第26話 戦士ジャガル
文字数 1,586文字
やがて、近づくにつれて影の詳細がはっきりとし始めた。
「魔道士の類いはいないようですね。全てが武装した兵士かと」
マーサの言葉にファブリスは無言で頷いた。そして、互いの顔がはっきりと見え始めた距離でエルたちは足を止める。
ファブリスの横で自分の顔よりも、随分と高い位置にあるファブリスの横顔をエルは見上げた。ファブリスの歯が軋むかのような音を発した気がしたのだ。
「……こいつは驚いた。ガルディスの言った通りだったな。ここにいれば、てめえが姿を見せると」
「ジャガル……」
「まさか生きていたとはな。あの状態からどうやって生き延びた。それに、その片腕はどうした?」
ファブリスにジャガルと呼ばれた男は、エルが見たこともないような大きな斧を肩に担いでいた。
ジャガル……その名前にはエルにも聞き覚えがあった。邪神を討伐した勇者に同行していた戦士の名がその名だったはずだ。
となるとファブリスの復讐相手ということなのだろうかとエルは思う。
「会いに行く手間が省けたな。お前の方から来てくれるとは……」
「会いに行く? 旧交を温めようって感じじゃねえな。復讐でもするつもりなのか。となるとガルディスが言っていたように、てめえの村を壊滅させたのも、ゴムザの野郎をぶち殺したのもファブリス、やっぱりてめえなのか?」
ファブリスは無言だった。無言のままで何も答えずにその背にある大剣を片手で引き抜いた。それが全ての答えであるかのように。
「懐かしいな。邪神封じの魔剣か。ガルディスに聞いた時には、まさかと思っていたが……てめえが生きている以上は、そういうことなんだろうな」
ジャガルはそう言って笑みを浮かべた。そして、言葉を続ける。
「どうやって生き延びたのか知らないが、残念だったな。お前はここで死ぬんだ。今度こそな!」
その言葉とともにジャガルが巨大な戦斧を振り上げて向かってきた。他の騎士たちも剣を抜いてガルディスに続く。
「エル、どこかで身を潜めるんだよ!」
マーサの鋭い声に弾かれるように、エルは背後を振り返ると一目散に走り出した。
息を切らせて走っていると、背の高い茂みが広がっている箇所があることにエルは気がついた。そのまま躊躇せずに頭からエルは茂みに飛び込む。腹這いになって息を切らせながら周囲を窺ったが、幸いなことにこちらに向かってくる者はいないようだった。
戦いが始まるなり逃げ出した者などに興味はないのだろうとエルは思う。
エルが再びファブリスに視線を向けると、ジャガルの一撃をファブリスは片手に持つ大剣で受け止めていた。渾身の一撃を片手ひとつで防がれたジャガルの顔に驚愕の色が浮かぶ。
続いて既に魔獣に変化していたマーサが丸太のような前足で、ファブリスに迫ろうとしていた二人の兵士を薙ぎ倒した。
それを見てジャガルは後方へ飛びすさった。巨体にもかかわらず、その動きは俊敏だった。他の兵士たちもジャガルに倣ってファブリスたちと一定の距離を取る。
「魔獣? てめえ、獣人族の生き残りか。それにファブリス、片腕で俺の戦斧を受けきるとはどういう仕掛けだ?」
ジャガルは戦斧をファブリスに向けたままで口を開く。しかし、ファブリスは一言も返答をしない。代わりに隣のマーサが低い唸り声を上げ続けていた。
「なあ、ファブリスよ、思い出してみろ。修練でもてめえは俺に一度も勝てたことがなかったよな。いくら獣人族とつるんでいるからっていっても、そんな片腕で俺に勝てるはずがねえだろう」
ファブリスはなおも答えない。燃えるかのような赤い瞳をジャガルに向け続けているだけだった。
「アズラルトの奴がてめえの身をご所望だ。どうせアズラルトに殺されるんだろうが、今ここで殺されるよりかはいいだろう。大人しく捕まれ。手間をかけさせるな。そうすればそこの獣人族と、ちょろちょろしていたあの女は見逃してやってもいい」
「魔道士の類いはいないようですね。全てが武装した兵士かと」
マーサの言葉にファブリスは無言で頷いた。そして、互いの顔がはっきりと見え始めた距離でエルたちは足を止める。
ファブリスの横で自分の顔よりも、随分と高い位置にあるファブリスの横顔をエルは見上げた。ファブリスの歯が軋むかのような音を発した気がしたのだ。
「……こいつは驚いた。ガルディスの言った通りだったな。ここにいれば、てめえが姿を見せると」
「ジャガル……」
「まさか生きていたとはな。あの状態からどうやって生き延びた。それに、その片腕はどうした?」
ファブリスにジャガルと呼ばれた男は、エルが見たこともないような大きな斧を肩に担いでいた。
ジャガル……その名前にはエルにも聞き覚えがあった。邪神を討伐した勇者に同行していた戦士の名がその名だったはずだ。
となるとファブリスの復讐相手ということなのだろうかとエルは思う。
「会いに行く手間が省けたな。お前の方から来てくれるとは……」
「会いに行く? 旧交を温めようって感じじゃねえな。復讐でもするつもりなのか。となるとガルディスが言っていたように、てめえの村を壊滅させたのも、ゴムザの野郎をぶち殺したのもファブリス、やっぱりてめえなのか?」
ファブリスは無言だった。無言のままで何も答えずにその背にある大剣を片手で引き抜いた。それが全ての答えであるかのように。
「懐かしいな。邪神封じの魔剣か。ガルディスに聞いた時には、まさかと思っていたが……てめえが生きている以上は、そういうことなんだろうな」
ジャガルはそう言って笑みを浮かべた。そして、言葉を続ける。
「どうやって生き延びたのか知らないが、残念だったな。お前はここで死ぬんだ。今度こそな!」
その言葉とともにジャガルが巨大な戦斧を振り上げて向かってきた。他の騎士たちも剣を抜いてガルディスに続く。
「エル、どこかで身を潜めるんだよ!」
マーサの鋭い声に弾かれるように、エルは背後を振り返ると一目散に走り出した。
息を切らせて走っていると、背の高い茂みが広がっている箇所があることにエルは気がついた。そのまま躊躇せずに頭からエルは茂みに飛び込む。腹這いになって息を切らせながら周囲を窺ったが、幸いなことにこちらに向かってくる者はいないようだった。
戦いが始まるなり逃げ出した者などに興味はないのだろうとエルは思う。
エルが再びファブリスに視線を向けると、ジャガルの一撃をファブリスは片手に持つ大剣で受け止めていた。渾身の一撃を片手ひとつで防がれたジャガルの顔に驚愕の色が浮かぶ。
続いて既に魔獣に変化していたマーサが丸太のような前足で、ファブリスに迫ろうとしていた二人の兵士を薙ぎ倒した。
それを見てジャガルは後方へ飛びすさった。巨体にもかかわらず、その動きは俊敏だった。他の兵士たちもジャガルに倣ってファブリスたちと一定の距離を取る。
「魔獣? てめえ、獣人族の生き残りか。それにファブリス、片腕で俺の戦斧を受けきるとはどういう仕掛けだ?」
ジャガルは戦斧をファブリスに向けたままで口を開く。しかし、ファブリスは一言も返答をしない。代わりに隣のマーサが低い唸り声を上げ続けていた。
「なあ、ファブリスよ、思い出してみろ。修練でもてめえは俺に一度も勝てたことがなかったよな。いくら獣人族とつるんでいるからっていっても、そんな片腕で俺に勝てるはずがねえだろう」
ファブリスはなおも答えない。燃えるかのような赤い瞳をジャガルに向け続けているだけだった。
「アズラルトの奴がてめえの身をご所望だ。どうせアズラルトに殺されるんだろうが、今ここで殺されるよりかはいいだろう。大人しく捕まれ。手間をかけさせるな。そうすればそこの獣人族と、ちょろちょろしていたあの女は見逃してやってもいい」