第34話 変なこと
文字数 1,575文字
厳重な警備を気にするつもりはなかった。マナ教騎士団の騎士がどれだけいようと、全てを根絶やしにしてマルヴィナの下に行けばいいだけなのだから。話としては凄く単純だとファブリスは思っている。
だが、肝心なマルヴィナの居場所が分からない。ただ、自分が姿を見せれば自ずとマルヴィナが現れるとの予感もあった。
ただ、それに対してマルヴィナが一人でのこのこと現れるとは思えなかった。おそらくは多くのマナ教騎士団とやらを引き連れての対面となるはずだった。
マルヴィナが現れるのを待つのも面倒だし、マルヴィナと共に現れるのであろうマナ教騎士団を相手にするのも面倒だとファブリスは単純に思う。
ならば、面倒ついでに今から大聖堂に乗り込んで、マルヴィナを探すか。どうせ人族も魔族も皆殺しの対象でしかないのだ。もしマルヴィナがいないのであれば、それはその時に考えればいい気がしてきた。
「ファブリスさん、何か変なことを考えていますよね」
急にエルが断言するかのように言う。
……変なことではない。
……いや、変なことなのだろうか。
ファブリスは心の中で首を捻る。
「とにかく無茶は止めて下さい」
エルが何故か真剣な顔をしている。
無茶?
ファブリスは心の中でエルの言葉を繰り返す。
エルが何を言おうとしているのかファブリスには分からなかった。
「エルは心配しているんですよ。ファブリス様のことを」
マーサが要領を得ていない様子のファブリスを見て口を挟んでくる。
「そ、そういうことじゃなくて……」
エルが慌てたように言うのを見ながら、ファブリスは話の流れが未だによく分からないと思う。
そもそも、なぜエルが自分の心配をするのかがよく分からない。
「余計な心配はするな。ここでマナ教騎士団と真正面から遣り合うのは得策じゃない。数が多すぎる。それに、こちらはエルを連れている。単に斬り合えばいいってものでもない。それ位のことは俺も考えている」
「あら? ファブリス様も何だかんだ言ってもエルの心配をしているのですね」
「……へ?」
マーサがさらりと言った言葉に反応して、エルが思わずといった感じでそんな言葉を発していた。ファブリス自身も即座にはマーサに返す言葉がなかった。
「……まあいい。取り敢えずはマルヴィナの居場所だな。マーサ、それを探ってくれ」
ファブリスの言葉にマーサが少しだけ笑みを浮かべて頷いたのだった。
マルヴィナの居場所を探ってくれとファブリスに言われたものの、どうすればよいのか皆目見当がつかないエルとマーサだった。宿で考え込んでいても仕方がないので、取り敢えずはもう一度大聖堂へ行こうという話になった。
大聖堂の前にある広場は前と変わらず人で溢れている。物々しい雰囲気のマナ教騎士団と思しき騎士も多く見られるが、他の人たちはそれを気にする素振りは見られなかった。皆、自分には関係ないことだと思っているのだろう。
そもそも教皇のマルヴィナが一般信者たちの前に出てくることなどがあるのだろうか。
エルはそう思いながら、広場で左右を見渡した。一組の老夫婦と思しき人たちがエルの視界にあった。二人とも頭巾がついた灰色の外套を着込んでいた。
エルはその二人に近づいて声をかけた。
「あの、少しだけいいでしょうか?」
老夫婦は不意に声をかけてきた魔族の若い娘に訝しげな顔をする。
「教皇様、マルヴィナ教皇様が信者の前に姿を見せることなどあるのでしょうか? 私たち旅の途中で立ち寄ったのですが、できればマルヴィナ教皇様のご尊顔を拝したいと……」
エルの言葉に老夫婦の目が輝いた。
「あらあら、お若い魔族なのに随分と敬虔なこと」
嬉しそうにしながら老婆は小さな手の平を自分の胸の前で重ね合わせた。ただ、悪意はないのだろうが魔族とわざわざ言及するところにエルは、もやっとしたものを感じてしまう。
だが、肝心なマルヴィナの居場所が分からない。ただ、自分が姿を見せれば自ずとマルヴィナが現れるとの予感もあった。
ただ、それに対してマルヴィナが一人でのこのこと現れるとは思えなかった。おそらくは多くのマナ教騎士団とやらを引き連れての対面となるはずだった。
マルヴィナが現れるのを待つのも面倒だし、マルヴィナと共に現れるのであろうマナ教騎士団を相手にするのも面倒だとファブリスは単純に思う。
ならば、面倒ついでに今から大聖堂に乗り込んで、マルヴィナを探すか。どうせ人族も魔族も皆殺しの対象でしかないのだ。もしマルヴィナがいないのであれば、それはその時に考えればいい気がしてきた。
「ファブリスさん、何か変なことを考えていますよね」
急にエルが断言するかのように言う。
……変なことではない。
……いや、変なことなのだろうか。
ファブリスは心の中で首を捻る。
「とにかく無茶は止めて下さい」
エルが何故か真剣な顔をしている。
無茶?
ファブリスは心の中でエルの言葉を繰り返す。
エルが何を言おうとしているのかファブリスには分からなかった。
「エルは心配しているんですよ。ファブリス様のことを」
マーサが要領を得ていない様子のファブリスを見て口を挟んでくる。
「そ、そういうことじゃなくて……」
エルが慌てたように言うのを見ながら、ファブリスは話の流れが未だによく分からないと思う。
そもそも、なぜエルが自分の心配をするのかがよく分からない。
「余計な心配はするな。ここでマナ教騎士団と真正面から遣り合うのは得策じゃない。数が多すぎる。それに、こちらはエルを連れている。単に斬り合えばいいってものでもない。それ位のことは俺も考えている」
「あら? ファブリス様も何だかんだ言ってもエルの心配をしているのですね」
「……へ?」
マーサがさらりと言った言葉に反応して、エルが思わずといった感じでそんな言葉を発していた。ファブリス自身も即座にはマーサに返す言葉がなかった。
「……まあいい。取り敢えずはマルヴィナの居場所だな。マーサ、それを探ってくれ」
ファブリスの言葉にマーサが少しだけ笑みを浮かべて頷いたのだった。
マルヴィナの居場所を探ってくれとファブリスに言われたものの、どうすればよいのか皆目見当がつかないエルとマーサだった。宿で考え込んでいても仕方がないので、取り敢えずはもう一度大聖堂へ行こうという話になった。
大聖堂の前にある広場は前と変わらず人で溢れている。物々しい雰囲気のマナ教騎士団と思しき騎士も多く見られるが、他の人たちはそれを気にする素振りは見られなかった。皆、自分には関係ないことだと思っているのだろう。
そもそも教皇のマルヴィナが一般信者たちの前に出てくることなどがあるのだろうか。
エルはそう思いながら、広場で左右を見渡した。一組の老夫婦と思しき人たちがエルの視界にあった。二人とも頭巾がついた灰色の外套を着込んでいた。
エルはその二人に近づいて声をかけた。
「あの、少しだけいいでしょうか?」
老夫婦は不意に声をかけてきた魔族の若い娘に訝しげな顔をする。
「教皇様、マルヴィナ教皇様が信者の前に姿を見せることなどあるのでしょうか? 私たち旅の途中で立ち寄ったのですが、できればマルヴィナ教皇様のご尊顔を拝したいと……」
エルの言葉に老夫婦の目が輝いた。
「あらあら、お若い魔族なのに随分と敬虔なこと」
嬉しそうにしながら老婆は小さな手の平を自分の胸の前で重ね合わせた。ただ、悪意はないのだろうが魔族とわざわざ言及するところにエルは、もやっとしたものを感じてしまう。