第40話 西方の魔女
文字数 1,580文字
「邪神を傷つけることは、妾が許さぬぞ」
古風な口調の割にはどこか舌足らずな声音だった。
ファブリスが上空を見上げると、そこには外見が六歳ぐらいに見える濃い灰色の服を着た幼女が宙に浮かんでいる。
「いま一度よく聞くのじゃ。邪神を傷つけることは妾が決して許さぬのじゃ」
上空で再び幼女が声を上げた。幼女は肩までありそうな明るい栗色の髪を風に靡かせており、その手には幼女が持つには大きすぎるように見える杖らしき物を握っていた。
「あなた、誰? 別にあなたに許してもらう必要なんてないのだけれど。急に出てきて、生意気じゃないかしら?」
ファブリスと同様に上空を見上げていたマルヴィナが、冷たい視線を幼女に向けている。
その言葉に応えるようにして、幼女はファブリスの隣へと静かに降り立った。
浮遊魔法。そうだとすれば、かなりの魔法の使い手ということになる。しかし、浮遊魔法はこんな六歳ぐらいにしか見えない子供が扱える魔法ではないはずだった。
何者だ?
ファブリスは右手にある大剣を握りなおした。まだ自分の味方だと判明したわけではない。ならば、面倒なことになる前にその首を落としてしまうか。
ファブリスがそう考えた時、幼女が黒色の瞳をファブリスに向けた。
「……今、変なことを考えたであろう? 安心せい。妾はお主の味方じゃ」
幼女はそう言ってファブリスに笑顔を浮かべる。ファブリスに見せたそれは何の屈託もない、まだあどけないように見えるものだった。
「何かしら、この餓鬼は? いきなり現れてきて」
マルヴィナが苛立たしげにガルディスに顔を向けた。
「マルヴィナ、言葉遣いには気をつけた方がいい。曲がりなりにも聖女と言われている者だろうに……」
ガルディスが呆れたように言いながら、更に言葉を続けた。
「その格好……西方の魔女か?」
「西方の魔女? 何なのよ、それは?」
ガルディスはマルヴィナに返答をしないまま、突如として出現した幼女から厳しい視線を外そうとはしなかった。
「あれ? 何じゃ、この人形は……」
ガルディスの問いかけに答えることはなく、幼女はファブリスの前で立ちはだかっている魔道兵器に黒色の瞳を向けた。途端に幼女の顔つきが険しいものとなった。
「やれやれ、酷いことをするものじゃ。これだから、妾は人族が嫌いなのじゃ」
幼女は手にしていた杖を両手で持つと、それをおもむろに前方へ突き出した。
「…神……雷光」
幼女のゆっくりとした言葉と共に、上空から出現した落雷が五体の魔道兵器を襲った。周囲が瞬間、眩い光に覆われてファブリスの視界も白色で満たされる。
ファブリスの視界が回復した時、石畳の上で五体の魔道兵器は全てが仰向けに倒れていた。魔導兵器の所々が黒く煤けているのは落雷のせいなのだろう。倒れた魔導兵器に最早、動く気配はどこにもなかった。
「あらあら……魔法には弱いって聞いていたけど、弱すぎね……」
マルヴィナがガルディスに対して呆れたように言う。その顔には薄い笑みが貼りついていた。
「そう言うな、マルヴィナ。剣にも魔法にも絶対的な耐性を持つ物などは造れるはずもなかろう。それに今の魔法、普通の魔法ではないぞ」
ガルディスは渋い顔を作って、そのまま幼女にその顔を向けた。
「西方の魔女は神級の魔法を操れるのか。なるほど、伝説と言われることはある」
「何じゃ、お主は? 先程からうるさいのう。あの人形を作ったのはお主たちであろう。ならば許さぬ。消し炭一つすらも妾は残さぬぞ」
幼女が両手で握った杖をガルディスとマルヴィナに向けた。
「神……炎舞」
幼女がもつ杖の先から赤黒い炎が奔流となって迸った。炎の奔流が瞬く間にガルディスとマルヴィナを飲み込む。
……消し炭一つすらも残らない。
……だが、そう上手くはいかないだろうな。
そんな否定する言葉がファブリスの中に浮かび上がってきた。
古風な口調の割にはどこか舌足らずな声音だった。
ファブリスが上空を見上げると、そこには外見が六歳ぐらいに見える濃い灰色の服を着た幼女が宙に浮かんでいる。
「いま一度よく聞くのじゃ。邪神を傷つけることは妾が決して許さぬのじゃ」
上空で再び幼女が声を上げた。幼女は肩までありそうな明るい栗色の髪を風に靡かせており、その手には幼女が持つには大きすぎるように見える杖らしき物を握っていた。
「あなた、誰? 別にあなたに許してもらう必要なんてないのだけれど。急に出てきて、生意気じゃないかしら?」
ファブリスと同様に上空を見上げていたマルヴィナが、冷たい視線を幼女に向けている。
その言葉に応えるようにして、幼女はファブリスの隣へと静かに降り立った。
浮遊魔法。そうだとすれば、かなりの魔法の使い手ということになる。しかし、浮遊魔法はこんな六歳ぐらいにしか見えない子供が扱える魔法ではないはずだった。
何者だ?
ファブリスは右手にある大剣を握りなおした。まだ自分の味方だと判明したわけではない。ならば、面倒なことになる前にその首を落としてしまうか。
ファブリスがそう考えた時、幼女が黒色の瞳をファブリスに向けた。
「……今、変なことを考えたであろう? 安心せい。妾はお主の味方じゃ」
幼女はそう言ってファブリスに笑顔を浮かべる。ファブリスに見せたそれは何の屈託もない、まだあどけないように見えるものだった。
「何かしら、この餓鬼は? いきなり現れてきて」
マルヴィナが苛立たしげにガルディスに顔を向けた。
「マルヴィナ、言葉遣いには気をつけた方がいい。曲がりなりにも聖女と言われている者だろうに……」
ガルディスが呆れたように言いながら、更に言葉を続けた。
「その格好……西方の魔女か?」
「西方の魔女? 何なのよ、それは?」
ガルディスはマルヴィナに返答をしないまま、突如として出現した幼女から厳しい視線を外そうとはしなかった。
「あれ? 何じゃ、この人形は……」
ガルディスの問いかけに答えることはなく、幼女はファブリスの前で立ちはだかっている魔道兵器に黒色の瞳を向けた。途端に幼女の顔つきが険しいものとなった。
「やれやれ、酷いことをするものじゃ。これだから、妾は人族が嫌いなのじゃ」
幼女は手にしていた杖を両手で持つと、それをおもむろに前方へ突き出した。
「…神……雷光」
幼女のゆっくりとした言葉と共に、上空から出現した落雷が五体の魔道兵器を襲った。周囲が瞬間、眩い光に覆われてファブリスの視界も白色で満たされる。
ファブリスの視界が回復した時、石畳の上で五体の魔道兵器は全てが仰向けに倒れていた。魔導兵器の所々が黒く煤けているのは落雷のせいなのだろう。倒れた魔導兵器に最早、動く気配はどこにもなかった。
「あらあら……魔法には弱いって聞いていたけど、弱すぎね……」
マルヴィナがガルディスに対して呆れたように言う。その顔には薄い笑みが貼りついていた。
「そう言うな、マルヴィナ。剣にも魔法にも絶対的な耐性を持つ物などは造れるはずもなかろう。それに今の魔法、普通の魔法ではないぞ」
ガルディスは渋い顔を作って、そのまま幼女にその顔を向けた。
「西方の魔女は神級の魔法を操れるのか。なるほど、伝説と言われることはある」
「何じゃ、お主は? 先程からうるさいのう。あの人形を作ったのはお主たちであろう。ならば許さぬ。消し炭一つすらも妾は残さぬぞ」
幼女が両手で握った杖をガルディスとマルヴィナに向けた。
「神……炎舞」
幼女がもつ杖の先から赤黒い炎が奔流となって迸った。炎の奔流が瞬く間にガルディスとマルヴィナを飲み込む。
……消し炭一つすらも残らない。
……だが、そう上手くはいかないだろうな。
そんな否定する言葉がファブリスの中に浮かび上がってきた。