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文字数 2,948文字

「×○※△□!!」

 エルフたちは「不審者だ!」とでも言っているのだろうか? 何を言っているのかさっぱりわからんが、バケツをかぶったオレたちを見て慌てているのはわかる。でも、高坂はすぐに臨戦態勢になり、釘バットを構えた。

「おいっ、高坂! いきなり釘バットとは物騒だな。まだ穏便に話し合って、メシを分けてもらうって手もあるんだぞ?」
「はぁ? 話が通用する相手とは限んねぇだろ。こいつらいい男たちだからと言って、襲ってこない保証はない。そもそもここで女は私だけだし」
「おんな……」

 あっ、そういやこいつ、女だった。守ろうなんて微塵もないが、確かにこんな男だらけの場所に夜いたら、貞操の危機とも思えなくもない。といっても高坂だから平気だろうけどな。

「で、でも! オレたちまだ人間だってバレてはいねぇだろ? 同じエルフのフリをして……」
「お前、エルフの言葉がわかるのか? あ?」
「わかんねぇな。くそっ、やっぱりここは強行突破しかねぇのか?」

 混乱しているエルフの村人を襲うというのは気が引けるが、相手を混乱させてその隙にというのも戦法の一種でもある。
 ここはやっぱりメシのためにやるしかねぇ。

 オレは拳を握ると、殴る構えを取る。バタフライナイフも持っているが、まずはエルフがどれだけ強ぇか見極めたいところだ。

「しっかし、高坂。おめぇはいきなり武器か。卑怯だな」
「わけわかんねぇ相手に卑怯も何もあるか。行くぞっ!!」

 高坂の合図でオレは食事を運んでいたエルフの目の前に走りこもうとする。しかし、そこを先ほどのストリップをしていたさわやか系のエルフが塞いだ。

「オレの相手はてめぇか。高坂!」
「×○△※!!」
「話してる暇はねぇんだよっ!! メシを――食わせろぉぉぉっ!!」

 さわやか系エルフに渾身のパンチを繰り出すが、それをひらりとかわす。ふん、避けたか。だったら……。

「とうっ!!」

 腕を引いたその勢いで回し蹴り。それも腕で軽くいなす。武術のたしなみはあるのか。だからって、ただのなよっちそうな男であることは変わりない。このまま行けるか? 今度は脇腹にフック。しかし――。

「サキ! うしろっ!」
「うわっ!?」

 かわいい系のエルフ(同じくふんどし状態)がオレの頭をめがけて、太い刃物を振り下ろす。これはやばい。咄嗟に避けるが避けきれず、かぶっていたバケツが割れる。

「……ぶねぇっ! 刃物なんて聞いてねぇぞ!」
「それよりサキ、耳が……」
「あ」

 時すでに遅し。エルフたちはオレの姿を見て余計に騒ぎ出し始めた。まずい、人間だってバレた。こうなったら村を制圧するしかねぇ!! ここにいるエルフは30人か。2人で行けない数じゃない……はず。高坂が本気出してくれればだけども。

「そっちが刃物で来るんだったら、こっちも武器出させてもらうぞ」
「!!」

 ジャキンッ!! とバタフライナイフを取り出す。持ち手のところがナックルになっているアレだ。
 その様子を見たエルフたちが、少しざわつく。だが、向こうも臨戦態勢を取り始めた。

「高坂、村を潰すぞ!」
「っせぇな! 命令すんな! わかってるわ!」

「×○□△!! うぉぉぉぉっ!!」

 エルフの誰かが声を上げると、「ブォォ~ン」と先ほどの角の楽器が鳴らされる。アレ、ほら貝的なやつなのか? まあいい。関係ない。ここにあるメシのため!! 言葉が通用しなければ、力で理解させるしかねぇ!!

 エルフたちは隠していたのか、青龍刀のような武器を持って襲い掛かってくる。結構バカでかい武器に一瞬たじろぐが、一度攻撃を受けた身だ。怖くなんかねぇ。

「おおおっ!!」

 オレはエルフめがけて飛び蹴りを食らわす。もう1対何人かわからない。それでもやるしかねぇ。獲物を持っているやつは手首を狙ってナイフで切りつける。横にシュッ! とナイフを振ると、シパッ!! とエルフたちの手首に傷をつけていく。気を取られているその隙に、腹に膝蹴り、頭突き、エルボー。3人は一瞬で片した。しかし。

「@○×※%&#……!」
「えっ!? な、なんだ!?」

 長髪の、先ほど挨拶をしていたエルフが何やら呪文を唱えると、オレの体は身動きが取れなくなる。くそっ……こいつら、魔法でも使ってんのか? 高坂は――?

「高坂ぁっ! こいつらなんか魔法みたいなの使いやがるぞ!!」
「マジかっ!」

 「マジか」と言いながらも、高坂は釘バットを手にエルフたちと対等に戦っている。

「上等、こっちも本気、出させてもらうぞ!」

 例の100均ゴムバンドを外してポケットに入れると、高坂は釘バットを構え直す。今までのはまだ本気じゃなかったってことか。さすが西東京の魔女。静電気を味方にしたアイツの強さは折り紙付きだからな。だが、エルフが魔法を使ったら、それまでなんじゃ……。


「@○×※%&#……」

 来た。拘束の呪文だ! 高坂は、お構いなしで釘バットで青龍刀みたいな刀を持ったエルフたちをなぎ倒していく。……ん? もしかして。

「おりゃあああっ!!」
「△×○※!?」

 あれ? やっぱり。あの長髪エルフもなぜか焦っているし、周りのエルフたちの攻撃も引き気味だ。これってまさか、魔法が効いていない……とか?

「@○×※%&#……!!」
「なんか知らねぇが、無駄無駄ァっ!!」
「!!」

 もう一度魔法をかけようとするエルフだが、高坂が先に回り込み、釘バットを思い切り振りかざす。そのときだった。

(お止めくださいっ、連れの方っ!!)

 頭の中に男の声が響く。これってもしや、あのエルフの声? 長髪のエルフがこちらを見つめる。オレたちと言葉が通じるのか? それともテレパシー?

「高坂、ストップ!!」
「へ?」

 エルフの頭に釘バットを振り下ろす寸前、高坂は手を止めた。

「何止めてんだよ! 村ァ制圧しねぇと、メシ食えねぇだろ!」
「そうなんだけど……」
「ありがとうございます、お連れの方」
「あっ、やっぱりオレたちの言葉が通じる……?」

 長髪のエルフは、また何やら呪文を唱える。するとオレと高坂がボコってケガをしたエルフのケガが癒えていく。
 全員のケガが治まると、長髪のエルフは言った。

「私はこの村の神官、ナルーと申します。あなた方はどうして私たちを襲うのです? 見たところ、隣国の人間の戦士とは違う」
「悪かったな、突然襲って。でも言葉が通じねぇと思ったから……」
「コトバは魔法で翻訳しています。あなた方の目的はなんですか?」
「それは……メシ……」

 グウウウ……とまた腹の音が聞こえる。

 メシと言った瞬間、壮絶な空腹感が俺を襲う。高坂はというと……。

「おい、サキ! この果物マジうめぇぞ!!」
「あっ、高坂! 先に食うなんてずりぃ!! なぁ……いきなり襲ったオレたちが完全に悪いんだけど、オレもメシ食っていいか?」
「ああ! お腹がへった旅人の方だったのですね。でしたらどうぞ。旅人には施しをするのが、このデイヤの村のしきたりですので」
「わりぃな!」

 先に食っている高坂の隣に座ると、オレも果物を丸かじりする。料理みたいなものもあるが、味は……うーん、薄味なのか? 正直口には合わないが、空腹は満たせる。とりあえずバカバカと口へ運ぶ。パンのようなものもあるが、めちゃくちゃ固い。

「旅人でしたか。しかし……」

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