第29話 宗教都市アルガンド
文字数 1,576文字
宗教都市アルガンド。大陸の中で最大の信者数を誇るマナ教の聖地である。マナ教はダナイ皇国の国教でもあり、ダナイ皇国内においては政治的にも保護されている宗教だった。
国教であるマナ教の最高指導者、教皇に任じられているのがファブリスと邪神討伐の一行に加わった聖女とも呼ばれているマルヴィナである。討伐の時には単なる上位神官だったマルヴィナだったが、今では邪神討伐の功績が認められて教皇となっているのだった。
天性の美貌と相まって地上に降臨した天使とも噂されているマルヴィナ。だが、ファブリスにとってはその名、顔を思い出すだけで憎しみの炎が生じる。そして、その炎はファブリス自身をも焼き尽くしてしまうかのようだった。
アルガンドを取り囲む高い城壁を超えて都市の内部に入ると、そこは活気に溢れていて人の往来も多かった。三年ほど前に邪神の恐怖も取り除かれて、皆が訪れた安寧をまさに享受しているといった趣きだった。
また、マナ教の聖地だけあって聖職者らしき人々の姿も多く見られるのがアルガンドの特徴なのかもしれない。
ファブリスはふと隣を歩くエルに視線を向けた。
「エル、お前はマナ教の信者じゃないのか?」
ファブリスがそう言うのも当然で、国教にも指定されているだけあってダナイ皇国国民の大半はマナ教を信仰している。人族だけではなく魔族にもその信者は多いはずだった。エルはファブリスの言葉に赤色の頭を左右に振った。
「違うよ。私は大地母神マーファ様を信仰してるから」
大地母神マーファ。この大地を作ったとされている女神だった。ダナイ皇国の僻地に存在する魔族の村では信仰している者も多いと聞いたことがあった。
もっとも宗教と呼べるほどは体現化されておらず、自然信仰に近い原始的な宗教といってよかった。
「何だ、エルは大地母神の信者なのか」
マーサが会話に入ってくる。
「信者っていうか、子供の頃から普通に信じてるだけだよ。お父さんやお母さんがそうだったから自然とそうなった感じかな」
そんなものなのかと言ってマーサが納得したように頷いている。
「マーサは何の信者なの?」
「私は当然、邪神様の信者だぞ。獣人族はみんなそうだ」
マーサは何故か胸を張ってそんなことを言っている。
……邪神は存在そのものであって宗教ではないだろう。
そう思ってファブリスは内心で呆れた呟きをした。
「へえ、やっぱりそうだよね。じゃあファブリスさんはマーサの神様なんだね」
何がやっぱりそうなのかがよく分からないエルの言葉にマーサが嬉しそうに頷いている。
何が嬉しいのか分からないし、そもそも邪神は神ではないと言おうかと思ったファブリスだったが、話が長くなりそうだったので言葉を飲み込んで別の言葉を口にした。
「しばらくの間はここにいることになるな。マーサ、エル、長く宿泊できる宿を探しておいてくれ」
ファブリスはそう言って、ふと足を止めた。そして、街中を見渡した。人の往来も多い活気がある街だ。
聖職者らしき者の姿も多く目につく。武装した騎士も多い。騎士たちはマナ教騎士団なのだろう。
マルヴィナがどこにいるのかは分からない。だが、ここに滞在していればいずれは会うことができるだろうとファブリスは思っていた。ここはマルヴィナの本拠地なのだ。
焦ることはない。ファブリスはそう自分に言い聞かせていた。実際、マルヴィナに手が届くところにきて自分の中に逸る気持ちが生まれるのを感じていたのだ。
そんな特定の個人に向けられている自分の感情に、ファブリスは少しだけ驚いていた。恨みということであれば人族、魔族全てにそれを抱いているつもりだったが、どうやら単純にそういうことでもないようだった。
となるとアズラルトと相対した時、自分はどうなるのだろうかファブリスは思った。感情の赴くままに邪神の力を解放するのか……。
国教であるマナ教の最高指導者、教皇に任じられているのがファブリスと邪神討伐の一行に加わった聖女とも呼ばれているマルヴィナである。討伐の時には単なる上位神官だったマルヴィナだったが、今では邪神討伐の功績が認められて教皇となっているのだった。
天性の美貌と相まって地上に降臨した天使とも噂されているマルヴィナ。だが、ファブリスにとってはその名、顔を思い出すだけで憎しみの炎が生じる。そして、その炎はファブリス自身をも焼き尽くしてしまうかのようだった。
アルガンドを取り囲む高い城壁を超えて都市の内部に入ると、そこは活気に溢れていて人の往来も多かった。三年ほど前に邪神の恐怖も取り除かれて、皆が訪れた安寧をまさに享受しているといった趣きだった。
また、マナ教の聖地だけあって聖職者らしき人々の姿も多く見られるのがアルガンドの特徴なのかもしれない。
ファブリスはふと隣を歩くエルに視線を向けた。
「エル、お前はマナ教の信者じゃないのか?」
ファブリスがそう言うのも当然で、国教にも指定されているだけあってダナイ皇国国民の大半はマナ教を信仰している。人族だけではなく魔族にもその信者は多いはずだった。エルはファブリスの言葉に赤色の頭を左右に振った。
「違うよ。私は大地母神マーファ様を信仰してるから」
大地母神マーファ。この大地を作ったとされている女神だった。ダナイ皇国の僻地に存在する魔族の村では信仰している者も多いと聞いたことがあった。
もっとも宗教と呼べるほどは体現化されておらず、自然信仰に近い原始的な宗教といってよかった。
「何だ、エルは大地母神の信者なのか」
マーサが会話に入ってくる。
「信者っていうか、子供の頃から普通に信じてるだけだよ。お父さんやお母さんがそうだったから自然とそうなった感じかな」
そんなものなのかと言ってマーサが納得したように頷いている。
「マーサは何の信者なの?」
「私は当然、邪神様の信者だぞ。獣人族はみんなそうだ」
マーサは何故か胸を張ってそんなことを言っている。
……邪神は存在そのものであって宗教ではないだろう。
そう思ってファブリスは内心で呆れた呟きをした。
「へえ、やっぱりそうだよね。じゃあファブリスさんはマーサの神様なんだね」
何がやっぱりそうなのかがよく分からないエルの言葉にマーサが嬉しそうに頷いている。
何が嬉しいのか分からないし、そもそも邪神は神ではないと言おうかと思ったファブリスだったが、話が長くなりそうだったので言葉を飲み込んで別の言葉を口にした。
「しばらくの間はここにいることになるな。マーサ、エル、長く宿泊できる宿を探しておいてくれ」
ファブリスはそう言って、ふと足を止めた。そして、街中を見渡した。人の往来も多い活気がある街だ。
聖職者らしき者の姿も多く目につく。武装した騎士も多い。騎士たちはマナ教騎士団なのだろう。
マルヴィナがどこにいるのかは分からない。だが、ここに滞在していればいずれは会うことができるだろうとファブリスは思っていた。ここはマルヴィナの本拠地なのだ。
焦ることはない。ファブリスはそう自分に言い聞かせていた。実際、マルヴィナに手が届くところにきて自分の中に逸る気持ちが生まれるのを感じていたのだ。
そんな特定の個人に向けられている自分の感情に、ファブリスは少しだけ驚いていた。恨みということであれば人族、魔族全てにそれを抱いているつもりだったが、どうやら単純にそういうことでもないようだった。
となるとアズラルトと相対した時、自分はどうなるのだろうかファブリスは思った。感情の赴くままに邪神の力を解放するのか……。