◆第3話 アンパンも鼻血限界突破!桃ちゃんはぐいぐい来る☆

文字数 3,956文字

  香南と一緒にいることが多い陸はよく

クラスメイトや他の生徒に聞かれることがあった。



その時のことを思い出す。



休み時間、側に香南がいないのをいいことに

一人でいる陸を掴まえて質問攻めされたのだ。



「どうして藤倉と仲がいいのか信じられない」

「くそ真面目な陸があんな得体の知れない

不良みたいな女とよく気が合うよな」



などなど、誰もが陸のことを不思議がった。

香南について、噂が一人歩きして

変な尾ひれがたくさん付いているな、と苦笑いしてしまう。



「小さい頃からの付き合いなんだよ」

「いやでも、幼馴染だからってねぇ・・」



「あの子はあれでなかなかいい奴だよ」

納得しない相手に一応香南へのフォローを入れておく。 



「わかんねえなぁ」

皆そう言って理解できないという顔をし、

中には違う角度から質問してくる者も。



「二人の馴れ初めはどんな感じだったんだ?」

「よく覚えてないな」



「好きなの? てゆうか付き合ってるの?」



思いもよらなかったことを

聞かれてその時は思考が止まってしまった。



香南のことを好きかどうか?

 嫌いでないことは確かなのだが。



自分でもよくわからない。

改めて意識してみるとどうして

一匹狼でいる香南のことを構ってしまうのか。



陸は香南のことが好きなんだろうか。

幼い頃からただ一緒にいることが呼吸するように

自然に思えるということだけで、深く考えたことがない。



気がつけば一緒にいたという感じだった。



いつの間に教室に戻ってきたのか、

香南が陸達の背後に無表情で立っていた。



気配が全くなかったので、クラスメイト達は

飛び上がって驚くと気まずそうにそそくさ離れていった。



香南はいつからいたのかわからないが、

何事もなかったように、無言で隣の席に腰を下ろしたのだった。





 お世辞にも人当たりがいいとは言い難い香南だが、

クラスには物好きがいるというか、陸を含めて三人、

日常的に香南と接触を持つ人間がいる。



なかなか香南が陸の誘いに答えないでいると、

その物好きの一人が後ろから陸の肩を叩いてきた。



「よっ、おはよっす! 陸、香南」



その元気な声の男子生徒は陸らに挨拶すると、

香南の机の上に並べたチケットを覗き込んだ。



健康的に肌は焼けてスポーツマンらしい

逆立てた短髪の頭をしている。



「お、テーマパークの件か」

彼の名は山田行繁ゆきしげ。



ニックネームは菓子パンの中でアンパンを好んで食べることから、

行繁を音読みした「アンパン」だった。

クラスメイトで陸と香南? の友人だ。





  知り合ったのはこの高校に入学してからだ。

香南とコミュニケーションをとろうとする数少ない中の一人。



まず陸と知り会ってそこから経由して

香南とも接触するようになったのだが。



最初は香南にまったく相手にされていなかった。

しかしアンパンはさっぱりした性格で

細かいことにはこだわらないせいか、



大概の人間が話しかけた香南に冷たくされて去ってしまう所、

拒絶されたのを気にもせず懲りずに香南に接し続けた。



香南のほうもいいかげん追い払うことが

めんどうになってあきらめてしまっったのか、

今の関係に至った形だ。



これまでの陸以外で香南に

接触した男子の中では珍しい例だ。



もうアンパンに関してはきつく拒絶されたりしない。

アンパンのような人間が苦手なのだろうか。



香南の席の前になってから、

彼は勉強が苦手でよく香南や陸にわからないところを聞いてくる。



香南はあんまりにもしつこいアンパンに

うんざりした顔をしながらも、質問に答えている。



教えるから早く向こうへ言ってみたいな感じだけれど。



そうやって香南に感情を表させられるのは

ある意味貴重かもしれない。アンパンの得意科目は体育だ。



授業でサーカーやバスケなど団体で行う試合では

一人とびぬけて常人離れした野生的な動きをする。



一部の女子に気持ち悪がられ、

あるいは感嘆されたりと周囲の反応は様々だった。



部活はテニス部に所属している。

基本はドジで馬鹿みたいな失敗をしてはクラスで笑いを取っている。



例えばクラスで順番に皆が何かやるにしても、

誰もが一番最初を敬遠する中、

先頭きってアンパンは飛び込んでいって、

さらし者みたいになってしまうことが多い。



いじられキャラといってもよかった。



「香南折角の機会なんだし行こうぜ。

四人揃ってっていうのはなかなかないぞ」



気安そうにばしばし香南の肩を叩いている。



「痛いったら、もう。朝から暑苦しいわね」

白い目で見返されてもアンパンに気にした様子はない。



「私に構わず三人で行ってきたらいいじゃない」

「駄目だ! 香南が一緒にいかなきゃ面白くないじゃんよ、

四人で行かないと意味ないんだよ! な? 陸」



「そうだな。皆で行くほうがいいよ」



同意を求められ陸も頷く。香南と目と目が合った。

長い睫の下、漆黒のまなざしは何か言いたげなように映った。



アンパンの説得は更に続くがなかなか首を縦に振らない。



 本鈴もなる少し前、香南にかまう最後の一人、

桐坂桃子(とうこ)が教室に入ってきた。



クラスメイト達と親しげに挨拶をかわすと

陸らのところにやってきた。



彼女の周囲半径一メートルの空気だけ、

ぱあっと明るくなったように見える。比喩ではなく。 



「みんなおはよっ」

「おう、桃子おはよう!」



アンパンが一割り増し顔を輝かせて挨拶している。

その態度は非常にわかりやすい。



「・・・・」

香南はチラッと目を向け聞こえるか聞こえないかの小さな声でおはよ、

と挨拶をする。



陸は桃子の手にしたラケットケースを見て話しかける。



「今日も部活の朝練か」

「ええ、ちょっと張り切っちゃった」



肩を叩くしぐさ。

彼女はバトミントン部に所属しているクラスメイトで陸たちの友人だ。



ニックネームはモモちゃん。

香南とは対照的に底抜けに明るく皆からの人望が厚い。



陸やアンパン同様に香南に構う一人で、

彼女ならばいくらでも他の生徒達と仲良くできるのに、

何故か陸達のグループにいるという謎の人物だ。



輝くような笑顔が眩しく口元に浮かんだえくぼが印象的だ。

パッと見て華やかなオーラを感じることが出来る。



肩まである思わず触りたくなるような

(セクハラ的な意味でなくて)サラサラの髪。



可愛い顔立ちをしていて香南と並んで

学校の二大美女と噂されているのを小耳に挟んだことがある。



入学当時の香南同様半端なくもてる。



香南と異なる点は気立てがよくて異性にも

同性にも好かれているところだ。



姉御肌な性格のためか

女子に告白されることが多い。



過去にはバレンタインデーに女子からチョコをたくさんもらったらしく、

嬉しいけど困ってしまうとこぼしていた。



アンパンも密かに? 彼女に・・・である。



直接聞いたわけではないが端から見ていたら、

アンパンは非常にわかりやすくこういう事に疎い陸にもすぐにわかった。



アンパン本人はばれてないと思っているだろう、多分。 



「ちょうどよかった。香南がなかなか

テーマパーク行きを了承してくれないんだよ。

桃子からも言ってやってくれないかな」



陸の言葉にほほ~と猫みたくにんまりした

笑みを浮かべ桃子は香南の顔を覗き込む。



「香南、何か用事でもあるの?」



「別にないけど・・」

香南は圧されたように身を引き抑揚のない声で答える。



用事がある、と嘘でも言えばそれ以上陸達は何も言えなくなるのに、

香南は言わない。



正直に言う所が不器用であり

香南のいい所といえばいい所か。



「じゃあどうして行きたくないの?」

「面倒くさいし人ごみ嫌い」



「う~ん、そんな理由じゃもちろん却下♪」

一指し指を頬にあて思案するしぐさを見せた後、

素早い動きで桃子は後ろから香南に覆いかぶさる。



びくりと体を震わしたが香南の方が一瞬反応が遅かった。



「行かなきゃ、襲っちゃうわよ~」

「きゃっ、ちょっ、桃子・・やめっ」



香南のわきの下から手を入れて胸を弄んでいる。

豊かな香南の胸に桃子のほっそりした指が埋もれていく。



「あらあら、香南ったらまた大きくなったんじゃない? 

イケナイお胸だこと」

「そ、そんなわけないでしょっ」



「いつも触ってる私の感覚はごまかせないわよ――?」

「やめなさいっこの、変態女!」



「変態でいいもん、気持ちいいからやめられないの~」



逃れようともがき続けているが、

桃子も一歩も引かず力を緩めず陶酔したような声をあげる。



アンパンと陸に妖しい笑みを

向けながらきわどい発言をする。



「香南の胸を触っていいのは私・だ・け」

「誰がいつ決めたのよ! あっ・・」



指が香南の敏感な箇所を攻めたのか、

香南が妙に色っぽく甘い声を発した。



耳に甘そうな吐息を吹きかけられている。

陸はやれやれと横を見てぎょっとする。



アンパンがかたまって鼻血をたらしている。

陸は見ておられず顔を覆ってティッシュを差し出してやった。



教室を見渡すと生徒達の目がこちらに釘付けになって、

特に男子達が鼻の下を伸ばしている。



ふざけているとはいえ美女二人の戯れだからな。

思春期真っ盛りの男子には見るなというほうが酷だろう。



目に涙を浮かべた香南の声が弱々しくなっていく。



「わかったから、行くからもう、やめっ、あ・・。」

「宜しい!」



桃子は満足げに笑って頷くとぱっと体を解放した。



胸を庇いながら、香南は白い頬を紅潮させて

呼吸を乱し恨めしそうに桃子を睨んでる。



かなり色っぽい。



桃子がこうやって香南のことをからかうのはいつものことだ。

スキンシップは日常茶飯事。



まさかとは思うが桃子に女色の毛があるのではないかと

疑ったこともあるれど踏み込んではいけない領域に思えて、

深くは追求しないことにしている。



桃子の香南の扱いは最近磨きがかかってきたように思う。

彼女のペースに香南も圧されている。



桃子はこの四人グループのリーダー的存在だ。



テーマパークの件も言いだしっぺは

彼女だしチケットを用意したのもそうだ。



何はともあれ、まだ不服そうだが?



桃子の説得が功をせいして

香南のテーマパーク行きが約束されたのであった。







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