◆第20話 陸とアンパンよ、男ならおとなしく黙って罰を受けるのだよ!

文字数 1,796文字

日曜日、待ち合わせ場所の駅前に行くと

既にアンパン、桃子、香南が来ていた。



「悪い、待たせたかな」

陸は軽く手を上げて合流する。



「陸君、聞いて聞いて。香南が今日一番のりだったみたいなのよ」

「俺が来たときにはもういたぜ」



桃子とアンパンが楽しそうに言う。

皆の注目を浴びてむすっとしている香南を見やる。



「へえ、嫌がってた割には行く気満々じゃないか」

「もう、テーマパークが好きなら好きだって

素直に言ってくれたらいいのに。水臭いわねぇ」



「安心しろ、香南。俺もアトラクション大好きだからさ!」

「ち、違うわよっ。私はただ遅れて小言を言われるのが

嫌だっただけなんだから!誤解しないでっ」



香南は頬を朱に染めてムキになって弁解している。

「まあそういう事にしておくか」



陸は笑いをかみ殺した。



普段無表情な分、こうやって感情を見せてくれると

正直微笑ましくて笑わずにはいられなくなるのだ。



香南が人の大勢いるところで遊ぶのが

あまり好きではないのは皆知っている。



本人がそう公言しているし、

四人が遊び始めた当初は誘いを全て断られていたから。



しかしここ最近は文句を言いながらも

誘って約束を交わせば必ず参加してくれる。



ずっと四人で日々を過ごす内に彼女の中で

心境の変化があったんだろうか。



気を許して親しみを抱いてくれいるのなら喜ばしいことだ。

もしもこのメンバーが違えばどうだろう。



香南は来なくなるんじゃないか。

陸達三人だからこそ、人混みにも目を瞑って来てくれている、

と考えるのはうぬぼれすぎているだろうか。







「おいおい勘弁してくれ」

「陸、てめぇも男なら覚悟決めろよ!」



困惑顔の陸がアンパンに引きずられていく。

この事態の原因は数十分前のこと。



テーマパークに着きいくつかアトラクションを体験した後、

香南達は射撃のできるミニゲームをやった。



おもちゃのライフルで景品を狙い、

当てて落としたらもらうことができるゲームだ。



やろうと言い出したのは桃子だった。

「ただやるのも面白くないからさ、勝負しない?」



「俺は別にどっちでもいいぞ」

特に執着のない陸とは対照的に。



「勝負か! いいぜ、やろう、やろう」

アンパンはのりのりで鼻息を荒くしていた。



香南は無言で頷いただけ。

罰ゲームは負けたらメリーゴーランドにはっちゃけるよう楽しそうに乗る事だった。



高校生にもなってそれはかなり恥ずかしいことだろう。



  陸とアンパン、桃子と香南の男女でチームを組んで

どちらがより多く景品を取ることができるかを競った。



陸はまあまあ上手、しかしアンパンはこういう繊細なゲームは

苦手だったようで陸の足を引っ張っていた。



桃子は四人の中で一番うまく、香南もそれなりの結果を出したので、

女子チームが圧勝してしまった。



「そんな馬鹿な・・」

唖然とする陸とアンパン。

やったね、と無邪気に喜ぶ桃子のタッチを香南は控えめに受けた。



 そうして頭を抱える陸をアンパンが

メリーゴーランドの方に引きずっていったのである。



バツゲームで陸とアンパンが二人、キラキラに装飾された馬車、

馬などがまわるメリーゴーランドに乗っている。



小さな子供や家族連れに混じって。

明らかに二人だけ浮きまくっていた。



その証拠に子供達に指されて大笑いされている。

陸は仏頂面で馬車に、アンパンはヒャッホー!と

人目もはばからず白馬に乗ってのりのりだ。



確かに楽しそうに乗る、

という罰だったがアンパンの場合素で楽しんでそうだった。



「陸君―、アンパンー! こっち向いてー」

スマホカメラを手に柵の外から、嬉々と桃子が声をかけている。



アンパンは誇らしそうに胸をそらし

満面の笑みでピースサインを返してくる。



パシャリ。



陸は信じられないという顔をしてアンパンと桃子を見つめていた。

明らかに香南達は周囲の注目を集めていた。



恥ずかくてこの場を離れ他人のふりをしたくなった。

その反面三人の様子があまりにも滑稽で、笑いを漏らしそうで堪える。



「香南?」

体の震えを感づかれて声をかけられる。



「面白い?」

桃子が顔を覗き込んでくる。



「・・・・」

「面白かったら笑えばいいのよ? 無理して我慢することなんてないんだからさ」



「べ、別に笑ってないわよ」

「楽しい思い出が出来てよかったわね」



桃子は穏やかな笑みを向けてきて、

恥ずかしげもなくそんなことを言う。



瞬間香南の体温が上昇し、顔が赤くなった。

どんな顔をしていいかわからず、思わず顔を背ける。



ふふ、と桃子が笑う声が聞こえてきたのだった。
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