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文字数 946文字


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 雅也はあたし扮する神崎とのチャットを、すっかり気に入ったようだった。他の通知者たちの誘いは断って、あたしとのチャットだけするようになった。

【神崎さんのに比べたら、他の人のはつまらなくてさ】

 あたしの殺され方は様々だった。ロープや手で首を絞められたり、青酸カリの入ったコーヒーを飲んで喀血したり、テロリストの仕掛けた爆弾を解除できずに吹っ飛んだりなどした。

 辞書を調べてみると、殺害方法というのは驚くほどバリエーション豊かなものだった。撲殺にはじまり、刺殺、射殺、絞殺、扼殺、毒殺に爆殺、轢殺に天誅殺など、試しきれないほどいろいろな種類がある。もう特許とかとればいい。チャットをする日は、鏡に映った自分の身体を覗き込みながら、今日はどうやって殺そうかうきうき考えるのが習慣になった。

 雅也があたしの死体と対面する場所も様々だった。病院、無人島、孤島の洋館、ニューヨークのスラム街。サバンナでライオンに食べられてしまったのは、さすがにやりすぎだったと二人で反省した。

 馬鹿なことをやっているという自覚はあった。
 それでも自分の死に様を雅也に見てもらうのは楽しかった。
 あたしが綺麗な服を着ても、化粧を変えても、雅也は興味を示さない。でもあたしの死には、泣いたり悔しがったりしてくれる。それが嬉しかった。毎回同じではなく、変化をつけると雅也の反応も変わる。それが楽しかった。
 それは雅也も同じようだった。

【なんか、凄く呼吸が合うんだよ。こういうの、相性っていうんだろうな】

 殺しを重ねるうち、あたしは殺される自分を、妙に冷静な目でみつめている自分に気付いた。
 殺人者のあたしは、雅也を喜ばせようとしている。だからこうやって楽しく会話ができる。
 でも死んだあたしは、何もせずにただ雅也に愛してもらおうとばかり考えていた。だからうまくいかなかったのだ。
 優越感と嫉妬を同時に感じた。だってどれだけ神崎が雅也を楽しませても、それで雅也が涙を流すのは、死にゆくあたしを愛しんでのことなのだ。

 ひょっとしたら、自分はずっとこうやって、自分の中の何かを殺してしまいたかったのかもしれない。
 あたしはあたしの首すじを切り裂きながら、そう思った。
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