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文字数 1,039文字
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【どういうこと? なんで、その林って人が、俺に何かするんだ。俺、その人とチャットしたこともないのに】
神崎の名前で雅也をチャットに呼び出した。事の次第を告げると、雅也は不可解そうな反応を示した。
当然だった。林とチャットしたのはあたしの方なのだ。あたしの喪失相手として自分が出演したことを、雅也は知らない。あたしに関する部分を省いて話そうとすると、噂で聞いたんだが、という曖昧な説明にならざるを得ない。
【名前を使い分けていたんじゃないか】
なんとか、雅也が身辺に警戒してくれるように仕向けなければならない。あらかじめ考えていたカバーストーリーを打ち込んだ。
【おまえがチャットをした通知者役の中に、『林』が紛れ込んでいた。それで、おまえに目をつけたとか】
【いや悪戯だろ。この前もあったんだ。この頃、神崎さん以外のチャットを断ってたら、結構悪質な誘いとかきてさ。反応するから面白がるんだ。構ってたらきりがない】
雅也はにべもない。
無力感を感じた。雅也はあたしの言うことなど、聞いてはくれないのだ。
【そんなことよりさ、久しぶりにチャットやるかー?】
【そんなこと?】
伝わらなさが苛立ちに変わった。
心配しているのに、あたしを死なせることばかり考えている男なんてもう知らない。
【こんなチャットの方が、そんなことじゃないか。おまえ結局、死ねば誰でもいいんだろ。別に真紀を好きなわけじゃないんだろ】
【ふざけんな。違えよ。真紀じゃなきゃ駄目なんだ。真紀だと思うから、チャットだとわかってても気持ちが揺れるんだって。なんだよ。そんな風に思ってたのかよ】
どうしてその言葉を現実で言ってくれないのだ。なぜあたしでなく殺人犯に言うのか。
【なあ、一度リアルで会わないか? 直接話がしたいんだ】
見知らぬ殺人者を誘うより、恋人に話しかけてやってほしい。
自分は少しずつ死んでいるのだと感じた。神崎に殺されるごとに、どうにもならない関係に、ゆっくりと殺されているのだ。
でも真紀ちゃんを死なせないでくれよ。殺される前に、おまえ助けてやれよ。そう打ち込んでから、消した。
もう終わりなのかもしれない。ずるずると引き伸ばしていただけで、本当は雅也との関係は、とっくの昔に終わりを迎えていたのかもしれない。
こんなチャットのことなど、もう忘れよう。
そうすれば終わりかけた恋愛に縋るのも、諦められるかもしれないと思った。