第48話 導かれる者たち
文字数 1,673文字
黙り込んでしまったエルを見てアイシスはエルが照れていると思ったのか、揶揄うかのように口を開いた。
「なんじゃ? 恥ずかしがっておるのか。初心じゃのう」
「初心? 婆さんみたいなことを言って……そうか、そうだったな。ちんちくりんの中身は婆さんだったな」
マーサの言葉にアイシスは血相を変えると、手にしていた杖でマーサの頭を叩き始めた。
「おい、止めろ、ちんちくりん! それは流石に痛いぞ!」
マーサが頭を押さえながら狭い部屋の中を駆け回る。それを追いかけようとするアイシスの小さな体を羽交締めにしながら、エルは小さな溜息をついた。
「もう、いい加減にしてよ。また、ファブリスさんにうるさいって叱られるんだから」
エルの口からファブリスの名が出されるとマーサが途端に大人しくなる。大人しくなったマーサでは面白くないのか、エルの腕から逃れたアイシスは追いかけるのを止めて再び寝台の上に座った。
「それにしても、お主らはこのまま邪神について行くのか?」
アイシスの言葉にマーサは鼻息を荒げて大きく頷いた。
「もちろんだぞ。私の主人は邪神様、ファブリス様なのだからな」
「まあ……お主がそう言うのは分かっていたがのう」
半ば呆れ気味に、そして興味がなさそうにアイシスは言うと、黒色の瞳を今度はエルに向けた。
「魔族の娘はどうするのじゃ?」
以前にも同じようなことをアイシスに尋ねられたが、今もその答えを変えるつもりはなかった。
「私も行くよ。マーサみたいに戦えるわけじゃないし、何ができるわけではないけど最後まで一緒に行くつもりだよ」
「ちんちくりん、少しだけしつこいぞ。何度、同じ話をする。エルは私の妹分なのだからな。だから、私やファブリス様と一緒に行くのだ。それで何の問題もない。エルの身は私が守るのだしな」
「やれやれ、獣人族はお気楽でいいのう」
そのまま珍しくアイシスはマーサの言葉に突っかかっていくこともなく黙り込んだ。
「ねえ、アイシスは何で私たちについてくるの?」
エルはアイシスと初めて会った時から疑問に思っていたことを改めて口にした。
「前にも言ったように、妾は調停者なのじゃよ」
調停者。何度かその言葉を聞いたのだが、全くもって意味が分からないとエルは思う。
「アイシスは私たちの味方なんだよね?」
「そのように真顔で味方かと訊かれると、微妙じゃろうな。妾は調停者だからのう」
アイシスはエルに向かってそう言うと、今度はマーサに顔を向けた。
「獣人族、そんなに怖い顔をするな。だからと言って、お主たちに害をなそうと言っているわけではない」
気づけばマーサは今にもアイシスに飛びかからんばかりの顔をしていた。
「調停者って何をする人なのかな?」
「どうじゃろうな。それが妾の罪なのじゃよ。だから調停者なのじゃ」
罪。確か以前にも同じことをアイシスは言っていたかと思う。それが何の罪なのか。アイシスには今ここでそれを明らかにするつもりはなさそうだった。エルはそのまま別の疑問を口にした。
「私のことを古代魔族とも言っていたよね? 古代魔族なんて言葉、聞いたこともないのだけれど」
「何じゃ、聞いたこともないと? 本当にお主たちは知らぬのか?」
驚きを示したアイシスの言葉にエルもマーサも頭を左右に振った。
「長い時間の中で埋没したのじゃろうな。邪神と古代魔族は関わりが深いのじゃ。そもそも邪神は古代魔族から生まれた者。そして、魔族が引き継ぐものなのじゃよ。知っておるか? 古代魔族と魔族は異なる者なのじゃ」
駄目だ。アイシスが何を言っているのかがよく分からない。知っておるかと言われても古代魔族を知らないので、そんなことを知るはずもない。そんなエルの気持ちが通じたのか、マーサが口を開いたり
「おい、ちんちくりん、何を言っている? 分かるように話せ!」
「まあ、焦るでない。怒るでない。今は全てを説明しても理解できぬ。」
アイシスは片手をマーサの前でひらひらとさせながら言葉を続けた。
「それに妾とて全てを知っている訳ではない。全ては導かれるように集まりつつあるのじゃて。この王都にな」
「なんじゃ? 恥ずかしがっておるのか。初心じゃのう」
「初心? 婆さんみたいなことを言って……そうか、そうだったな。ちんちくりんの中身は婆さんだったな」
マーサの言葉にアイシスは血相を変えると、手にしていた杖でマーサの頭を叩き始めた。
「おい、止めろ、ちんちくりん! それは流石に痛いぞ!」
マーサが頭を押さえながら狭い部屋の中を駆け回る。それを追いかけようとするアイシスの小さな体を羽交締めにしながら、エルは小さな溜息をついた。
「もう、いい加減にしてよ。また、ファブリスさんにうるさいって叱られるんだから」
エルの口からファブリスの名が出されるとマーサが途端に大人しくなる。大人しくなったマーサでは面白くないのか、エルの腕から逃れたアイシスは追いかけるのを止めて再び寝台の上に座った。
「それにしても、お主らはこのまま邪神について行くのか?」
アイシスの言葉にマーサは鼻息を荒げて大きく頷いた。
「もちろんだぞ。私の主人は邪神様、ファブリス様なのだからな」
「まあ……お主がそう言うのは分かっていたがのう」
半ば呆れ気味に、そして興味がなさそうにアイシスは言うと、黒色の瞳を今度はエルに向けた。
「魔族の娘はどうするのじゃ?」
以前にも同じようなことをアイシスに尋ねられたが、今もその答えを変えるつもりはなかった。
「私も行くよ。マーサみたいに戦えるわけじゃないし、何ができるわけではないけど最後まで一緒に行くつもりだよ」
「ちんちくりん、少しだけしつこいぞ。何度、同じ話をする。エルは私の妹分なのだからな。だから、私やファブリス様と一緒に行くのだ。それで何の問題もない。エルの身は私が守るのだしな」
「やれやれ、獣人族はお気楽でいいのう」
そのまま珍しくアイシスはマーサの言葉に突っかかっていくこともなく黙り込んだ。
「ねえ、アイシスは何で私たちについてくるの?」
エルはアイシスと初めて会った時から疑問に思っていたことを改めて口にした。
「前にも言ったように、妾は調停者なのじゃよ」
調停者。何度かその言葉を聞いたのだが、全くもって意味が分からないとエルは思う。
「アイシスは私たちの味方なんだよね?」
「そのように真顔で味方かと訊かれると、微妙じゃろうな。妾は調停者だからのう」
アイシスはエルに向かってそう言うと、今度はマーサに顔を向けた。
「獣人族、そんなに怖い顔をするな。だからと言って、お主たちに害をなそうと言っているわけではない」
気づけばマーサは今にもアイシスに飛びかからんばかりの顔をしていた。
「調停者って何をする人なのかな?」
「どうじゃろうな。それが妾の罪なのじゃよ。だから調停者なのじゃ」
罪。確か以前にも同じことをアイシスは言っていたかと思う。それが何の罪なのか。アイシスには今ここでそれを明らかにするつもりはなさそうだった。エルはそのまま別の疑問を口にした。
「私のことを古代魔族とも言っていたよね? 古代魔族なんて言葉、聞いたこともないのだけれど」
「何じゃ、聞いたこともないと? 本当にお主たちは知らぬのか?」
驚きを示したアイシスの言葉にエルもマーサも頭を左右に振った。
「長い時間の中で埋没したのじゃろうな。邪神と古代魔族は関わりが深いのじゃ。そもそも邪神は古代魔族から生まれた者。そして、魔族が引き継ぐものなのじゃよ。知っておるか? 古代魔族と魔族は異なる者なのじゃ」
駄目だ。アイシスが何を言っているのかがよく分からない。知っておるかと言われても古代魔族を知らないので、そんなことを知るはずもない。そんなエルの気持ちが通じたのか、マーサが口を開いたり
「おい、ちんちくりん、何を言っている? 分かるように話せ!」
「まあ、焦るでない。怒るでない。今は全てを説明しても理解できぬ。」
アイシスは片手をマーサの前でひらひらとさせながら言葉を続けた。
「それに妾とて全てを知っている訳ではない。全ては導かれるように集まりつつあるのじゃて。この王都にな」