5-7

文字数 2,304文字

「っていうか、わざわざ聖女を召喚するほどのことだったのか?」

 デイヤの村に帰るとオレたちをナルーさんと村人が宴で迎えてくれる。だけど、わざわざ聖女なんて存在、必要だったのだろうか?

「この世界には『アルミ箔』なんて存在や5Gの都市伝説なんてないだろ?」
「そりゃそうだけど……」

 オレと高坂は今日は壇上に座らされている。そして、5人のエルフたちは今日もクネクネ踊っている……。

「聖女のお姉ちゃんのおかげで、ボクらの魔法がまた使えたから感謝だね」
「本当に感謝してるよ、お嬢さん」
「まっ、これでデイヤの村の平和は守られたってことだ!」
「……ありがと」
「ほーんと感謝よねぇ!」

「……と、いいつつ、お前らの持っている武器はなんだ?」

 高坂は後ろを見ずにそう言った。オレは急いで振り向く。マジだ。こいつら、恩人に刃を向けてる!? 

「おいっ、何してんだよ! オレたちは村を救った救世主だろ!?」
「その救世主たちを殺さないと☆だって、ボクらの魔法が使えない相手だよ? この村を乗っ取ろうとするかもしれないし~」
「……人間だしね」
「シュンはともかくヴィーナまで!? お前らっ……」

 呆れてものが言えなくなるが、エルフたちを前に高坂は動じない。

「……サキ、やるぞ」
「やるって!? オレ、魔法が……」
「んなもん関係ねぇよ! もう1回ボコらねぇとわからんみたいだからなぁ!」
「マジかっ!」
 
 オレはさっと頭を下げる。ディディの槍が頭を突いてきた。くっそ、こいつら本気かよ!

「ナルーさん! 止めてよ!」
「ですが、あなた方は最悪を呼び寄せる……かもしれない」
「『かもしれない』で殺そうとするな!」
「せいっ!!」

 ウィンのナックルが頬をかすめる。あーもう、こいつらはぁっ!!
 一度寝転がって、そこから腹筋を使い立ち上がると、すぐにファイティングポーズを取る。
なぁに、こいつらには一度勝ってるんだから。

「油断するな、サキ。今度は魔法使ってくるぞ!?」
「空を舞う風の精よ!」

 ヴィーナが詠唱を始める。ヤバい。

「また拘束される!?」
「魔法はこっちに任せろ!」
「高坂!」
「うぐっ!!」

 呪文詠唱の前に、高坂が例の静電気パンチをお見舞いする。魔法の詠唱を邪魔してくれるなら――。

「おりゃああああっ!!」
「!!」

 シュンの持っていた青龍刀を足で蹴落とす。こいつら、やっぱり魔法がなければ弱い。

「ふんっ、聖女によくも牙ぁ剥いたなぁ!? こっちは村ごと破壊してもいいんだからな!?」
「きゃんっ!!」

 そう言ってパンチで地面に大穴を開ける。その衝撃で、魔法を詠唱しようとしていたネオが弾かれる。

「……ったく、手ごたえねぇのに歯向かってくるんじゃねぇよ!」
「マジそれな。オレだって、魔法さえなければこんなやつら……」
「……くっ、5戦士たちが次々にやられるとは……まぁこうなることは最初からわかっていたことですが」
「「わかってたなら襲わせるな!!」」

 オレと高坂は思わずナルーさんに突っ込む。

「もういい。この世界にいてもろくなことがない。さっさと元の世界に戻らせてくれないか?」

 高坂がナルーさんに告げると、ナルーさんも静かにうなずく。最初からおとなしくそうしてくれよ……。

「しょうがないね。一度くらいボクらも勝ちたかったけど」
「仕方ないよ、おじちゃん。お嬢さんたちも急にこの村に呼び寄せられただけだったんだから」
「ホントそれな」

 真顔でディディの言葉に同意するオレ。

 ボロボロになった5戦士たちは立ち上がると、クネクネと踊りながら服を脱ぎだす。

「だから、それはなんだ?」
「召喚のときにやった儀式だっ! この舞を踊ってからじゃないと、魔法の詠唱ができねぇんだよ」
「踊りながら足で魔法陣を書く……」
「まぁまぁ、あたしたちの美しい舞を見収めてちょうだい」

 オレと高坂の周りで、エルフたちが踊りながら足で魔法陣を引いていく。

 そしてナルーさんが、呪文を詠唱し始める。

「聖なるエルフの華麗なる舞を天空へ捧げる!」
「いや、天空も『いらねぇよ』って言うわ」
「サキ、しっ」

 高坂に口を押えられる。くそ……最初から最後まで一体なんだったんだよ。変なところへ召喚されて、川の精に襲われて、ナルシストエルフたちに取っつかまって、絡まれて……。
こんな変な踊りで本当に無事、元の世界に戻れるのか?

「……なんだかんだ、楽しかったな」
「はぁ!? 高坂、お前はバグってんのか? この状況のどこが楽しかったんだよ!」
「久々に派手に暴れた気がする」
「おめぇはそうかもしれねぇけど、おめぇにマジックキャンセル能力……その帯電体質がなかったら、オレたちぶっ殺されてたんだからな?」
「それじゃ、やっぱりお前は私に感謝しないとダメだな?」

 高坂が珍しく、にっこり笑う。え、こいつ笑うと結構かわいい? っていうか、踊り子の服のままってこともあるかもしれねぇけど……。
 いつもの高坂なのに、今までよく見てなかったからかもしれんが……。
 マジか、これがまさか吊り橋効果……。急に心臓がドキドキしてきやがるっ! 嘘だろ!?

「っ……! それとこれとは話が違うっ!」

 顔が熱ぃ……。
そんなオレの状況は一切無視で、ナルーさんは呪文を唱え続ける。

「空を舞う幻想鳥よ、空を踊る風たちよ! 聖女と下僕を元の世界へと戻し、この世界に再び平安を! 来るべき朝日を今呼びよせよ! 天日来光(ドキドキモーニング)!!」

「!!」

 光がオレたちを包む。エルフたちの声が聞こえる。

「お姉ちゃんたち、たのしかったよ☆」
「本当にありがとう」
「もう二度と呼ばねぇからな!」
「……さよなら」
「元気でねん!」

 ホワイトアウトーー。目の前が真っ白になり、オレは気を失った。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み