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文字数 775文字


      *

 林からのメールは、そのうち来なくなった。
 ひょっとしたら、下手に大事になる前に、由香里が裏で警告を入れてくれたのかもしれない。もしそうならばありがたかった。
 大学から帰り際、マンションの郵便受けを開けると、封筒が一通入っていた。
 例の白い封筒だった。開封すると、便箋に一言、

『殺してやる!!!!!!!』

 部屋に戻ると、林宛てに機械的にメールを打った。

【もうあのチャットには行きません。次やったら警察に通報しますのであしからず。
 あと感嘆符が多いです。記号に頼るのではなく文章全体で表現してください。】

 すぐに返事が返ってきた。

【やっぱり、メールしつこかったでしょうか。すみません。もう送りません……。でも感嘆符ってなんですか】

 何かピントがずれている。
 手紙のことではなく、もうしばらく前に止まっていた、メールのことについて詫びているようだ。感嘆符はビックリマークのことだ。

 考え込んでいると、チャイムが鳴った。あたしは封筒を机に置き、部屋を横切って玄関のドアを開けた。
 立っていたのは見知らぬ男だった。
 にやにやとした笑みを浮かべ、あたしの全身を舐めるように見つめている。

 ――ああ、そうか。
 その顔を見た瞬間、あたしはほぼ直感で理解した。
 メールの送り主は林さんだったけど、封筒の送り主は、違う人物だったのか。

「会いたかったぜ、真紀さん」

 男があたしに手を伸ばしてきた。顔にハンカチを押し当てられた。視界が無数の黒猫の絵柄でいっぱいになった。ジジか。
 足先から力が抜けて、あたしはへたりこんだ。
 男があたしの身体を抱える。遠くなっていく意識の隅で、殺されるのかな、と思った。あたしが殺されたら雅也はどうするだろう。

 イメージトレーニングだけは完璧なのだった。
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