第43話 疑問
文字数 1,663文字
そうする他になかったのだ。頭では、理屈ではエルも分かっていた。
でも……。
燃えさかる焚き火を見るともなく見ながら、エルは先程から堂々巡りとなるだけの思考を続けていた。
魔導兵器の中で捕らえられていた人たちの全てにファブリスが大剣を突き立てた後、エルたちは幼女の転移魔法で宗教都市アルガンド近郊の森に移動していた。
エルの脳裏にエリサとマークスの顔が蘇ってくる。交わした言葉が蘇ってくる。その時の情景が次々と蘇ってくる。
「なんじゃ、お前はまだ悩んでおるのか。暇な奴じゃのう。あのようにする以外、他に術はなかったのじゃぞ」
幼女がエルの横で呆れたような声を出した。幼女の名はアイシスといった。見た目は六歳程度の子供にしか見えないのだが、もの言いなどはとてもではないが六歳とは思えなかった。
しかも、アイシスは西方の魔女と言われている実在すら疑わしかった伝説の人物らしい。
「おい、貴様、気安くエルに話かけるな。エルは落ち込んでいるのだからな! 大体、さっきから偉そうだぞ。貴様は何様なんだ?」
マーサが尖った声でアイシスを制した。
「は? 貴様こそ何様じゃ。獣人族の分際で!」
アイシスも尖った声でマーサに言い返す。
「獣人族の分際? もう一度、言ってみろ! 獣人族の何が悪い!」
「悪いとは言っておらぬわ。場をわきまえよと言っておるのじゃ」
アイシスが馬鹿な奴だといった顔でマーサを見る。
「貴様!」
アイシスのあからさまな悪意を受けて、マーサは吠えるように叫んで立ち上がる。
「マーサ、その辺にしておけ」
ファブリスの言葉にマーサが苦虫を噛み潰したような顔で、再び腰を下ろす。
「やれやれ、獣なみに気が短いのう。妾もびっくりじゃ。このお化けおっぱいめは……」
「お化けおっぱい……」
マーサが怒り心頭といった体で深緑色の瞳をひん剥いている。体全体が怒りのあまりからなのか小刻みに震えていた。
「マーサ……」
ファブリスが再度、マーサを嗜める。
「ですが、ファブリス様、このちんちくりんが……」
マーサは不満げな顔でアイシスのことを指さしている。
「ち、ちんちくりんとは何じゃ。ちんちくりんとは! 貴様、偉大な西方の魔女に向かって……」
血相を変えて今度はアイシスが立ち上がる。
「は? 自分で偉大とかって言わないでほしいね。聞いているこっちが恥ずかしいよ。この生意気ちんちくりんが!」
「何じゃと? このお化けおっぱい!」
「お化けおっぱい……また言ったな?」
マーサはのけぞらんばかりになっている。
「おい、いい加減にしてくれ。で、お前は何で俺たちを助けた? お前が西方の魔女だか何だか知らないが、助けてくれと頼んだ覚えはないが……」
「ん? 何じゃ、この邪神は可愛げがないのう」
アイシスはそう言って黒色の瞳をファブリスに向けた。そして、ふと何かに気がついたような顔をする。
「ん? これは驚いた。お主、邪神では……」
アイシスはそう言って二度、三度と無言で一人頷いた。
「おい、何を一人で納得している。お前は俺の疑問に答えていないぞ」
「妾がお主の疑問に答える義務もなかろうて。いずれにせよ、妾はお主たちの味方じゃよ。何も心配するでない」
アイシスはそう言って微笑む。その顔だけを見ていると、エルには彼女が普通の可愛らしい幼女にしか見えない。こんな子供が本当に伝説といわれている程の人物なのだろうか。それに誰も口にはしないが、エルにはそもそもの疑問があった。
「……でも、何で子供の姿なの、アイシスは?」
エルがそう口にすると、途端にマーサが空を仰いで大きな口を開けて爆笑する。
「私たちの味方どうこうよりも、それが一番の疑問だな。おい、ちんちくりん、中身が百歳で外身が子供なのは何でだ。どんな仕組みだ。どんな魔法なんだ。それとも幻術か?」
「う、うるさい、色々と妾にも事情というものがあるのじゃ。それに百歳とは何じゃ。百歳とは。女性に年齢の話をするのは不粋というものじゃぞ。これだから獣人族というのは……」
アイシスは両頬を思いっきり膨らましてそっぽを向く。
でも……。
燃えさかる焚き火を見るともなく見ながら、エルは先程から堂々巡りとなるだけの思考を続けていた。
魔導兵器の中で捕らえられていた人たちの全てにファブリスが大剣を突き立てた後、エルたちは幼女の転移魔法で宗教都市アルガンド近郊の森に移動していた。
エルの脳裏にエリサとマークスの顔が蘇ってくる。交わした言葉が蘇ってくる。その時の情景が次々と蘇ってくる。
「なんじゃ、お前はまだ悩んでおるのか。暇な奴じゃのう。あのようにする以外、他に術はなかったのじゃぞ」
幼女がエルの横で呆れたような声を出した。幼女の名はアイシスといった。見た目は六歳程度の子供にしか見えないのだが、もの言いなどはとてもではないが六歳とは思えなかった。
しかも、アイシスは西方の魔女と言われている実在すら疑わしかった伝説の人物らしい。
「おい、貴様、気安くエルに話かけるな。エルは落ち込んでいるのだからな! 大体、さっきから偉そうだぞ。貴様は何様なんだ?」
マーサが尖った声でアイシスを制した。
「は? 貴様こそ何様じゃ。獣人族の分際で!」
アイシスも尖った声でマーサに言い返す。
「獣人族の分際? もう一度、言ってみろ! 獣人族の何が悪い!」
「悪いとは言っておらぬわ。場をわきまえよと言っておるのじゃ」
アイシスが馬鹿な奴だといった顔でマーサを見る。
「貴様!」
アイシスのあからさまな悪意を受けて、マーサは吠えるように叫んで立ち上がる。
「マーサ、その辺にしておけ」
ファブリスの言葉にマーサが苦虫を噛み潰したような顔で、再び腰を下ろす。
「やれやれ、獣なみに気が短いのう。妾もびっくりじゃ。このお化けおっぱいめは……」
「お化けおっぱい……」
マーサが怒り心頭といった体で深緑色の瞳をひん剥いている。体全体が怒りのあまりからなのか小刻みに震えていた。
「マーサ……」
ファブリスが再度、マーサを嗜める。
「ですが、ファブリス様、このちんちくりんが……」
マーサは不満げな顔でアイシスのことを指さしている。
「ち、ちんちくりんとは何じゃ。ちんちくりんとは! 貴様、偉大な西方の魔女に向かって……」
血相を変えて今度はアイシスが立ち上がる。
「は? 自分で偉大とかって言わないでほしいね。聞いているこっちが恥ずかしいよ。この生意気ちんちくりんが!」
「何じゃと? このお化けおっぱい!」
「お化けおっぱい……また言ったな?」
マーサはのけぞらんばかりになっている。
「おい、いい加減にしてくれ。で、お前は何で俺たちを助けた? お前が西方の魔女だか何だか知らないが、助けてくれと頼んだ覚えはないが……」
「ん? 何じゃ、この邪神は可愛げがないのう」
アイシスはそう言って黒色の瞳をファブリスに向けた。そして、ふと何かに気がついたような顔をする。
「ん? これは驚いた。お主、邪神では……」
アイシスはそう言って二度、三度と無言で一人頷いた。
「おい、何を一人で納得している。お前は俺の疑問に答えていないぞ」
「妾がお主の疑問に答える義務もなかろうて。いずれにせよ、妾はお主たちの味方じゃよ。何も心配するでない」
アイシスはそう言って微笑む。その顔だけを見ていると、エルには彼女が普通の可愛らしい幼女にしか見えない。こんな子供が本当に伝説といわれている程の人物なのだろうか。それに誰も口にはしないが、エルにはそもそもの疑問があった。
「……でも、何で子供の姿なの、アイシスは?」
エルがそう口にすると、途端にマーサが空を仰いで大きな口を開けて爆笑する。
「私たちの味方どうこうよりも、それが一番の疑問だな。おい、ちんちくりん、中身が百歳で外身が子供なのは何でだ。どんな仕組みだ。どんな魔法なんだ。それとも幻術か?」
「う、うるさい、色々と妾にも事情というものがあるのじゃ。それに百歳とは何じゃ。百歳とは。女性に年齢の話をするのは不粋というものじゃぞ。これだから獣人族というのは……」
アイシスは両頬を思いっきり膨らましてそっぽを向く。