◇第16話 激突!魔法少女ターシャとドラゴン!

文字数 2,121文字

アルクが、リュウが大きく目を見開いて驚愕の表情をしていた。



リュウの剣さえも通さなかったドラゴンの強固な皮膚を、

ターシャは魔法でいとも簡単に切り裂いてしまった。



首を失った胴体が横倒しになり地面に派手な音が響き渡る。

仲間を殺され他のドラゴン達の様子が変わる。



二匹とも低い唸り声を上げ鋭い眼光をターシャに差し向けてきた。

ターシャをこの場において最優先に倒すべき敵と視認したのだ。



アルク、リュウを放置し地面を踏み鳴らしてこちらにやってくる。よかった。

ターシャに標的を変えさせたことでとりあえず彼らの危機を防ぐことは出来たみたいだと安心する。



後はターシャが二匹を倒すだけ。

竜族に狙われたら最後、例外はなく獲物を仕留めるまで追ってくるだろう。



だから見逃すこともできないし逃げられない。

殺さなければこちらが殺される。両親から教わったことだ。



ドラゴンが大口を開けると炎をこちらに吐きつけてきた。

襲いくる紅蓮の柱めいたそれにターシャは手の先から、極限まで圧縮した冷気を放ち対峙する。



瞬時に炎が氷塊とかし、空中で砕け散った。

攻撃を阻止されても怯む様子もなくドラゴンは突進してくる。



かっと目を見開くと、ターシャの瞳の色だけでなく髪も、

栗色から燃え滾るような真紅へ。



体中に魔力をかき集め、眼前まで迫った敵を迎え撃つべく前へ。





二匹の巨大な獣と小さな少女が激突する異様な光景だった。







両手をドラゴンの方へ差し出す。

右に一頭、左に一頭。手の平を握りこむようなカタチにすると、

ドラゴンの動きがピタリと静止した。



凶暴なまでに息巻き襲ってきたことが嘘のように。

かたまったまま巨大な人形と化している。



固定した左右の手を振りぬくような速さでクロスさせる。

するとドラゴンの皮膚に鋭利なもので刈り取ったような傷が生じた。



立て続けに横に、縦に、斜めに腕を振ると共に、傷を負わせダメージを与えていく。

ターシャはドラゴンの動きを封じたまま、

その巨体を触れることなく、容赦なく八つ裂きにした。



一撃ごとに獣の咆哮があがる。

ターシャは必死、夢中だった。



ただただ大切な人達を守るために。





  断末魔のような唸り声を上げると二頭の竜は直立したまま絶命した。

倒したことを確認しターシャが腕を下ろすと同時、ドラゴンも地に伏し地面を振るわせた。



ターシャはその場にへたり込むようにして息をついた。

全身の力が抜ける。髪と目の色がそれそれ元に戻っていく。



生まれて初めてこんな大きな魔法を使ったせいだろう。

しばらく動けそうにない。眩暈を起こしてふらついた体を後ろから支えられた。



「リュウ・・・・」

先程のダメージから回復したのだろう。

大きな怪我もなくてほっとしたけれど・・ターシャは気まずくて目を逸らす。



彼の目の前で魔法を使ったのだ。

「驚いた。君が魔法使いだったなんて。だからさっきあんな質問をしたんだね」





彼はターシャを気遣うように穏やかに話す。

「大丈夫、君が家族思いの優しい女の子だってことを僕は知ってる。このことは誰にも言わないから安心して」



目を合わせる。包み込むようなまなざしがそこにいった。

熱いものがこみ上げる。



「リュウ・・ありがとう」

ターシャが魔女だと知っても味方でいてくれる。

彼の優しさに涙をこぼしそうになった。彼を信じてよかったと。



「お姉ちゃん! リュウお兄ちゃん!」

アルクが駆け寄ってきた。



「よかった、怪我はないみたいね」

安堵して無傷の弟を抱きしめた。



「お姉ちゃん、ごめんね、僕のせいでこんな・・」

「もういいのよ。皆無事だったんだから」



小さな頬を撫でて言った。

魔法を使ってしまった罪悪感より、大切な人達を守れた喜びの気持ちの方が勝っていた。



リュウがドラゴンの亡骸を眺めて感嘆するように呟く。

「しかし魔法というのはすごいな。あのドラゴンを三匹も倒してしまうなんて」



「私も信じられないわ、魔法をこんなに使ったのも初めてだし」 

戦いが終わり、緊張感がほどけて一息ついていたその時だった。





  瓦礫を踏むような音。

ひっという短い悲鳴が聞こえた。



血の気が急速に失せ背筋に冷たいものが走った。

三人ともそちらに視線を走らせる。



崩れ積もった近場の岩陰に一人、男性の村人がいた。

表情をひきつらせがたがたと震えている。



その様子から、ターシャが魔法でドラゴンを撃退する所を見られていたことを悟った。

「ま、魔女が、魔女が現れたっ―!」



ヒステリックに叫び続けながら男は逃げるように走り去っていった。

「待ってくださいっ!」



リュウが即座に追いかける。

「アルク、ターシャのことを頼む! 今すぐこの村から離れるんだ!」



ここから南に下れ、そう言い残すとリュウは行ってしまった。

ターシャは呆然としたままだった。



知られてしまった。

あんなにも村の人間には知られてはいけないと母に言われていたのに。



その事実にショックを受けて動けなかった。

服の袖が引っ張られる。見るとアルクが真摯な顔をしていた。



「お姉ちゃん、今のうちにどこかに隠れよう」

かたまったターシャの代わりに、弟はこの状況に対して今何をすべきなのか的確に判断しそれに従おうとしていた。



確かにここに残っていては危険だった。

アルクに支えてもらいながら、ターシャはまだふらつく足を踏ん張り立ち上がった。



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