第33話 トマトと玉子の刀削麺セット

文字数 2,376文字

 陽射し柔らか、少しひんやりした風が気持ちいい。
 家のベランダで大きく息を吸い込んで……腹減った。

 腹が減った状態で通勤するから、間違って喫茶店に入ってしまうのだ。軽く食べて出ればそんなことにはならないはず。



 というわけでチキンラーメンを食べる。
 朝にはこのしょっぱさがキツイけど、お腹がそこそこ膨れたからグッドグッド。これで昼まで腹の虫は寝ていてくれるだろう。

 出勤のために街を歩いているうち、だんだん喉が乾いてきた。しまった、まだチキンラーメンの水分以外を摂取していない。
 その時、僕は先週立ち寄ったお店の前を通り過ぎた。こだわりコーヒーを出してくれるお店である。

 カフェラテを注文して、まったり飲むこととした。
 先週行った喫茶店とかカフェの中で、心からもう一度訪れたいと思っていたのはこの店だけだ。コーヒーが美味いのは勿論のこと、とにかく雰囲気が良いのと禁煙なのと、ちょうど通る時間あたりで開店するため空いている。時間さえあればコーヒーとじっくり向き合うことができる。



 カフェラテのホット、めっちゃ美味い。コーヒーの苦味と泡立ったミルクのふんわりした微妙な甘さが溶け合って、喉の渇きを癒してくれる。贅沢な朝である。
 小さな紙袋に入ったシュガーは顆粒タイプで、冷たい飲み物でもサッと溶けるみたいだ。それでアイスドシュガーという格好良い硬質な名がついているのですね。熱いカフェラテにサーッと注ぎ込み、スプーンで混ぜればホラ甘々ちゃんなラテの完成。

 以前も店の様子を書いたけど、今日は時間があるので店内の様子を観たままスマホのメモアプリに入力してみよう。

 ベージュの天井、青緑色に塗られた壁。丸い黒テーブル3卓。壁に寄り添うように伸びる明るい色の木製カウンターに丸椅子3脚。椅子は全部で9脚。壁には珈琲豆の袋がズラリ。コーヒーをご家庭でドリップするための入門用含め、コーヒー関連のアイテムが陳列されている。まさにコーヒーの店、coffee shop。BGMはマルーン5系のアメリカンなポップ。外の通りはひっきりなしに車や通勤の人々が通って行くのに、その騒音は届いてこない。ビル街においてまるで異世界のような、喉の渇きを癒すためのオアシス的空間。カップを持ち上げカフェラテをクイッと飲み込み、カップをソーサーへ戻す。お風呂に入った時と同じようなため息が出る。これは嬉しさによるため息である。ラテを飲むたび、お腹に幸せが溜まっていく。

 という感想でありましたとさ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 昼、腹がグゥグゥ唸ってるワ。
 さぁてさて、何を食べよっかなー。

 歩いて歩いて、辿り着いたのは刀削麺を出すお店だった。2か月くらい前に食べた時は、お客さんが多くて大変な目(食べ終わった後の猛ダッシュ)に遭った。今日は……それほど混んでないみたいだ。よし、ここにしよう。

 刀削麺セットには漬物と唐揚げが付く。この唐揚げがいわゆる中華系のお店の味付けで美味いんだよなぁ。スープは醤油、豚骨、坦々、麻婆、激辛。ちょっとお値段プラスで、トマトと玉子、五目、牛肉なんかをトッピング? できる。

「えっと、この、トマトと玉子刀削麺セットで」
「ゴハン、無料デツクヨ」
「ご飯は……要らない。ナシ」
「ゴハンナシ、ハイ」

 ここはホールスタッフも、あと多分厨房も中国系の方々だ。先々週学んだこと、外国人には「ですます」口調で話さない。あと、YesかNoかをはっきり伝えるべき。日本的な奥ゆかしいコミュニケーションを、相手は必要としていない。



 本日は思ったよりも早く提供された。前回はやっぱおかしな状況だったんだ。なら、ここを普段使いできそうで嬉しい。刀削麺すっごく美味しいからねぇ。

 レンゲでトマトと玉子を掬い、食べてみる。
 すごっ。……おいおいこれで唐揚げ含めて税込890円って安すぎないか。トマトの酸味と玉子のふんわりした甘味、スープの塩分がほどよく絡み合い、ま、マリアージュ、している。この言葉ってこの使い方でいいのかな。とにかく色んな味要素が最終的に旨味となって、ひと口含んだだけの僕の口内を良い意味で刺激してくる。とんでもない破壊力ぅ。

 刀削麺は小麦粉の生地を曲がった刀でシャッシャッ、シャッシャッと削って湯に放り込んでいくという荒っぽい作り方をする料理だ。このお店がその作り方かどうかは、厨房を見られないので分からんです。
 でもこの麺が美味い。分厚くて歯応えあり、それでいて柔らかく、スープの味をよく吸っていて、ラーメンなら飲み込むように食べてしまうところを、刀削麺だとよく噛むから存分に楽しめる。和食でいうとぜんざいみたいな? いや、全然違うか。

 まぁとにかくスープも麺も、食べるのが楽しくて仕方ない。
 そしてセットで付く唐揚げ。これがスパイシーでスンバラシ。これを食べるとご飯が食べたくなる。しかしスープも飲み干すなら、ご飯はお腹オーバーキルの要因となるだろう。それで今回は無料の小ご飯を辞退した。

 はたして、麺を食べ終えトマトの風味たっぷりスープを飲み干した時には、もう僕のお腹は「もう何も入らんでごわす」となっていた。

 支払いを済まして、外へ出る。
 あ〜、春の風が気持ち良い。
 今週末は旅してみよっかな。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 寝転んでiPadのメモアプリをポチポチして3行上まで書き終えた時、娘のモッさんが部屋で大声を上げた。

「ど、どうした?!」
「セイヤが! 成也がサヨナラ!」

 中日ドラゴンズの2024年公式試合の初勝利は、それまでノーヒットだった細川成也選手のサヨナラホームランによる劇的なものであった。

 今年は「ひいきが勝てません! 2」を書かなくて済みそうだ。
 ……済みそう、だよね?

【本日の出費】

 カフェラテ
 530円
 トマトと玉子 刀削麺
 890円

 計1,420円
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