第41話 喜悦
文字数 1,576文字
ファブリスが思った通り、マルヴィナとガルディスの前には先程と同じく防御魔法が展開されていた。
「妾の魔法を防ぐか。大したものじゃな」
幼女が黒色の瞳を丸くしている。マルヴィナとて勇者一行の一人なのだ。その壊滅的な性格は別にして、能力に関して言えば他の追随を許さないといってよいのだろう。
「ちょっと、本当に何なのかしら、この餓鬼は。生意気よね」
マルヴィナが憎悪に満ちた瞳を幼女に向けていた。人に対してこれだけの憎悪を向けられるのもある種の才能だなとファブリスは思う。
憎悪……自分もこんな顔をしているのだろうか。ファブリスは内心で苦笑し、そんな思いを持った自分に少しだけ驚く。
そんな思いを飲み込みながらファブリスはゆらりと動くと、一気にガルディスとマルヴィナとの間にあった距離を詰めた。
マルヴィナの眼前でファブリスは大剣を振り上げる。それを目にしながらも、マルヴィナは薄い笑顔を浮かべていた。
マルヴィナの横にいるガルディスの口から舌打ちが漏れるのが聞こえる。
マルヴィナに向けて振り下ろそうとしていた大剣をファブリスは直前で軌道を変えて、自身の眼前に翳した。ファブリスの眼前で大剣に弾かれた火炎が宙を舞う。
「マルヴィナ、お前は少し自分の生命を大事にしないといかんな」
ガルディスが苦言を呈する。
「あら、私がこんな腐れ魔族に殺されるとでも?」
マルヴィナが笑みを浮かべる。
「神……雷刀斬」
幼女の言葉と共に上空からマルヴィナとガルディスの頭上を刃となった雷が襲った。
マルヴィナは右腕を伸ばして頭上に魔法の防御壁を展開する。炸裂音と衝撃が周辺の空間を満たした。
「これも防いだのか。ほう、ますます大したものじゃな」
無傷のマルヴィナたちを見て幼女が感嘆の声を上げていた。
「神、神、うるさいわね。この餓鬼は……」
マルヴィナが呟くように言う。
「マルヴィナ、これで終わりだ」
再び距離を詰めたファブリスが、斜め上段から大剣をマルヴィナに向かって振り下ろした。マルヴィナは先程と同じく薄い笑いを浮かべて、振り下ろされる大剣に青色の瞳を向けている。
例えマルヴィナが瞬時に魔法で障壁を展開しようが、ファブリスはそれごと大剣で斬り裂くつもりだった。
だが、ファブリスが振り下ろした大剣はそれまでマルヴィナがいたはずの空間を切り裂いだだけだった。
「紙一重だぞ、マルヴィナ」
ガルディスが渋い顔をしてマルヴィナに再び苦言を呈している。
……転移魔法。
ガルディスとマルヴィナの姿は最初に彼らが出てきた建物の前にあった。
瞬間的に転移魔法を発動できる能力。分かってはいたが、ガルディスもやはり只者ではないということなのだろう。
「しかし、驚いたな。西方の魔女と言えば真偽も分からないような伝説だぞ。その伝説までもがこの場に現れるとは面白い。世界は広いらしい。まだまだ私の知らないことがあるのだな……」
そう呟きながらガルディスはこのような状況下で喜悦と呼んでいいような表情を浮かべている。そんなガルディスの顔がファブリスには狂人のそれに近いように思えた。
「ファブリス、そして西方の魔女よ。王都で待っているぞ……」
ガルディスの言葉と共に二人の姿が忽然と消える。先刻と同じように転移魔法で移動したのだろう。
「あっ、こらっ! 逃げるでない」
幼女が杖を宙で振り回しながら、ぷんすかと怒っていた。ファブリスはそんな幼女に視線と大剣の切っ先を向けた。
「おい、貴様は?」
「へ?」
幼女はファブリスに大剣を唐突に向けられて、小首を傾げてみせた。
「そんな物騒なものを人に向けるでない。危ないであろう」
幼女はそう言うと自分に向けられた大剣など気にしない素振りで、魔法を受けて動かなくなった魔道兵器に足を進めた。ファブリスは幼女のそのような行動に気を削がれたような思いで大剣を収める。
「妾の魔法を防ぐか。大したものじゃな」
幼女が黒色の瞳を丸くしている。マルヴィナとて勇者一行の一人なのだ。その壊滅的な性格は別にして、能力に関して言えば他の追随を許さないといってよいのだろう。
「ちょっと、本当に何なのかしら、この餓鬼は。生意気よね」
マルヴィナが憎悪に満ちた瞳を幼女に向けていた。人に対してこれだけの憎悪を向けられるのもある種の才能だなとファブリスは思う。
憎悪……自分もこんな顔をしているのだろうか。ファブリスは内心で苦笑し、そんな思いを持った自分に少しだけ驚く。
そんな思いを飲み込みながらファブリスはゆらりと動くと、一気にガルディスとマルヴィナとの間にあった距離を詰めた。
マルヴィナの眼前でファブリスは大剣を振り上げる。それを目にしながらも、マルヴィナは薄い笑顔を浮かべていた。
マルヴィナの横にいるガルディスの口から舌打ちが漏れるのが聞こえる。
マルヴィナに向けて振り下ろそうとしていた大剣をファブリスは直前で軌道を変えて、自身の眼前に翳した。ファブリスの眼前で大剣に弾かれた火炎が宙を舞う。
「マルヴィナ、お前は少し自分の生命を大事にしないといかんな」
ガルディスが苦言を呈する。
「あら、私がこんな腐れ魔族に殺されるとでも?」
マルヴィナが笑みを浮かべる。
「神……雷刀斬」
幼女の言葉と共に上空からマルヴィナとガルディスの頭上を刃となった雷が襲った。
マルヴィナは右腕を伸ばして頭上に魔法の防御壁を展開する。炸裂音と衝撃が周辺の空間を満たした。
「これも防いだのか。ほう、ますます大したものじゃな」
無傷のマルヴィナたちを見て幼女が感嘆の声を上げていた。
「神、神、うるさいわね。この餓鬼は……」
マルヴィナが呟くように言う。
「マルヴィナ、これで終わりだ」
再び距離を詰めたファブリスが、斜め上段から大剣をマルヴィナに向かって振り下ろした。マルヴィナは先程と同じく薄い笑いを浮かべて、振り下ろされる大剣に青色の瞳を向けている。
例えマルヴィナが瞬時に魔法で障壁を展開しようが、ファブリスはそれごと大剣で斬り裂くつもりだった。
だが、ファブリスが振り下ろした大剣はそれまでマルヴィナがいたはずの空間を切り裂いだだけだった。
「紙一重だぞ、マルヴィナ」
ガルディスが渋い顔をしてマルヴィナに再び苦言を呈している。
……転移魔法。
ガルディスとマルヴィナの姿は最初に彼らが出てきた建物の前にあった。
瞬間的に転移魔法を発動できる能力。分かってはいたが、ガルディスもやはり只者ではないということなのだろう。
「しかし、驚いたな。西方の魔女と言えば真偽も分からないような伝説だぞ。その伝説までもがこの場に現れるとは面白い。世界は広いらしい。まだまだ私の知らないことがあるのだな……」
そう呟きながらガルディスはこのような状況下で喜悦と呼んでいいような表情を浮かべている。そんなガルディスの顔がファブリスには狂人のそれに近いように思えた。
「ファブリス、そして西方の魔女よ。王都で待っているぞ……」
ガルディスの言葉と共に二人の姿が忽然と消える。先刻と同じように転移魔法で移動したのだろう。
「あっ、こらっ! 逃げるでない」
幼女が杖を宙で振り回しながら、ぷんすかと怒っていた。ファブリスはそんな幼女に視線と大剣の切っ先を向けた。
「おい、貴様は?」
「へ?」
幼女はファブリスに大剣を唐突に向けられて、小首を傾げてみせた。
「そんな物騒なものを人に向けるでない。危ないであろう」
幼女はそう言うと自分に向けられた大剣など気にしない素振りで、魔法を受けて動かなくなった魔道兵器に足を進めた。ファブリスは幼女のそのような行動に気を削がれたような思いで大剣を収める。