フィンランド クオピオ(1)

文字数 955文字

2014年3月

 フィンランド中部の町クオピオに住む気候活動家オウガンは、サイガから送られてきた海水調査用ラジオゾンデの観測が突如途絶え、新たなデータが送られてこないことを不可解に思った。片やグリーンランドの方は滞りなく受信している。
 この時、オウガンはてっきりラジオゾンデのデータはサイガと共有しているものと思っていた。昨日短いメッセージと共に送られてきた、北極圏の海面水温の詳細過ぎる記録と、グリーンランドのセツド村という北緯七十七度の土地の外気温データ。この二つをサイガは提供してくれた。しかしながら彼の送信する際のミスなのか、データは昨日から観測が始まったことになっている。つまり一昨日以前のデータがこちらには届いていない。オウガンはサイガのメッセージにも書かれていた、“海氷荒らし” (サイガがそう呼んでいた)という現象が起こった時のデータを見たかった。
 オウガンはサイガに電話をかけた。一昨日以前のデータを送ってもらいたいことと、海水調査用ラジオゾンデの観測が止まってしまったことを伝えるために。どちらかと言うと観測が止まったことの方が問題だと思った。きっとすでにサイガの方で復旧させるための処置を始めているだろうが。
「・・・・・出ないな」
 一分間コールしたが応答がない。今日は土曜日で大学での講義はないはず。電話にはすぐ応じるサイガだけにオウガンは珍しいと思った。
「仕方ない、メールで連絡するか」
 その後数日経ってもサイガからの返事はなかった。海水調査用ラジオゾンデのデータも止まったまま、電話も何度かけても不通が続いた。
「どこにいるんだ?サイガ君・・・」
 オウガンの不安は日に日に増していき、ついにサイガの勤めるドランメン海洋科学大学に電話をかけた。職員の女性が応じてくれたが、サイガの名を出した途端、声はつまり、すすり泣きながら話し出した。
「サイガ先生は・・・事故でお亡くなりに・・・その日は船で仕事に向かわれていたんですがぐすっ・・・ええ、本学と提携する砕氷船ですが・・・急に行方不明になったそうで、乗組員の方の話では・・・海に落ちたのではと・・・」
 オウガンは電話の最後に「教えてくださってありがとう」と礼を言って受話器を置いた。サイガが死んだ?海に落ちて?事故なのか、それとも・・・自ら?
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