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文字数 1,323文字
「それなら私のアカウントを使いましょう。うまく雅也に言いきかせるから、代わりにメール打って」
「そ、そんなこと言って、俺を騙そうっていうんだろう! 駄目だぞ。そんなの。騙されたりしないんだぞ」
すっかり自信を失くしたのか、どうにもちぐはぐな台詞回しで合田が言う。
「あなた、雅也の前で私を殺したいんでしょ? ただ殺したいわけじゃなくて、雅也の前で、雅也の悲嘆を愉しみながら。なら協力してよ。呼び出すから」
合田はしばらく目をきょろきょろさせて迷っていた。
しばらくして、初めてのお使いを任せられた小さな子供のように、こくりと頷いた。
あたしが教えたアカウントでウェブメールにログインすると、チャットで待っている旨入力し、雅也のアドレスに送信した。それから喪失の小部屋を開き、『神崎』の名前で待機した。
【おっす! こんな時間に珍しいな】
雅也はすぐに気付いてやってきた。おまえどんだけ神崎が好きなんだ。
「どういうことだ? これって雅也なのか? おまえら、なんでチャットで話してんだ? 神崎って誰だ?」
「真紀ちゃんを誘拐した、って打って」
合田は不可解そうに首を捻っていたが、言われた通りに入力した。
【……どういうことだ?】
「そのまんまの意味だよ。おまえリアルでやりたいって云ってただろ」
【なんの冗談だ? 本気なのか?】
「本気だ。リアルで人を殺してみたくなった」
【やめてくれ神崎さん。俺、あんたのこと信じてたんだぞ!】
「ハッ。信じたおまえが悪いんだよ。可哀想にな。真紀ちゃん、今、縄で縛られて、怖がって泣きながらおまえを呼んでるぜ」
「どこが怖がって泣いてるんだよ」
「いいからそう打って」
【てめえ。本気みたいだな。真紀に何かしたら、ただじゃおかねえぞ!】
「来いよ雅也。チャットの再現をしようぜ。おまえの前で真紀ちゃんを殺してやるよ。――ここの住所打って。何かわかりやすい目印も。できれば地図サイトもつけて!」
合田はかちかちと激しく携帯のキーを叩いた。
【すぐ行く! そこで待ってろ! 今から出発するから、三十分後くらいに着くからな!】
「早く来ないと真紀ちゃんが死体になっちまうぜぇ、って打っていいか?」
「いいと思う」
【真紀に手を出したら、ぶっ殺してやるからな! じゃあ、またあとでなっ!!】
雅也がチャットを落ちた。
合田が興奮した様子で、携帯を見つめている。来いよ、と口元に笑みを浮かべ、悪役の演技に陶酔している。雅也の反応が良かったので、機嫌をなおしたようだ。
これで精一杯だった。
雅也が神崎の言葉を真に受けて、警察に届けてくれれば一番良かったが、雅也の反応を見る限り、望み薄そうだ。文末に小さい「っ」まで打っている余裕があるのは、真に受けていないということだろう。
おそらく雅也は、神崎がリアルで会う誘いにのってきてくれた――そう思っているはずだ。油断しきって、わくわくしながらやってくるだろう。そんな状態で、ナイフを持った合田に太刀打ちできるだろうか。
雅也が負けないよう、援護しなければならない。あたしは腕を捻ってポケットの中を探った。
「そ、そんなこと言って、俺を騙そうっていうんだろう! 駄目だぞ。そんなの。騙されたりしないんだぞ」
すっかり自信を失くしたのか、どうにもちぐはぐな台詞回しで合田が言う。
「あなた、雅也の前で私を殺したいんでしょ? ただ殺したいわけじゃなくて、雅也の前で、雅也の悲嘆を愉しみながら。なら協力してよ。呼び出すから」
合田はしばらく目をきょろきょろさせて迷っていた。
しばらくして、初めてのお使いを任せられた小さな子供のように、こくりと頷いた。
あたしが教えたアカウントでウェブメールにログインすると、チャットで待っている旨入力し、雅也のアドレスに送信した。それから喪失の小部屋を開き、『神崎』の名前で待機した。
【おっす! こんな時間に珍しいな】
雅也はすぐに気付いてやってきた。おまえどんだけ神崎が好きなんだ。
「どういうことだ? これって雅也なのか? おまえら、なんでチャットで話してんだ? 神崎って誰だ?」
「真紀ちゃんを誘拐した、って打って」
合田は不可解そうに首を捻っていたが、言われた通りに入力した。
【……どういうことだ?】
「そのまんまの意味だよ。おまえリアルでやりたいって云ってただろ」
【なんの冗談だ? 本気なのか?】
「本気だ。リアルで人を殺してみたくなった」
【やめてくれ神崎さん。俺、あんたのこと信じてたんだぞ!】
「ハッ。信じたおまえが悪いんだよ。可哀想にな。真紀ちゃん、今、縄で縛られて、怖がって泣きながらおまえを呼んでるぜ」
「どこが怖がって泣いてるんだよ」
「いいからそう打って」
【てめえ。本気みたいだな。真紀に何かしたら、ただじゃおかねえぞ!】
「来いよ雅也。チャットの再現をしようぜ。おまえの前で真紀ちゃんを殺してやるよ。――ここの住所打って。何かわかりやすい目印も。できれば地図サイトもつけて!」
合田はかちかちと激しく携帯のキーを叩いた。
【すぐ行く! そこで待ってろ! 今から出発するから、三十分後くらいに着くからな!】
「早く来ないと真紀ちゃんが死体になっちまうぜぇ、って打っていいか?」
「いいと思う」
【真紀に手を出したら、ぶっ殺してやるからな! じゃあ、またあとでなっ!!】
雅也がチャットを落ちた。
合田が興奮した様子で、携帯を見つめている。来いよ、と口元に笑みを浮かべ、悪役の演技に陶酔している。雅也の反応が良かったので、機嫌をなおしたようだ。
これで精一杯だった。
雅也が神崎の言葉を真に受けて、警察に届けてくれれば一番良かったが、雅也の反応を見る限り、望み薄そうだ。文末に小さい「っ」まで打っている余裕があるのは、真に受けていないということだろう。
おそらく雅也は、神崎がリアルで会う誘いにのってきてくれた――そう思っているはずだ。油断しきって、わくわくしながらやってくるだろう。そんな状態で、ナイフを持った合田に太刀打ちできるだろうか。
雅也が負けないよう、援護しなければならない。あたしは腕を捻ってポケットの中を探った。