第3話 着物が似合う女

文字数 722文字

 要は着物が似合うしっとりとした銀座の女だ。凛とした佇まいが少し近寄りがたい印象を与えるが、実は茶目っ気もある情の深い女である。
 彼女は訪問着や付下げといったフォーマル系の着物が似合う。黒髪を大抵は夜会巻きに結っている。すっきりと形の良い襟足、顔の輪郭は卵型、富士額、柳眉、切れ長の涼しげな目元、鼻筋の通った色白の顔、唇の両端にキュッと窪みのあるおちょぼ口、綺麗な歯並び、なで肩ゆえに着物が似合う。
 要には明るい色調で四季折々の草花を染め上げた京友禅、艶麗な色彩で知られる加賀友禅などのはんなりとした友禅染や、ところどころ金糸を使って織り上げているために生地がきらきらと輝く金通(きんとお)しが良く似合う。
 帯は金や銀の西陣織が多く、正倉院文様などの古典文様が好みのようだ。セオリー通りに訪問着には袋帯、付下げには名古屋帯を合わせてきっちりとお太鼓に結んでいる。白い蝶の背紋を入れた薄紅(うすべに)色の金通しの色無地に金の袋帯をしめた要は、天女のように見えたものだ。
 そして草履。ここに要のセンスと合理精神は発揮される。クラブは結婚披露宴会場ではないので、礼装用の草履を履く必要はない。要はヒール付きの小粋なダンス用の洋風草履を好んで履いているのだ。コルク材を使用しているので軽く、足にぴったりとフィットするので歩きやすく、疲れにくくて良いのだと言う。
 ただし、この洋風草履は後継者不足で絶滅の危機に瀕しているので、「なんとかならないものかしら……」と要は心を痛めている。私にはいかんともしがたいことなので心苦しい。いや、要は決して私を責めたりはしないのだが。要が困っているのに何もしてやれない自分が情けなく恥ずかしく感じるのだ。
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