第20話 なんかうまい

文字数 2,524文字

 超絶強風につき、行きはヨイヨイ帰りは怖い。
 ランニング中、風で押し戻されて全く進めない。僕の脚力と前から来たる風圧が同等なのである。前傾姿勢を取り、もがくように一歩、また一歩と牛歩のごとき遅さで進む。

 結果、歩く方が早いと気付いた。走ると体が宙に浮くから戻されてしまうのであって、歩いていれば地面から離れることはないため、ちゃんと前進できる。

 15時に娘のモッさんとカフェへ行く予定だったが、ランニングを途中でウォーキングに切り替えたせいで1時間半の行程となってしまい15時半に出発することとなった。まだ街には強風が吹き荒れており、プラスチックごみや発泡スチロールが飛び交っている。雲の流れも速く、空だけ見ているとまるで街ごと大移動しているかのようであった。

 カフェに着き、店の入り口のドアを開こうとしても動かない。お休みなのかと思ったら、風で勝手に開くのでお客さんが通るたびに店長さんが鍵を開けているようだ。大変そう。

 おしゃれなカフェにて、いつまでもお喋りをするような場所ではない。皆シングル客であり、黙ってコーヒーを嗜んでいる。こういう雰囲気に我々は弱い。恐る恐る席に座り、メニュー表の到来を押し黙って待つ。

 店内はコンクリート壁をあえてそのまま使っていたり、他方では木を一面全体に貼っていたり白く塗っていたりと色をはっきり使い分けたスタイリッシュな内装である。木製のカウンターに6~7人ほど、テーブルは合い向かい無しの二人掛けが2つ。お喋りでなくコーヒーを楽しんでほしいというコンセプトが強く伝わってくる。

 いただいたメニュー表をペラペラ捲る。モッさんはコーヒーの苦みがダメなため、アイスココアを頼むことを決めて、顎を摩りながらセットのお菓子を選んでいる。
 僕はひとつ面白そうなものを見つけた。

「ノンアルコールのコーヒーカクテルだってさ。これにしようかな」
「ノンアルコールって、お酒入ってないってこと?」
「アルコールゼロのお酒って感じかな」
「ふーん、勝手にすれば? あたしは決めたよ。ショコラテリーヌにする」

 さらにメニューをペラペラ動かしていると、さらに良いものがあった。
 3種類のコーヒーを飲み比べできるらしい。

「すいません。これってどういう感じのものですか?」
「こちらで豆などの指定はしますが、浅煎り、中煎り、深煎りで3種類のコーヒーを試していただけます」

 旅の途中、福島県でもコーヒーの飲み比べをした。あのお店、また行きたいなぁ。
 懐かしくなって、コーヒー3種類飲み比べとガトーショコラにした。

 注文の品が来るまで改めて店内を見廻す。白と灰色と茶色に囲まれた店内は、柱やテーブル、カウンターに木材の茶色を多用することで温かみを生み出している。殺風景になりがちな壁には店員さんのエプロンや謎のTシャツを掛けていたり、色彩豊かなポットやマグカップ商品を置くことで目を飽きさせないようにしている、と感じられた。

 モッさんの分と僕の分が同時に出された。写真は撮っていない。スマホを忘れた。
 小さな青、黄、緑のカップにコーヒーが満タン。

「左からブルンジネンバ、ウォッシュドの浅煎り、ニカラグア、エル・ナランホのナチュラル中煎り、インドネシア、マンデリン・オナンガンジャン、スマトラ式の深煎りです」

 なんやなんや、知らん単語がいっぱいだぞ。地名なのか何なのか。
 とりあえず飲み比べてみよう。(それぞれの単語の解説は、長くなるので省きます)

・ブルンジのネンバ、ウォッシュド浅煎り:いつも飲んでるコーヒーに近い。苦みも酸味も少なく飲みやすくて、すぐに飲み切ってしまった。
・ニカラグア、エル・ナランホのナチュラル中煎り:香りが強く出ていて、鼻で飲んでいるような感覚になった。ガトーショコラの味と盛大に喧嘩していた。
・インドネシア、マンデリン・オナンガンジャン、スマトラ式深煎り:あまり味わったことのない種類のコーヒー。苦くて、独特な香り。色も濃いが味も濃い。ガトーショコラと味の格闘をしていた。

 むむ、ガトーショコラは浅煎りで食べ切るべきであった。最終的には水で口の中をさっぱりさせ、中煎りと深煎りを交互に飲み比べてフィニッシュ。珍しく時間をかけたから、ちょうど僕が飲み終わる頃、右側からストローで啜るズゾゾゾという音を聴いた。

「どう? おいしかった?」
「うん。なんかうまい(終)」

 ふむむ。こいついっつも小説読んでるくせに語彙少なすぎじゃなかろうか。もっと、こう、なにか小粋な言葉で表現してくださいよ。と思ったけど、うまいに越したことはない。そういえばポニーも昨日、美味いとしか言ってなかった。こういうものなのだろうし、これでいいのだ。

 支払いを済ませて店を出ようとしても、ドアが開かない。
 そうだった、風対策で鍵を閉めてるんだった。店長さんに開けてもらい、外へ出た。

「パパ、本買いたい」
「財布あるのか?」
「持ってない。さぁ行こう」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 本屋でウロウロ。ひたすら新書を早読みしていると、娘が文庫本を持ってやって来た。

「アルジャーノンに花束を、か。どうしてこれ?」
「YouTubeのショートで、誰かがオススメしてたから。春休みだし読もうかなって」
「積ん読はどうなったんだよ」
「解消中。これ読むために頑張る」

 文庫にしては値段が高いけど、読み終わったら貸してもらおうと思って購入。

 帰りに無印良品へ立ち寄り、バッグを見る。安いショルダーバックがあって、どうせ仕事に使うものだし安い物でいいや的な感覚で購入。僕は自分の身に付けるもの、身の回りのものは2,000円以下に抑えるようにしている。ショルダーバッグはギリギリでそのルール範囲内だった。KindlePaperWhite(壊れかけ)と折り畳み傘(壊れかけ)が入ればそれでいい。

 3月後半に雪が降るような地域ではないのに、今日は何回か雪を見た。
 そりゃ寒いはずだ。

【本日の出費】

小粋なカフェ
ショコラテリーヌ+ココア
1,350円
3種類コーヒー飲み比べ+ガトーショコラ
1,750円
「アルジャーノンに花束を ダニエルキイス:著」
1,078円
無印良品ショルダーバッグ
2,000円

計6,178円
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