16歳の傘
文字数 1,337文字
(姫の傘だ…!!)
16歳の誕生日プレゼントに貰った傘を見て、心の中で叫んだ。
ほんとは大声で叫びだしたいくらい嬉しかったのだが、そーゆーキャラではないので、心の中でだけ欣喜雀躍としていた。
『姫 100%』と言う少女マンガが大好きだった。
主人公の姫という名前の女の子は、北海道の原野で父親と二人きりで暮らしていた。
ある日、父親が急死。姫に残されたのは、父親から叩き込まれた運動能力と、ずば抜けた頭脳。
そして、一本の傘。
柄が太く、無駄に重たいその傘には、合金製の刀が仕込んであり、姫は晴れた日でもその傘を背負って歩いていた。
父親の命を奪った悪の組織に、姫も狙われていたから。
私の傘には、もちろん刀は仕込まれていなかった。ほんとは仕込みたかったけど、私は悪の組織と闘わないから仕方ない。
持ち手から石突きまで一本の木の棒で出来ており、持ち手はいかにも「枝です」と言わんばかり、今にも葉がはえそうだ。
傘の生地はキャンバス布で落ち着いた緑色。
持ち手と石突きにそれぞれ金属製の輪っかがついていて、そこに背負い紐をとりつけ、背に負うことができた。
私は晴れた日には傘を背負って歩いた。
雨の日には、仕方ないから背中からおろして、普通にさした。5年ほど、いつも傘を背負う生活を続けていたが、ある雨の日。
踏み切りを渡っていると、カンカンカン、と警報が鳴り出した。私が急ぎ足で踏み切りを抜けた、と思い、足をゆるめた時、
ぼす!!
と重たい音がして、遮断機が傘に降ってきた。
あわてて道から避けて傘を見ると、骨が2本ぼっきりと折れ、一本は生地をやぶって突き出している。
「そんな!! 傘が!!」
思わず、叫んだ。
やぶれた傘で体半分濡れながら帰った。正直、体が濡れてることなんてどうでもよかった。傘が壊れたことのほうがショックだった。
傘を修理に出すことも考えた。
しかし、5年も使い続けたため、生地は色あせ、中骨も錆びてきていた。貧乏学生で、修理代が高くつくことを考えると、思い切ることができなかった。
捨てることもできず、3ヶ月、敗れた傘はベランダに置きっぱなしになっていた。が、燃えないゴミの日に、母が黙って捨ててしまった。
私に「どうするの?」と聞いても、どうにもできないとわかっていたのだろう。
それ以来、あまり、傘をささなくなった。小雨なら、帽子だけかぶって濡れて行く。大雨のときは仕方なく、家の隅っこに置いてあるボロ傘を持っていったが。
何年かたって、また、誕生日に傘をもらった。
それからは雨が降れば、普通に、もらった傘を使わせていただいている。
姫が闘っていた悪の組織は、そういえば、どんな悪事を働いていたんだっけ……、すっかり忘れてしまった。
押入れの奥に、今でもまだ『姫 100%』は取ってある。だが、わざわざ引っ張り出して読み返そうという気持ちにまではならない。
そもそも、もう老眼も出てきだした大人で、マンガ自体を余り読まなくなってしまった。
だが、今でも。
傘立てに、たくさん並ぶ傘を見ると、探してしまうのだ。特徴的な、あの持ち手を。
これから先、何本の傘を新調するかはわからない。だが、何本の傘を手にしても、私はきっと、姫の傘のことを忘れられない。
16歳の誕生日プレゼントに貰った傘を見て、心の中で叫んだ。
ほんとは大声で叫びだしたいくらい嬉しかったのだが、そーゆーキャラではないので、心の中でだけ欣喜雀躍としていた。
『姫 100%』と言う少女マンガが大好きだった。
主人公の姫という名前の女の子は、北海道の原野で父親と二人きりで暮らしていた。
ある日、父親が急死。姫に残されたのは、父親から叩き込まれた運動能力と、ずば抜けた頭脳。
そして、一本の傘。
柄が太く、無駄に重たいその傘には、合金製の刀が仕込んであり、姫は晴れた日でもその傘を背負って歩いていた。
父親の命を奪った悪の組織に、姫も狙われていたから。
私の傘には、もちろん刀は仕込まれていなかった。ほんとは仕込みたかったけど、私は悪の組織と闘わないから仕方ない。
持ち手から石突きまで一本の木の棒で出来ており、持ち手はいかにも「枝です」と言わんばかり、今にも葉がはえそうだ。
傘の生地はキャンバス布で落ち着いた緑色。
持ち手と石突きにそれぞれ金属製の輪っかがついていて、そこに背負い紐をとりつけ、背に負うことができた。
私は晴れた日には傘を背負って歩いた。
雨の日には、仕方ないから背中からおろして、普通にさした。5年ほど、いつも傘を背負う生活を続けていたが、ある雨の日。
踏み切りを渡っていると、カンカンカン、と警報が鳴り出した。私が急ぎ足で踏み切りを抜けた、と思い、足をゆるめた時、
ぼす!!
と重たい音がして、遮断機が傘に降ってきた。
あわてて道から避けて傘を見ると、骨が2本ぼっきりと折れ、一本は生地をやぶって突き出している。
「そんな!! 傘が!!」
思わず、叫んだ。
やぶれた傘で体半分濡れながら帰った。正直、体が濡れてることなんてどうでもよかった。傘が壊れたことのほうがショックだった。
傘を修理に出すことも考えた。
しかし、5年も使い続けたため、生地は色あせ、中骨も錆びてきていた。貧乏学生で、修理代が高くつくことを考えると、思い切ることができなかった。
捨てることもできず、3ヶ月、敗れた傘はベランダに置きっぱなしになっていた。が、燃えないゴミの日に、母が黙って捨ててしまった。
私に「どうするの?」と聞いても、どうにもできないとわかっていたのだろう。
それ以来、あまり、傘をささなくなった。小雨なら、帽子だけかぶって濡れて行く。大雨のときは仕方なく、家の隅っこに置いてあるボロ傘を持っていったが。
何年かたって、また、誕生日に傘をもらった。
それからは雨が降れば、普通に、もらった傘を使わせていただいている。
姫が闘っていた悪の組織は、そういえば、どんな悪事を働いていたんだっけ……、すっかり忘れてしまった。
押入れの奥に、今でもまだ『姫 100%』は取ってある。だが、わざわざ引っ張り出して読み返そうという気持ちにまではならない。
そもそも、もう老眼も出てきだした大人で、マンガ自体を余り読まなくなってしまった。
だが、今でも。
傘立てに、たくさん並ぶ傘を見ると、探してしまうのだ。特徴的な、あの持ち手を。
これから先、何本の傘を新調するかはわからない。だが、何本の傘を手にしても、私はきっと、姫の傘のことを忘れられない。