第45話 終わりの始まり
文字数 1,774文字
そうして、少しの沈黙がエルたちの周囲に訪れた。焚き火の爆ぜる音だけがエルたちの周囲を満たしている。
エルの中では整理しきれない様々な事柄が駆け巡っていた。
エリサやマークスたちのこと。
ファブリスやマーサと未だに一緒にいること。
古代魔族のこと。
得体の知れない不安のこと……。
そのような中で最初に沈黙を破ったのはアイシスだった。
「お主ら、邪神とはそもそも何だと思っておるのじゃ?」
「何を言っているんだ、このちんちくりんは?」
マーサはアイシスが何を言い出すのだといった感じで、早くも喧嘩腰となっていた。マーサにしてみれば、ファブリスのことを悪く言うのであれば許さないといったところなのだろう。
「マーサ、少しは落ち着いて。アイシスに悪気はなさそうだよ」
エルは慌てて臨戦態勢のマーサを止める。
「何じゃ、その様子では何も知らんのじゃな。盲目的に従いおってからに」
アイシスはエルに止められているマーサに向かって舌を出している。
「ちょっと、アイシスもいい加減にして」
舌を出しているアイシスに向かってエルが軽く睨みつけると、へい、へいと言いながら、アイシスは言葉を続ける。
「まあ、王都に行けば全てが分かろうてな。一つ言っておくが、邪神はお主たちの思いを叶えるためのものではない。それはあの男、ファブリスにも言えることじゃて……」
……思い?
思いとは何なのだろうかとエルは思う。
ファブリスの思い。そして、マーサの思はい。
それらは今まで旅を一緒にしてきた中で何となく分かるような気がする。
では、自分の思いとは何なのだろうか。自分は何かを期待してファブリスについてきているのだろうか。
そうだとすれば、自分は何をファブリスに期待しているのだろう。
……古代魔族。
先程のそんな言葉がエルの中で蘇った。そうなのだ。この言葉を聞いてからエルの中で得体の知れない不安が生まれてきたのだった。
何かが動き始めた気がする。いや、既にそれは動いていてそのことに今、気がついたのかもしれなかった。
寒くもないのにエルは突如として身震いをした。それに合わせてエルの赤毛が宙で揺れる。
預言のようなアイシスの言葉を聞きながら、エルはそんな得体の知れない不安に襲われるのだった。
大陸随一の版図と繁栄を誇るダナイ皇国。その王都であり大陸最大の都市でもあるサイゼスピア。サイゼスピアの周囲は攻略不可能とまでに思えるような高い城壁で囲まれている。
この城壁を越えられる者がいるとすれば、翼を持つ者だけなのだろう。巷でそう噂される程までに高い城壁だった。
今、エルの目の前にはその城壁が禍々しいまでにそびえ立っていた。少しだけ得も言われぬ恐怖を覚えて、エルは隣にいるファブリスに赤色の瞳を向けた。
濃い灰色の髪を風に揺らしながら、ファブリスはいつもの如く無表情だった。しかし、その内面に荒れ狂う如き感情の渦を感じる気がするのは、自分の気のせいなのだろうかとエルは思う。
エルの視線に気がついたのか、ファブリスもエルに赤色の瞳を向けた。
「エル、お前はどうする? ここから先は何が起こるか分からない。このまま俺たちと一緒にいれば死ぬことになるかもしれんぞ」
ファブリスの言葉にはいつものように何の感情もこもっていないようだった。そして、そんなファブリスの言葉にエルは今更のように気がついたのだった。自分がとてつもなく危険な旅に同行していることに。また、それと同時にファブリスがそんな気づかうような言葉を自分にかけてくれることが意外でもあった。
でも……。
エルは少しだけ頷いて口を開く。
「大丈夫です。私は……皆と一緒に行きます」
そう。理由なんて分からない。でも、自分はファブリスやマーサと一緒にいることが正しい選択であるようにエルには思えたのだった。
「……まあ、いい。好きにしろ」
そう言いながらエルに向けるファブリスの顔が少しだけ和らいだように、エルには感じられたのだった。
突如として正面から強い風がエルたちを吹きつけた。エルの赤い髪が宙を舞う。
何かが始まろうとしている予感があった。得体の知れない不安は今もエルの中にある。
終わりの始まり。
そんな言葉がエルの中で唐突に浮かんできた。
それらを抱えながらエルは赤色の瞳を眼前に聳えている城壁に向けるのだった。
エルの中では整理しきれない様々な事柄が駆け巡っていた。
エリサやマークスたちのこと。
ファブリスやマーサと未だに一緒にいること。
古代魔族のこと。
得体の知れない不安のこと……。
そのような中で最初に沈黙を破ったのはアイシスだった。
「お主ら、邪神とはそもそも何だと思っておるのじゃ?」
「何を言っているんだ、このちんちくりんは?」
マーサはアイシスが何を言い出すのだといった感じで、早くも喧嘩腰となっていた。マーサにしてみれば、ファブリスのことを悪く言うのであれば許さないといったところなのだろう。
「マーサ、少しは落ち着いて。アイシスに悪気はなさそうだよ」
エルは慌てて臨戦態勢のマーサを止める。
「何じゃ、その様子では何も知らんのじゃな。盲目的に従いおってからに」
アイシスはエルに止められているマーサに向かって舌を出している。
「ちょっと、アイシスもいい加減にして」
舌を出しているアイシスに向かってエルが軽く睨みつけると、へい、へいと言いながら、アイシスは言葉を続ける。
「まあ、王都に行けば全てが分かろうてな。一つ言っておくが、邪神はお主たちの思いを叶えるためのものではない。それはあの男、ファブリスにも言えることじゃて……」
……思い?
思いとは何なのだろうかとエルは思う。
ファブリスの思い。そして、マーサの思はい。
それらは今まで旅を一緒にしてきた中で何となく分かるような気がする。
では、自分の思いとは何なのだろうか。自分は何かを期待してファブリスについてきているのだろうか。
そうだとすれば、自分は何をファブリスに期待しているのだろう。
……古代魔族。
先程のそんな言葉がエルの中で蘇った。そうなのだ。この言葉を聞いてからエルの中で得体の知れない不安が生まれてきたのだった。
何かが動き始めた気がする。いや、既にそれは動いていてそのことに今、気がついたのかもしれなかった。
寒くもないのにエルは突如として身震いをした。それに合わせてエルの赤毛が宙で揺れる。
預言のようなアイシスの言葉を聞きながら、エルはそんな得体の知れない不安に襲われるのだった。
大陸随一の版図と繁栄を誇るダナイ皇国。その王都であり大陸最大の都市でもあるサイゼスピア。サイゼスピアの周囲は攻略不可能とまでに思えるような高い城壁で囲まれている。
この城壁を越えられる者がいるとすれば、翼を持つ者だけなのだろう。巷でそう噂される程までに高い城壁だった。
今、エルの目の前にはその城壁が禍々しいまでにそびえ立っていた。少しだけ得も言われぬ恐怖を覚えて、エルは隣にいるファブリスに赤色の瞳を向けた。
濃い灰色の髪を風に揺らしながら、ファブリスはいつもの如く無表情だった。しかし、その内面に荒れ狂う如き感情の渦を感じる気がするのは、自分の気のせいなのだろうかとエルは思う。
エルの視線に気がついたのか、ファブリスもエルに赤色の瞳を向けた。
「エル、お前はどうする? ここから先は何が起こるか分からない。このまま俺たちと一緒にいれば死ぬことになるかもしれんぞ」
ファブリスの言葉にはいつものように何の感情もこもっていないようだった。そして、そんなファブリスの言葉にエルは今更のように気がついたのだった。自分がとてつもなく危険な旅に同行していることに。また、それと同時にファブリスがそんな気づかうような言葉を自分にかけてくれることが意外でもあった。
でも……。
エルは少しだけ頷いて口を開く。
「大丈夫です。私は……皆と一緒に行きます」
そう。理由なんて分からない。でも、自分はファブリスやマーサと一緒にいることが正しい選択であるようにエルには思えたのだった。
「……まあ、いい。好きにしろ」
そう言いながらエルに向けるファブリスの顔が少しだけ和らいだように、エルには感じられたのだった。
突如として正面から強い風がエルたちを吹きつけた。エルの赤い髪が宙を舞う。
何かが始まろうとしている予感があった。得体の知れない不安は今もエルの中にある。
終わりの始まり。
そんな言葉がエルの中で唐突に浮かんできた。
それらを抱えながらエルは赤色の瞳を眼前に聳えている城壁に向けるのだった。