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文字数 1,807文字

「彼女には魔法が通用しないようですね」
「は?」

 ナルーと言ったパツキンロン毛エルフ野郎は、不思議そうにあごに手をやった。隣でメシを食っている高坂に、魔法が使えない?

「どういうことだ? ナルーさん」

 一応年上っぽいので、敬称を使うオレ。一応年功序列には従いたい。高坂は別だが。メシも恵んでもらっているからな。

「先ほどあなたの動きを止める魔法……アレを彼女にもかけたのですが、まったく通用しなくて。どういうことでしょうか」
「どういうことって、オレに聞かれても……。でも、コトバはわかるようになっただろ? 翻訳の魔法だっけ。高坂にそのまま聞いてみれば?」
「それが……翻訳の魔法も効いていないみたいで」
「そーなの?」

何故だろう? 異世界人だからとか? いや、だとしたらオレだけ魔法が効いているのはおかしい。異世界人だから魔法が通用しないというならば、オレも魔法は効かないはずだ。なんで高坂だけ……。本当に魔法、聞いてないのか?

「なぁ、高坂」
「ん?」

 果物がなくなり、隣で固い石のようなパンをかじっている高坂に声をかける。こいつは腹が満たされればなんだっていいのか。

「ナルーさんのコトバ、さっきから聞いてるだろうけど理解してるか?」
「は? 相変わらず何言ってんのかわかんねぇじゃん」
「おめぇ、わかんねぇのに勝手にメシだけ食わせてもらってたのかよ!」
「え? このままだと村を壊されると思って私に降参したんじゃねーの?」

 なんだ、こいつ。女王様かよ。まぁ女王様と言えばそうなんだろうけどな。元いた世界でも、こいつに殴られることに快感を求める変態もいたことだし。

「やっぱり魔法効いてねぇのか?」
「おかしいですね……。こうなったら、試させていただきたい」
「試させてって……は?」

 ナルーさんは構えると、また何か呪文を唱えだした。

「万物の光となる空に住む身を傷つける風の精たちよ……」

 ナルーさんの周りに、小さい竜巻のようなものが現れる。

「おっ、なんだなんだ」

 高坂はそれを珍しそうに眺めている。お前、今魔法をかけられようとしてるのに、のんきだな。高坂はオレとナルーさんの会話を聞いていないから、試されることに気づいていない。

 オレはナルーさんを止めようとはしなかった。純粋に、高坂は本当に魔法が効かないかどうか、知りたい。物理が強くて、異世界で魔法が通用しないってことは、もしかしたら最強なんじゃないか?

「わが手に集まるかまいたちよ、眼下の敵を捕縛せよ――!!」

 ナルーさんが手を高坂のほうへと振ると、イタチのような風の精たちが高坂の周りをぐるぐると回る。
 高坂はというと……。

「おい、果物おかわり!」

 ダメだ、本当に魔法は効かない。その上ずうずうしいことにおかわりを要求している。

「魔法が効かない人間……困りましたね。こうなったら!」

 村人とオレが見守る中、ナルーさんは大きく息を吸った。

「すうっっ……シュォォォォ……」

 あっ、なんか見たことある。武術家が本気を出すときの呼吸法だ。マンガで読んだことがある。

「お、おい、何する気だ?」
「魔法が効かない人間……非常に興味深い! 彼女を倒せたら、コフィン国を倒すヒントが得られるかもしれない。彼女には二人分の一食の恩を返すという意味で、死んでもらいます!」
「はぁっ!? ちょ、ちょっと待てよ!」
「コホォォォ……行きますよ」

 い、いや、マジで待て! メシをゴチったからひとり殺してもいいなんて、どんな部族だよこいつら! 

「高坂、臨戦態勢取れ! 攻撃されっぞ!」
「……あ? っていうか肉はねぇのかよ。まっじぃ野菜の煮物とか、そんなもんしかねぇじゃねぇか」
「お前、わがままばっか言ってるから――」
「火の神よ、焔を司る黒龍の吐息を我と契約し、目前の敵に火球を降らせ! 食らえっ、闇夜の炎魂烈弾(ナイト・ナイト・バーン)!!」
「高坂ぁぁぁ!!」

 空が光り、大きな火球が高坂の真上に落ちてくる。しかし、その火球は高坂に当たる前にパアンッ!! と大きくはじけ飛んでしまった。
 高坂はと言うと、平然と何もなかったかのようにメシを食らい続ける。

「……あん? なんか光ったか? ま、いいや。だからさぁ、果物! 若しくはまずくないメシ! サキ、言ってやってよ」
「き、効いてない……? 最高位の魔法が……弾かれた?」

 ナルーさんが膝から崩れ落ちる。今のを見ていた村人たちは、余計に騒ぎ出す。
『西東京の魔女』――本当に魔女だった、とか?

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