第32話 世界の料理を提供する店

文字数 2,473文字

 風は強いけど天気良し、もう上着なんて要らない。そんな4月1日、街は春の装い。ビシッとスーツをキメたNew会社員たちが道幅いっぱいに広がり歩いていて大迷惑である。せいぜい幸せな社畜生活を送ればいい。
 日本は任せたぞ……。(←?)





 綺麗な桜を撮影して、歩いて行く。
 コメダ珈琲店のドアをくぐって気付いた。

(あ、もう喫茶店ウィーク終わったんだった)

 だがもう遅い。席に案内されてしまった。今更「サーセン、間違いっした」とか言って出るわけにもいかんでしょう。しかも煙草OKの店だから臭い。絶対タバコの匂いつくじゃん。なかなか切ない月曜日の朝だナ。

 とにかく入ってしまったからにはモーニングをいただくしかない。どれどれ……。

「山食パン(トースト)、たまごペースト、バターで、アイスコーヒーお願いします」
「アイスコーヒーはシロップとミルク付けますか?」
「うーん、そうで……すね、シロップもミルクもお願いします」

 部下を叱っている上司の声が聞こえる。それは会社でやってくれ。
 ……日本を頼んだぞ。

 それはさておき、注文したものが来るまでこの日記について考える。
 このクッソ適当な日記というかエッセイもどきは10万文字を超えた時点でいったん〆る。日々の出来事やちょっとしたこと、食べた物のことはnoteの方に時々アップするくらいになるだろう。もう1年の4分の1が終わったというのに、この名義では日記しか書いてない。まだたくさん書きたい小説が残っているので、せめて1、2か月に1コは完成させたいものだ。誰も読まなくたってワイは書くんやでぇ。それが趣味というものでしょう。



 トーストにはすでにバターが塗られていた。たまごペーストを乗せてパクッとね。ペーストの塩加減が良くてパンの甘さを引き立てる。たっぷり塗られたバターの香りも良き。そしてアイスコーヒーをゴクリ。ウメェ〜。

 間違って入っても、コメダのモーニングはありがたい。毎日でも通いたくなってしまう。明日はついつい入ってしまわぬよう、家で何か食べて出るとするか。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 朝をしっかり摂っても、昼になれば腹は空く。それがニンゲン。

 世界の料理をひとつの場所で、と謳う店のランチを食べたいと思った。1か月前その存在に気付いてから、なんとなく気になっていた店だ。
 店内へ入り、スタッフさんの指示する席に座った。店を一望できる壁際ソファーの席で、いただいたメニューを眺めつつ店内を見廻す。

 カウンターの上に黒板があって、夜のおすすめメニューやら、『今日のテーマはアフリカ大陸』などと描かれている。ランチは決まったメニューだが、夕方以降レストランバーになるということかな。鹿肉、猪肉、……熊肉?! 熊の肉ってどんな味なのか、ちょっと興味あるぞ。

 さてランチメニューを読む。週替わりランチはジョージア料理のシュクメルリ(鶏肉とスパイスのクリーム煮込み)で、あとキューバから挽肉と青バナナのサンドイッチ、ベトナムから牛肉のフォー、リベリアからリベリアン・チキン・グレイビー(ピーナッツバターでコクを出したチキンとトマトのカレー)というラインナップ。

 目立たない色で1行、名物の唐揚げランチ(インドネシア)というのを見つけた。大人気のためいつでも食べられるようにしている、と書かれている。大人気……みなさん食べられますよ、か。

「この、名物唐揚げランチお願いします」

 天井には4国の国旗が張られている。どの国かは分からない。カウンターの向こう、小さな横長の厨房には酒瓶が並ぶ。きっと世界のビールとかなんとかだと思われる。熊肉と世界のビールは試してみたいところ。白い壁に多色の絵画、カウンター周りは木材が多め。随分と大人な雰囲気漂うレストランだ。
 お客さんはまばら。長居をする雰囲気でもないので回転は良さそう。



「韓国のスープとメキシカン……と紫の……、蒸し鶏です」

 しまった前菜の説明を全然聞いてなかった。
 まぁ、食べてみれば分かるっしょ。……うーむ分からん。メキシカン何ちゃらはカレーっぽいスパイスの効いたコリコリしたもの。紫は福神漬けっぽい味。蒸し鶏は味付けが外国な感じ。少量のオリーブオイルと何かの味だ。どれもご飯が欲しくなる、それぞれ独特な味付けの前菜だった。



「手前がタピオカの衣で、後ろがオリジナルな米粉の衣です」

 今度はちゃんと聞いた、けど味の想像がつかない。あと米はタイ米かなにかで、長くて細い。韓国、メキシコ、インドネシア。この店は旅してるなぁ、と思って壁際立てかけられて並ぶ本に目を移すと、世界の歩き方グルメ編という本があった。そんなのあるんだね。

 まずタピオカでできた衣という唐揚げを皿から拾い上げ、一部を噛んでみたアッツ。揚げたてだったわい。米をパクっ、唐揚げの濃さを中和するかのような、さっぱりした米だ。

 次は米粉でできた衣の唐揚げをいただく。あっ、こっちのが良い。サクサクで濃い味の衣の下に、うまーい鶏肉あり。

 時々口直しに韓国のスープを飲む。スープの中身は野菜とおそらく鶏肉で、細かく切られていた。

 唐揚げ、ご飯、スープ、水……。
 そんな風に繰り返し、バランスよく食べ進めてフィニッシュです。
 街の中に世界があるという、不思議な空間だった。
 
 街をブラブラしながら、またこの日記について考えを進める。最後は独りの小旅行で〆るか、もしくはポニーくんとの飲みで終わらせるか。どうすっかな。普通に総括して終えてしまうのも悪くない。いや、総括すら要らないかも。

 だってもう答えは出てる。
 僕の「旅」は、文章を書くことなんだ。
 書くために僕は日本全国を周る旅をした。
 今もこうして、一つの街という小さな世界を旅して書いてる。
 あるいは自分の心の中を旅してフィクションを書いてる。

 この狭くて広い世界を、僕は旅し続けてるんだ。

 ……なんか最終回みたい。
 でもまだ、もちっと続くのじゃ。

【本日の出費】

 コメダ珈琲店 モーニング
 480円
 インドネシア(風?) 名物唐揚げランチ
 980円

 計1,460円
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