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文字数 775文字
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林からのメールは、そのうち来なくなった。
ひょっとしたら、下手に大事になる前に、由香里が裏で警告を入れてくれたのかもしれない。もしそうならばありがたかった。
大学から帰り際、マンションの郵便受けを開けると、封筒が一通入っていた。
例の白い封筒だった。開封すると、便箋に一言、
『殺してやる!!!!!!!』
部屋に戻ると、林宛てに機械的にメールを打った。
【もうあのチャットには行きません。次やったら警察に通報しますのであしからず。
あと感嘆符が多いです。記号に頼るのではなく文章全体で表現してください。】
すぐに返事が返ってきた。
【やっぱり、メールしつこかったでしょうか。すみません。もう送りません……。でも感嘆符ってなんですか】
何かピントがずれている。
手紙のことではなく、もうしばらく前に止まっていた、メールのことについて詫びているようだ。感嘆符はビックリマークのことだ。
考え込んでいると、チャイムが鳴った。あたしは封筒を机に置き、部屋を横切って玄関のドアを開けた。
立っていたのは見知らぬ男だった。
にやにやとした笑みを浮かべ、あたしの全身を舐めるように見つめている。
――ああ、そうか。
その顔を見た瞬間、あたしはほぼ直感で理解した。
メールの送り主は林さんだったけど、封筒の送り主は、違う人物だったのか。
「会いたかったぜ、真紀さん」
男があたしに手を伸ばしてきた。顔にハンカチを押し当てられた。視界が無数の黒猫の絵柄でいっぱいになった。ジジか。
足先から力が抜けて、あたしはへたりこんだ。
男があたしの身体を抱える。遠くなっていく意識の隅で、殺されるのかな、と思った。あたしが殺されたら雅也はどうするだろう。
イメージトレーニングだけは完璧なのだった。