アドヴェントカレンダー6・かけらのはなし

文字数 1,271文字

ミサは公園で、きらきらかがやく不思議なかけらを見つけた。

鏡のかけらのようにも、銀色の宝石のようにも見える。



ギザギザの縁をしていて、なにかが割れたものなのは間違いない。

公園の中のなにかかもしれない。



ミサはかけらを持ったまま、公園を歩き回った。

ブランコはどこもこわれていない。



すべり台もいつも通りだ。



砂場にはとくに異常はない。



持って帰ってママに聞いてみることにした。



「なあに、かけらって。どこにあるの?」



ミサが差し出したかけらは、ママには見えないようだった。



「ミサちゃん、嘘はだめよ」



ママに言われて、ミサは悲しくなった。



お花とおしゃべりしたときも、うさぎが話したときも、ミサは嘘つきだと言われた。



ミサは銀色のかけらを、おもちゃ箱にそっと隠した。



それでも気になって、気になって、夜ベッドに入っても眠れない。



起き上がると、なんだか部屋の中が明るかった。



電気はついていない。



カーテンの向こうから光が差し込んでいるのだ。



いつの間に朝になっていたんだろう。



ミサは不思議に思ってカーテンを開けた。



そこに、お月様がいた。



「私のかけらを返してください」



ミサはびっくりして、思わずカーテンを閉めた。



お月様がしゃべった。



ううん、それよりも、なんでお月様がうちの前にいるんだろう。



ミサは、こんなことを喋ったら、また嘘つきと言われると怖くなって、もうカーテンを開けられなかった。



次の夜も、次の夜も、カーテンの向こうは明るく光っていた。



きっとお月様がやってきているのだと思ったけれど、嘘つきになりたくなくて眠ったふりをした。



そうやって何日か過ごす間に、光は少しずつ弱くなってきた。



きっと、お月様が新月にむかっているんだろう。



そう思ってお月様マークがついているカレンダーを見てみると、今は満月に向かっている時期だということになっている。



じゃあ、どうして光が弱くなってるんだろう。



その夜、ミサはカーテンを少しだけ開けて、光のもとを見た。



そこにはやっぱりお月様がいて、少しだけ光っていた。



でも、とても弱々しい光で、今にも消えてしまいそうだった。



「あ!」



ミサは小さく叫んだ。



お月様の真ん中に穴が開いていて、そこから闇夜が顔をのぞかせていた。



このままではお月様が闇夜に変わってしまうだろう。



ミサはおもちゃ箱からかけらを取り出して、窓を開けた。



ぽーいと放ると、かけらは真っすぐ飛んでいき、お月様の穴にはまった。



すると、お月様はキラキラと輝きだした。



「かけらを拾ってくれてありがとう」



そう言い残して、お月様は空に帰っていった。



朝になって、ミサはママに言った。


「私ね、お月様とお話ししたよ」



「ミサちゃん、嘘はだめよ。お月様は喋らないわ」



嘘ではないと、ミサは言わなかった。



誰になんと言われても、自分はお月様とお話ししたのだ。



その証拠にお月様には、かけらがうまくはまらずに、ずれた穴が残っている。



大人はそれを、クレーターだよなんて言うけれど、ミサにだけはちゃんと、あのかけらの形に見えるのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み