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文字数 1,911文字
「あー暇だ」
「暇って、渋谷とアキバが乗り込んできたのによく言えますね。最悪、今度は浅草のヤクザが来ますよ」
「そういうのは先輩たちの仕事だろ。オレは楽しく殴り合いをしたいの! あの『西東京の魔女』がこの辺を制圧していたときみたいに……」
『西東京の魔女』。それがあいつの異名だ。本名は知らないが、長い黒髪にクソダサいロングスカート。確か南高の制服だったか。
にらまれた相手はステゴロでも脱臼。いや脱臼くらいならいいほうだった。なんでも『西東京の魔女』は柔道、空手、合気道経験者らしいという。段を取ってしまうと犯罪になってしまうから昇段審査は受けないが、最低どの武術も三段かそれ以上の実力があるという噂だ。
相手は女だ。ヤッてしまえば問題ない。そう思った先輩は何人もいた。それなのに……。
「なんで『捕まえられない』んだ」
「さぁ? なんか不思議な力で跳ね返されるとか。本当に魔女だったのかも?」
「んなわけあるか!」
そうなのだ。不思議なことに、この『魔女』にまともに触れられた相手がいないのだ。それついた異名が『西東京の魔女』。
魔女がいたときは平和だった。みんな『魔女を倒すこと』が目標だったから。魔女を屈服させる。どの野郎どももそう意気込んだ。なのに連戦連敗。それは俺もだった。
その魔女が消えて、都内の他の場所にケンカを売るやつが増えた。その結果、西東京に面倒くせぇやつらが現れるようになってしまったのだ。
「なぁ、向井。魔女を連れ戻せばまた元気な殴り合いライフが戻ってくると思わねぇか?」
「なんスか、その『殴り合いライフ』って」
「健全な、男同士の拳の語り合い! オレに足りないのはそれ。あと魔女にも勝ってねぇし、倒したい」
「あいつは女ッスけど」
「魔女は例外。オレ、あいつを倒したい!」
「サキさんはどこまでもアホ……いや、純粋なんですね。さっきから『倒したい』しか言ってないじゃないですか。語彙力ゼロですか。学年1位が」
「うるせぇ! ってことで、ちょっくら魔女がどこに行ったか探すぞ!」
「そんなうまくいくんスかね。魔女の名前も知らないじゃないですか」
「それなんだよなぁ」
悩みながら俺たちはとりあえず南高に向かった。あいつの制服。それしか目印がなかったからだ。
「やだー……西高のヤンキーじゃない」
「目、合わせるなよ」
「ちっ」
下校途中の一般の生徒たちがオレたちを避ける。
「そんな目立つ格好はしていないはずなんだけどな……」
「金髪なのとピアスが怖いんじゃないですか。また穴増えました?」
「今耳左右合わせて23個だけど」
「それ、むしろ開いてないところの面積のほうが少ないんじゃ」
「黙れ、ベロピは開いてない」
「そういう問題じゃないです。あと眉毛剃るのはやめたんですか」
「眉毛ないとヤンキーに見えるだろ」
「立派なヤンキーが何言ってるんです?」
ちっ、相変わらず向井は生意気だ。
こんな図体のでかいツーブロと校門前で張っていたら先公が来ちまう。さっさと生徒に聞くか。
「おい、そこの!」
「ひいっ!」
「ちげぇよ、弱そうなメガネ! お前が知ってるわけねぇだろ! その後ろの体育会系!」
「……俺か? なんだ、不良」
「オレたちは……」
「ああ! どうせ『西東京の魔女』を探してるんだろ?」
「え?」
「あいつなら、退学したぞ! じゃあな!」
体育会系の男は、人の退学を妙にさわやかに言ってのける。そんな……いや、まぁ不良だったらあり得るけども。
「ちょっと待て! 退学したあとどこ行ったかわかるか?」
「いや、知らないな! じゃあな!」
「ま、待て! 本当に何かヒントもないのか?」
「ヒント? 警察に補導されたか、逮捕されたんじゃないか? じゃあな!」
くそ、取り合ってもくれねぇ……。そんなに居場所を教えたくねぇのかよ!! ブチ殺す……そう思ったとき、向井がオレを制止した。
「サキさん、待ってください! 体育会系のやつは厄介ですよ。ケガさせたらあとで損害賠償請求とかされるやつ!!」
「くそっ、そうだった。こうなったら面倒だが……」
オレは持っていた折り紙を取り出すと、そこに太いマーカーで文字を書く。
『今夜、大村墓地にて待つ!!!』
ビックリマークは3つだ。そのほうが目を引くからな。
その折り紙で鶴を折ると、近くにいた女たちに声をかける。
「おい、そこの女! これを南高のトップに渡せ」
「折り鶴?」
「ちげぇ!! 果たし状だ!! 渡せよ!! 絶対だからな!!」
「こういうところがあるからバカだと勘違いされるんだよなぁ……サキさんは」
「あぁ!? 向井、なんか言ったか?」
「……今日は風が強いですねェ~……」
女たちに果たし状を押し付けると、オレは向井とその場を去った。
「暇って、渋谷とアキバが乗り込んできたのによく言えますね。最悪、今度は浅草のヤクザが来ますよ」
「そういうのは先輩たちの仕事だろ。オレは楽しく殴り合いをしたいの! あの『西東京の魔女』がこの辺を制圧していたときみたいに……」
『西東京の魔女』。それがあいつの異名だ。本名は知らないが、長い黒髪にクソダサいロングスカート。確か南高の制服だったか。
にらまれた相手はステゴロでも脱臼。いや脱臼くらいならいいほうだった。なんでも『西東京の魔女』は柔道、空手、合気道経験者らしいという。段を取ってしまうと犯罪になってしまうから昇段審査は受けないが、最低どの武術も三段かそれ以上の実力があるという噂だ。
相手は女だ。ヤッてしまえば問題ない。そう思った先輩は何人もいた。それなのに……。
「なんで『捕まえられない』んだ」
「さぁ? なんか不思議な力で跳ね返されるとか。本当に魔女だったのかも?」
「んなわけあるか!」
そうなのだ。不思議なことに、この『魔女』にまともに触れられた相手がいないのだ。それついた異名が『西東京の魔女』。
魔女がいたときは平和だった。みんな『魔女を倒すこと』が目標だったから。魔女を屈服させる。どの野郎どももそう意気込んだ。なのに連戦連敗。それは俺もだった。
その魔女が消えて、都内の他の場所にケンカを売るやつが増えた。その結果、西東京に面倒くせぇやつらが現れるようになってしまったのだ。
「なぁ、向井。魔女を連れ戻せばまた元気な殴り合いライフが戻ってくると思わねぇか?」
「なんスか、その『殴り合いライフ』って」
「健全な、男同士の拳の語り合い! オレに足りないのはそれ。あと魔女にも勝ってねぇし、倒したい」
「あいつは女ッスけど」
「魔女は例外。オレ、あいつを倒したい!」
「サキさんはどこまでもアホ……いや、純粋なんですね。さっきから『倒したい』しか言ってないじゃないですか。語彙力ゼロですか。学年1位が」
「うるせぇ! ってことで、ちょっくら魔女がどこに行ったか探すぞ!」
「そんなうまくいくんスかね。魔女の名前も知らないじゃないですか」
「それなんだよなぁ」
悩みながら俺たちはとりあえず南高に向かった。あいつの制服。それしか目印がなかったからだ。
「やだー……西高のヤンキーじゃない」
「目、合わせるなよ」
「ちっ」
下校途中の一般の生徒たちがオレたちを避ける。
「そんな目立つ格好はしていないはずなんだけどな……」
「金髪なのとピアスが怖いんじゃないですか。また穴増えました?」
「今耳左右合わせて23個だけど」
「それ、むしろ開いてないところの面積のほうが少ないんじゃ」
「黙れ、ベロピは開いてない」
「そういう問題じゃないです。あと眉毛剃るのはやめたんですか」
「眉毛ないとヤンキーに見えるだろ」
「立派なヤンキーが何言ってるんです?」
ちっ、相変わらず向井は生意気だ。
こんな図体のでかいツーブロと校門前で張っていたら先公が来ちまう。さっさと生徒に聞くか。
「おい、そこの!」
「ひいっ!」
「ちげぇよ、弱そうなメガネ! お前が知ってるわけねぇだろ! その後ろの体育会系!」
「……俺か? なんだ、不良」
「オレたちは……」
「ああ! どうせ『西東京の魔女』を探してるんだろ?」
「え?」
「あいつなら、退学したぞ! じゃあな!」
体育会系の男は、人の退学を妙にさわやかに言ってのける。そんな……いや、まぁ不良だったらあり得るけども。
「ちょっと待て! 退学したあとどこ行ったかわかるか?」
「いや、知らないな! じゃあな!」
「ま、待て! 本当に何かヒントもないのか?」
「ヒント? 警察に補導されたか、逮捕されたんじゃないか? じゃあな!」
くそ、取り合ってもくれねぇ……。そんなに居場所を教えたくねぇのかよ!! ブチ殺す……そう思ったとき、向井がオレを制止した。
「サキさん、待ってください! 体育会系のやつは厄介ですよ。ケガさせたらあとで損害賠償請求とかされるやつ!!」
「くそっ、そうだった。こうなったら面倒だが……」
オレは持っていた折り紙を取り出すと、そこに太いマーカーで文字を書く。
『今夜、大村墓地にて待つ!!!』
ビックリマークは3つだ。そのほうが目を引くからな。
その折り紙で鶴を折ると、近くにいた女たちに声をかける。
「おい、そこの女! これを南高のトップに渡せ」
「折り鶴?」
「ちげぇ!! 果たし状だ!! 渡せよ!! 絶対だからな!!」
「こういうところがあるからバカだと勘違いされるんだよなぁ……サキさんは」
「あぁ!? 向井、なんか言ったか?」
「……今日は風が強いですねェ~……」
女たちに果たし状を押し付けると、オレは向井とその場を去った。