第27話 昼のローストビーフサンド

文字数 3,241文字

 天空に棲む竜が、役目を終えた雨雲を食べてしまったらしい。そして今日は雲一つない晴天。青色と水色の淀みなきグラデーションに春への期待感が膨らむ。しかし明日はまた荒天になるということで、それなら今日の景色を楽しまなくちゃ。二度と戻らない今日を。

 朝。またもや遠回りして、とある喫茶店を訪れた。前々から気になっていたお店だ。入り口のドアを引いて開き、中へ入る。

「いらっしゃい」

 お年を召したご夫婦で営んでいるらしき喫茶店だが、それほど古さは感じない。お客さんは皆ソロで5人。テーブルは10卓ほどあって、適当に空いている席を選んで座る。椅子は木製のアームレスト付き、赤いファブリック、背もたれ部に鋲がいくつも打たれた外観で高級感を放つ。座面が柔らかいため、ついつい深く座ってハァァ……と息を漏らしてしまった。

 と、そこまで時間に余裕があるわけでもなし。立て掛けられたメニューを取って見る。
 コーヒーは400円からあって、日替わりモーニングが付く。昨日は別の喫茶店で2倍サイズのコーヒーを頼んだ結果、色々あって出勤時間ギリギリで会社へ滑り込むこととなった。だから今日はフツーサイズのコーヒーでいい。

 ブレンドコーヒーと日替わりモーニングを注文した。モーニングは言わなくても出てきそうなものだけれど念のため。
 引き続きメニュー表を読み進める。……生レモンジュースって何だろう。あ、バナナジュースもあるのか。家から出る前にインスタントコーヒーを飲むから、ジュースって手もあるんだよな。昼も喫茶店に行くなら、朝はジュース……アリだなぁ。

 スパゲティ、ピラフ、カレー、ドリア、シチュー。スパゲティは写真付き……と思ったらこれはパスタメニューか。どうして写真付きの方はパスタで文字だけのメニューではスパゲティなんだ。教えてくれ室井さん。
 それはともかく、サーモンのクリームソース、ボンゴレロッソ、なすのアラビアータ、ボンゴレビアンコ、ジェノベーゼの写真が掲載されている。どれも美味そうだけど、朝に食べるモンじゃないだろう。

 なんてひとりで寸劇風に考えながらメニュー相手に格闘していると、コーヒーとミルクが置かれ、そのあとハムサンドとヨーグルトが置かれた。



 これで400円は安いと思う。モーニングってナァ良い文化だなもす。
 さて、時間はあるようでないから、とにかく食べましょ。まずコーヒーを。写真では泡立っているからミルクを入れた後と思いきや、まだ入れてないんだなこれが。ブラックの状態でひと口。

 さすがに今週5件目の喫茶店なだけあって、ちゃんと淹れられたコーヒーの味が分かるようになってきた。喫茶店のコーヒーがインスタントコーヒーと決定的に違うのはフルーティーさと、酸味と苦味のバランスが取れていることだと思っている。インスタントの方は明らかに風味足らずのくせに酸味が強く出ている。と思ってる。

 御託を並べてみても空きっ腹は膨れない。ハムサンドを両手で持ち上げ、口に入れる。ハムとキュウリがパンに挟まれていて、マヨネーズと……、マスタード、あとカラシも入っているのかな。ピリッとした辛さで食欲倍増、どんどん食べ進めてしまう。

 4切れのサンドは、瞬く間に僕の胃へ流れていった。ここで、ミルクを入れたコーヒーを啜る。くくく……やはりサンドウィッチやトーストと、コーヒーの相性はバッチリだぜぇ。
 じゃなくて、ヨーグルトをいただこう。ブルーベリーのジャムか何かが乗っかっていて、それを分けていくと小さなバナナが大量に見つかった。ヨーグルトとバナナの相性は、すこぶる良い。甘味と酸味のバランスが絶妙。そこにブルーベリーの酸味が足されて、素晴らしい味の景色を生み出す。

 さぁて、まだ時間は多少あるぞ。コーヒーをゆっくり飲んで、改めて店内を見廻す。そこそこ大きな厨房には、この席からは見えないけれどコンロやらオーブンやらがあって、調理台でパンを切ったりコーヒーを淹れていたりするんだろう。昼時には、パスタを求めるお客さんが来ると思われる。そうだ、喫茶店は朝だけで終わりじゃない。たいていはそのまま開いていて、夕方くらいに閉店するはず。だからパスタもあればカレーもあるし、クリームソーダにアイスクリーム、チョコレートパフェもある。色んなお客さんが訪れて、様々な注文に対応する。メニューが賑わっていれば、店も賑わう。それもまた、生き残るために必要なファクターなのだ。

 ちょっと何言ってるのか自分で分からなくなってきたけど、とにかくそういうこと。昨日の喫茶店で食べた、あんトーストみたいなキラーコンテンツで勝負するか、この店のように何でもあるよ的なサービスで勝負するか。というようなことを今後書く小説に取り入れていきたいと思うのであった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 昼。腹が減りました。

 お腹を抑えながら、ラーメン屋、レストラン、ケバブの匂いなどなどを通り過ぎて、行き着いたのはカフェ。そう、今週は喫茶店縛りなのだ。

 本日のコーヒーはペルー、モンテアルト農園からと書かれている。寒暖差の激しい場所で栽培された豆は、甘みが強く風味豊か……なるほど。それよりランチのメニューが気になるぜ。

 ジャズが流れており白を基調とした陽光差し込む明るい店内にて、壁伝いに長く伸びる真っ赤なレザーソファに着席した。
 ウェイターさんからメニューを受け取り、眺める。

 サンドウィッチランチはB・L・T・Eサンド、オムレツサンド、アボガドとバジルチキンのサンド、クロックムッシュ。……ローストビーフサンドはちょっと高い。どれも写真付きで紹介されており、美味そう。

「すいません。ローストビーフサンドで、ドリンクはブレンドコーヒーでお願いします」

 と注文してメニューを返却。ブレンドコーヒーはハンドドリップらしく、ちょい時間かかりそうな感じ。この「ちょい」が致命傷にならなければ良いけど、なんて冷や汗を垂らしつつも意味なく冷静を装いnoteを読んで過ごす。

 7分くらいでテーブルに色々置かれた。すごく丁寧な置き方でビビる。ランチタイムってどこも忙しいから、なんなら捨てるくらいの勢いで置かれることもあるのに、ここは全然そんなことなくて、まったりした時間が流れてるようだ。店全体が落ち着いた雰囲気で良いと思う。こういう店ごとの雰囲気の違いもすごく参考になるから、しっかりと記憶に留めておかなくちゃ。



 よっしゃローストビーフ! などとガッついてはいけない。ここはまったりカフェなのでお淑やかにいこう。それでは、おローストビーフサンドを頂きます、ぱくり。……うめぇ。うまいよ美味すぎる。

 ローストビーフはご飯でも、パンでもいけるのかぁ。もしかして肉って……、コーヒーをグビッ。ああ〜、肉とパンとコーヒー、良き!
 これはご飯で味わうことのできない感動だ。ご飯とコーヒーは合わない。いや、カレーライスやオムライスとコーヒーは合うから、白飯とコーヒーが合わないと言うべきか。しかしパンとコーヒーは完璧なマリアージュ。なぜだろう。パッとググっても分からなかったので、また時間のある時に調べてみようかな。

 ローストビーフは柔らかくて、それでいて噛み応えがあって、ジョワっと肉汁溢れて口の中は牛まみれ。これが旨みというやつか。そこに遅ればせながらパンの甘みもやってきて、さらにオニオンスープも掬って取り込んだりなんかしちゃったりして。噛んで、噛んで飲み込んだら、コーヒーを。こりゃいいや。至福のランチですだ。オラこのサンド大好きダァ。

 まぁ例により時間が無いので、楽しいランチタイムも早送り。
 ちゃちゃっと食べ終え、支払いを済ませて外へ。

 明日は昼から天気が崩れるらしい。
 ランチタイムまでは勘弁してくれ。って誰に頼んでんだろう。

【本日の出費】

 朝
 ホットコーヒー、モーニングセット
 400円
 昼
 ローストビーフサンド、ブレンドコーヒーセット
 1,380円

 計1,780円
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