第7話 サシ飲みイタリアン 後編
文字数 2,710文字
1皿目がテーブルに置かれた。
「お通しなので、1皿目じゃないです」
そっか、ここは居酒屋なんだ。イタリアン居酒屋っていうのかな。だからお通しがある。腹が減っていたのかポニー・マールはすでに箸をつけていた。よく噛んで、しきりに頷いている、
「これ、美味いよ。酒に合いそう」
「へぇ、どれどれ……、パクっ。おお、ウッマ」
ハイボールをグビリ。うーん、至福。お通しはメニューに無いもののようで、皿をもらった時に丁寧に教えていただいたのだが、残念ながら料理の名前は忘れてしまった。「酒に合うウマいお通し」である。
次の皿、本当の1皿目が出てくるまで少し時間がかかるということで、アルコールの影響を受け始めた僕はポニーに「あの時のお礼」を伝える。
「1年とちょっと前、僕が小説を書くって言った時に、『書いたら、オレ読むよ』って言ってくれた。その言葉のおかげで、今も僕は(細々と)小説を書いてるんだ。君は忘れてると思うけど」
「……オレ、そんなこと言ったんだ。へぇ」
やっぱ忘れてたな。しかし間違いなく彼は、小説を書くきっかけとなる言葉を吐いてくれたのだ。あの言葉のおかげで、僕はたくさんのことを学べた。旅に出ることができた。今だってこうして日記を書いているし、まだまだ色々と書くつもりだ。
「正直、書いてもほとんど読まれない。まともに読まれたのは最近めっちゃ適当に書いた官能小説くらいかな。でも、書くのが楽しい。書いてる時、すっごく幸せなんだよねぇ。これが1年経っても続いてるんだから、甲斐性の無い僕にとっては奇跡みたいなもんだよ」
一応ポニーにNOVELDAYSの作者サイトURLを送信して、このサシ飲み回に登場させることの許可を得た。
1皿目が運ばれてきて、受け取る、
……左が鶏のガランティーヌで、右が鹿肉のリエット。だった気がする。すいません、うろ覚えなのでござるよ。そしてこれらは2皿分ということであった。つまり5皿というより、5品でござるな。
すかさずポニーがパクつく。
「これもうまい。酒……に合うよ」
「酒、頼む?」
「いや、まあ、やめとこうかな」
なんだか後ろテールを引かれるような言い方だ。これは来週か再来週あたり、ふたりとも酒を飲める状態で再訪すべきではなかろうか。そこで、ひとりでテキパキと仕事をこなす女性店主さんに訊いてみる。
「来週、お任せ頼むと、同じものが出るんですか?」
「できるだけ違うものを出すようにしてます。あと、2人体制の時だと、もっと凝った料理を出せますよ」
そう言って、店主さんはその2人体制になる日を教えてくださった。
「じゃあ、その日にもう1回来るかなぁ。……どう?」
「オレは誘われたら基本断らないよ」
再訪については後々考えるとしよう。それはさておき、ガランティーヌとリエット、すっげぇ美味い。特にサクッとしたパンの上に塗られた、コンビーフのようなリエットが素晴らしい。ハイボールがグビグビ進みますワ。これを烏龍茶のお供にしているポニーが可哀想。
ここからはダイジェスト。
アワビとじゃがいものジェノベーゼサラダ。
次のスルメイカとゴボウの煮込みは撮り忘れた。はい次。
椎茸のサルシッチャ詰めソテー。
ハイボールが無くなったので、赤ワインを注文した。日本酒と焼酎ばっかり飲んでいる者ですが、やっぱりイタリアンに合うのはワインだと思うのであります。
……うん、うん。やっぱり食事に合った酒を選択すべきだ。隣の常連さんもワイン飲んでるし。そして5品目を食べ終えても、ワインはまだ残っていた。
「パスタも食べようか。まだ食べられるなら、だけど」
「オレはいけるけど。シェアするってこと?」
「うんにゃ。ひとり1皿やで」
「そんなに?!」
店主さんがパスタの量を教えてくれた。パスタ自体は80グラムだけど、具が多いらしい。ふむふむ。
「よし、ひとり1皿でいこう」
「お、おお。じゃあ、オレはこれで」
「僕は……。これにしようかな。お願いします」
「ちょっと時間かかりますけど、よろしいですか?」
「全然大丈夫です」
お酒の話やら、小説の話など、取り留めない話をして待つ。
まずはポニーが注文したパスタから提供された。
鮮魚と春野菜のクリームソース・スパゲティ。
取り分け用の皿を頂き、少し分けてもらう。野菜は……キャベツかな? 甘くて、クリームソースにとっても良く合う。ワインとも合う。で、別の小皿で粉チーズを頂いた。それをかけて食べたらホラ美味い。一気に味が変わったぞ。このチーズ、一体何者ヨ。
「それはグラナパダーノです」
「グラ……パダ……」
「グラナ、パダーノです」
スマホで検索する。ほうほう、なるほど。こんなチーズがあったんですねぇ。人生で初めて聞きました。パン屋の小説書いた時に色々調べたはずだけど、グラナパダーノには触れなかった。いやはやお恥ずかしい限りで。
「カルディとかでも売ってますよ。かたまりでちょっと値は張りますけど」
店主さんと話していたら、ポニー・マールが自分の皿にグラナパダーノをかけていた。おーい、チーズだぞそれ。
「おっ。うまいよコレ。すごい美味くなった」
「そのチーズは食べられるんだ」
「うん、これはいける。うまい、うまい」
続いて、最後の品が登場した。
牛すじ肉赤ワイン煮込みソース・リガトーニ。
パスタと聞いて僕が想像するのはこの形状だ。なるほどこれがリガトーニ。パン屋の小説書いた時に(以下略)。ポニーへ少しの分け前をあげて、牛すじ肉とリガトーニを口へ運ぶ。
……これ、美味すぎるわいな。ほんでワイン煮込みやさかい、当たり前やけどワインとよう合いよる。ごっつい味やの。ほんまこの店、最高や。
ポニーも絶賛。
「うん。これも美味いよ。ここ、また来よう」
本日のサシ飲みは、小説を書くきっかけとなった彼へのお礼のつもりで、僕が支払いをした。次回のことは、次回考えよう。
ハイボール1杯とワイン1杯なのに、やけに足取りがふわふわする。顔も真っ赤っかなんだろうな。洋酒に弱いのかもしれない。
「帰ったら早速この回、書くよ。午前3時くらいまでかかると思う」
「いい趣味だなぁ」
「でしょでしょ。ふっふっふ。じゃあなー」(酔ってる)
そうして僕らは、笑顔で別れた。
というこの文章を書いている今、朝5時を回ったところだ。徹夜。
ミスチルのアルバムを聴きながらiPadの画面をポチポチしている。
うん、とってもいい趣味だと思う。
【本日の出費】
イタリアン居酒屋
お任せ5皿セット 2人分
ハイボール、赤ワイン、烏龍茶
牛すじ肉赤ワイン煮込みソース・リガトーニ
鮮魚と春野菜のクリームソース・スパゲティ
10,120円
「お通しなので、1皿目じゃないです」
そっか、ここは居酒屋なんだ。イタリアン居酒屋っていうのかな。だからお通しがある。腹が減っていたのかポニー・マールはすでに箸をつけていた。よく噛んで、しきりに頷いている、
「これ、美味いよ。酒に合いそう」
「へぇ、どれどれ……、パクっ。おお、ウッマ」
ハイボールをグビリ。うーん、至福。お通しはメニューに無いもののようで、皿をもらった時に丁寧に教えていただいたのだが、残念ながら料理の名前は忘れてしまった。「酒に合うウマいお通し」である。
次の皿、本当の1皿目が出てくるまで少し時間がかかるということで、アルコールの影響を受け始めた僕はポニーに「あの時のお礼」を伝える。
「1年とちょっと前、僕が小説を書くって言った時に、『書いたら、オレ読むよ』って言ってくれた。その言葉のおかげで、今も僕は(細々と)小説を書いてるんだ。君は忘れてると思うけど」
「……オレ、そんなこと言ったんだ。へぇ」
やっぱ忘れてたな。しかし間違いなく彼は、小説を書くきっかけとなる言葉を吐いてくれたのだ。あの言葉のおかげで、僕はたくさんのことを学べた。旅に出ることができた。今だってこうして日記を書いているし、まだまだ色々と書くつもりだ。
「正直、書いてもほとんど読まれない。まともに読まれたのは最近めっちゃ適当に書いた官能小説くらいかな。でも、書くのが楽しい。書いてる時、すっごく幸せなんだよねぇ。これが1年経っても続いてるんだから、甲斐性の無い僕にとっては奇跡みたいなもんだよ」
一応ポニーにNOVELDAYSの作者サイトURLを送信して、このサシ飲み回に登場させることの許可を得た。
1皿目が運ばれてきて、受け取る、
……左が鶏のガランティーヌで、右が鹿肉のリエット。だった気がする。すいません、うろ覚えなのでござるよ。そしてこれらは2皿分ということであった。つまり5皿というより、5品でござるな。
すかさずポニーがパクつく。
「これもうまい。酒……に合うよ」
「酒、頼む?」
「いや、まあ、やめとこうかな」
なんだか後ろテールを引かれるような言い方だ。これは来週か再来週あたり、ふたりとも酒を飲める状態で再訪すべきではなかろうか。そこで、ひとりでテキパキと仕事をこなす女性店主さんに訊いてみる。
「来週、お任せ頼むと、同じものが出るんですか?」
「できるだけ違うものを出すようにしてます。あと、2人体制の時だと、もっと凝った料理を出せますよ」
そう言って、店主さんはその2人体制になる日を教えてくださった。
「じゃあ、その日にもう1回来るかなぁ。……どう?」
「オレは誘われたら基本断らないよ」
再訪については後々考えるとしよう。それはさておき、ガランティーヌとリエット、すっげぇ美味い。特にサクッとしたパンの上に塗られた、コンビーフのようなリエットが素晴らしい。ハイボールがグビグビ進みますワ。これを烏龍茶のお供にしているポニーが可哀想。
ここからはダイジェスト。
アワビとじゃがいものジェノベーゼサラダ。
次のスルメイカとゴボウの煮込みは撮り忘れた。はい次。
椎茸のサルシッチャ詰めソテー。
ハイボールが無くなったので、赤ワインを注文した。日本酒と焼酎ばっかり飲んでいる者ですが、やっぱりイタリアンに合うのはワインだと思うのであります。
……うん、うん。やっぱり食事に合った酒を選択すべきだ。隣の常連さんもワイン飲んでるし。そして5品目を食べ終えても、ワインはまだ残っていた。
「パスタも食べようか。まだ食べられるなら、だけど」
「オレはいけるけど。シェアするってこと?」
「うんにゃ。ひとり1皿やで」
「そんなに?!」
店主さんがパスタの量を教えてくれた。パスタ自体は80グラムだけど、具が多いらしい。ふむふむ。
「よし、ひとり1皿でいこう」
「お、おお。じゃあ、オレはこれで」
「僕は……。これにしようかな。お願いします」
「ちょっと時間かかりますけど、よろしいですか?」
「全然大丈夫です」
お酒の話やら、小説の話など、取り留めない話をして待つ。
まずはポニーが注文したパスタから提供された。
鮮魚と春野菜のクリームソース・スパゲティ。
取り分け用の皿を頂き、少し分けてもらう。野菜は……キャベツかな? 甘くて、クリームソースにとっても良く合う。ワインとも合う。で、別の小皿で粉チーズを頂いた。それをかけて食べたらホラ美味い。一気に味が変わったぞ。このチーズ、一体何者ヨ。
「それはグラナパダーノです」
「グラ……パダ……」
「グラナ、パダーノです」
スマホで検索する。ほうほう、なるほど。こんなチーズがあったんですねぇ。人生で初めて聞きました。パン屋の小説書いた時に色々調べたはずだけど、グラナパダーノには触れなかった。いやはやお恥ずかしい限りで。
「カルディとかでも売ってますよ。かたまりでちょっと値は張りますけど」
店主さんと話していたら、ポニー・マールが自分の皿にグラナパダーノをかけていた。おーい、チーズだぞそれ。
「おっ。うまいよコレ。すごい美味くなった」
「そのチーズは食べられるんだ」
「うん、これはいける。うまい、うまい」
続いて、最後の品が登場した。
牛すじ肉赤ワイン煮込みソース・リガトーニ。
パスタと聞いて僕が想像するのはこの形状だ。なるほどこれがリガトーニ。パン屋の小説書いた時に(以下略)。ポニーへ少しの分け前をあげて、牛すじ肉とリガトーニを口へ運ぶ。
……これ、美味すぎるわいな。ほんでワイン煮込みやさかい、当たり前やけどワインとよう合いよる。ごっつい味やの。ほんまこの店、最高や。
ポニーも絶賛。
「うん。これも美味いよ。ここ、また来よう」
本日のサシ飲みは、小説を書くきっかけとなった彼へのお礼のつもりで、僕が支払いをした。次回のことは、次回考えよう。
ハイボール1杯とワイン1杯なのに、やけに足取りがふわふわする。顔も真っ赤っかなんだろうな。洋酒に弱いのかもしれない。
「帰ったら早速この回、書くよ。午前3時くらいまでかかると思う」
「いい趣味だなぁ」
「でしょでしょ。ふっふっふ。じゃあなー」(酔ってる)
そうして僕らは、笑顔で別れた。
というこの文章を書いている今、朝5時を回ったところだ。徹夜。
ミスチルのアルバムを聴きながらiPadの画面をポチポチしている。
うん、とってもいい趣味だと思う。
【本日の出費】
イタリアン居酒屋
お任せ5皿セット 2人分
ハイボール、赤ワイン、烏龍茶
牛すじ肉赤ワイン煮込みソース・リガトーニ
鮮魚と春野菜のクリームソース・スパゲティ
10,120円