が自身に指をさして、わたし?と確認している。

「こういう場合、指摘されるのは香南ぐらいだろう」

「あなたに愛想笑いは難しいだろうから苦笑いでもいいわよ」



「香南、口角を思いっきり横に上げるのが笑顔のコツだ、やってみそ!」

「う、うるさいわね。表情一つでなんでそこまで言われないといけないのよ・・」



陸等の言葉に憤慨した後、香南はぎこちないながらも笑みを浮かべた。

「いきますよ、はいチーズ」



こうして四人皆の揃った記念写真が出来上がった。

今日という日、一生に一度きりしかない日を切り取った、

価値のある一枚の写真だった。
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