4-5

文字数 3,037文字

 オレらが広場に行くと、すでに5人の戦士たちは集まっていた。集まって何をしていたかというと……。

「…………」

 その景色にオレと高坂はまた閉口する。ダイヤ……鏡石と言ったっけ? に自らの姿を映し出し、ポージングしているエルフたち。朝から胃が重くなる。

「ボクって本当にかわいいなぁ♪」
「もう少し、色気のあるポーズのほうがいいだろうか……」
「なぁ、ヴィーナ! 次はペアでポージングしてみようぜ! 男同士の色気が出るかも!」
「……うん、それ、いいね」
「あんっ、ヤダァ! 今日も髪の毛サラサラァ~!! もうっ、色っぽいんだから。あ・た。し」

 うざいエルフたちは、オレたちが広場に来ていることに気がついていない。自分たちの
美を鏡に映すことで精いっぱいだ。

「……さすがにうざいな」
「あ、高坂もそう思ってたのか」
「この状況を見て、『そう思わない』ほうが常人じゃない」
「まぁな」
「ここは、天誅をかまそうか」

100均バンドを静かに外すと、構える高坂。来るぞ……。

「お前ら……いい加減にこっちに気づけぇぇぇっ!!」

 ドゴーンッ!! と大きな音が鳴り、地面に穴が開く。パンチ+静電気の合わせ技だ。

「あんッ、もぅ聖女のくせに野蛮ねぇ~」
「うっせぇ、カマナルシスト! いいか? 今からお前らは魔法を使わず戦ってもらう。相手は……サキだ!」
「……は? って、えぇぇ!? 俺ぇ!? なんでだよ! おめぇが戦うんじゃなかったのかよ!」
「私より、サキと戦ったほうがわかりやすいだろ? 私は静電気がプラスされて強いんだから」
「……戦う?」

 根暗なヴィーナがなぜか反応する。ウィンがピクリとした。声を上げたのは、やはり血の気の多いシュンだ。

「戦うんならふたりまとめてでいいよ、お姉ちゃんたち! 聖女がどれだけ強いか見せてもらおうよ!」
「シュンのおじちゃんったら……。もうやるっきゃないって感じだね」

 比較的温厚だと思ったディディまでも臨戦態勢だ。ヤバいんじゃないか? これ。

「2対5って……卑怯じゃない?」
「ダイジョーブ! あたしたちは魔法、使わないから。村を破壊しようとしたふたりだもの。5人相手くらいできるわよね?」

 パキパキと手を鳴らすネオに、嫌な予感がする。待て、こいつら今日は武器ないよな? ステゴロだったらいけるんじゃね?
 オレは調子に乗った。

「上等! 久々のド派手なケンカじゃねぇか! しかもステゴロ勝負!」
「ふふん、甘いね。お兄ちゃん」
「え?」

 シュンは魔法で青龍刀を取り出す。ディディは槍。ウィンはナックル、ヴィーナは刀、ネオは鞭を手にした。

「おいおい、ずりぃぞ……高坂、どうする?」
「サキ、おどおどすんな。どんな武器を持っていようが変わりねぇ。お前だって、ナイフとかチャカとか持った相手と戦ったことはあるだろ?」
「あるけどさ……仕方ねぇ、やるっきゃねぇのか」
「そゆこと。じゃあ、お前らのお手並み拝見と行きますかっ!! とりあえず、相手が気絶したら負けだ! いいな!? サキ、お前に好きな相手選ばせてやんよ!」
「じゃあ、ウィンとヴィーナとシュンをもらうわ」
「3人も相手にできんのか? まぁいい。行くぞっ!!」

 高坂とオレは、エルフたちに向かって突撃する。

「こっちだって上等だっ! ハッ!!」

 ウィンのナックルが頬をかすめるが、寸でのところで避ける。このくらいの速さな余裕だ。脇腹が開いたところに膝蹴りを食らわす。

「うっ!」
「はぁぁぁ……」
「日本刀か? そんなもん怖くねぇんだよ!!」

 振り下ろされるが、すっと一歩引く。それだけで避けられる。

「何のっ!!」
「だーかーらー……武器っていうのはさぁ、あるところが丸出しなんだよっ!! ていっ!!」

 刀を握っていた手の甲に、かかと落とし。これは結構痛いはずだ。当たったところがビリビリしたのか、一瞬片手を日本刀から離すヴィーナ。
 
「ハイハイハイハイっ!!」
「!!」

 青龍刀らしきシュンの連続突きが襲い掛かる。こいつは小柄だからな、スピードが速い。ギリのところで避けるが、小柄な相手はある意味『ここ』が隙だらけなんだ。地面を強く蹴って高くジャンプをすると、シュンの頭に手を置いて後ろに回る。

「!?」
「ばぁか、がら空きだ」

 首の後ろに手刀を食らわすと、膝から崩れ落ちた。……こいつら、もしかして肉弾戦すごく弱い? 武器持ってこの程度って……。

3人倒したオレは、後ろで戦っている高坂に声をかける。

「高坂ァ、こいつら超余裕だぞ? こいつらが戦士って……おい、何やってる」
「何って……接待?」

 高坂は、ネオに髪の毛を解いてもらっている。小さい鏡石を持っているのがディディだ。

「ユナちゃんって、人間としてはそこそこかわいいのに、髪の毛のお手入れ全然なってないの!! 今朝も寝起きでしょぉ? ブラシで梳かすくらいしなさいよォ~」
「藁しかない馬小屋に寝かせたのはお前らだろ」
「まぁまぁ、お嬢さん。怒るとかわいい顔が台無しだよ?」
「そうか?」
「おいいいっ!! 高坂ァ!! おめぇは戦闘しろよっ!」
「そうか? じゃあ……」

 バチンッ!! 

「!?」

 髪の毛を触っていたネオが、いきなり手を引く。静電気にやられたのか。

「面白い子猫ちゃんね……あたしと戦いたいの?」
「私も、女性に手を上げるのは主義に反するのだが……」
「いや、お前ら強くなりたいんでしょ? だったら実力見せてもらうよ」
「それもそうね。デイヤの村の鏡石を守るため。キエェェェェッ!!」
「いや、鞭っていう武器自体、チョイスミスだから」

 ネオの振るった鞭だが、うまく高坂に当たらない。もしかしてネオ、鞭使うの下手……? 鞭の先を高坂に捕まれると、ぐいっと引っ張られる。

「きゃっ!」
「何が『きゃっ』だよ。おらぁ」

 ネオを引き寄せた高坂は、あごに頭突きを食らわせる。そんな中、後ろからディディが槍で突っ込んでくる。

「おりゃぁぁぁ!!」
「お前はイノシシか」

 槍も先に刃物が付いているだけのものだ。先端を避けてしまえばただの棒。高坂はひらりと避けて棒をいなすと、また掴んでディディを引き寄せ、あごに頭突き。
 さっきから2連続で頭突きしているが、高坂、おめぇは石頭か。

「瞬殺だったな」
「エルフ、口ほどにもねぇ」

 高坂とオレが仁王立ちしていると、シュンが軽く手を上げた。

「参ったよ……ボクらの話、聞いてくれる?」
「どうしたの? シュン」

 高坂が珍しく優しく尋ねる。やっぱり見た目が子どもだからだろう。(でもシュンは最年長)

「ディディから説明して。ボクから難しい話をするのはニガテだから」
「わかったよ。……お嬢さん。私たちはもともと武術……肉弾戦が弱いのです。その代わり、魔法の力は計り知れない」
「聖女のねーちゃんにナルー様やシュンが魔法使っただろ? あの力、普通だったら人間の軍隊一隊が消滅するくらいの力だったんだ」
「……マジで?」
「高坂、『マジで』じゃねぇ。おめぇの力がマジで? だよ」

 ウィンの言葉に高坂は唖然とするが、すげぇ巨大な光の弾だったからな。それだけの威力があったと言われても、おかしくはない。

「……だけど、コフィン国の人間は、防具で魔法を吸収しているんだ。その防具の秘密がわかれば……」

 前髪が長くて表情はよくわからないが、悔しそうにつぶやくヴィーナ。

「だったらさ、コフィン国に忍び込んで、その防具をかっぱらって村で研究すればいいじゃん」

 あっさりと盗みを支持する高坂。

 次回、聖女とおつき、敵国に潜入!こうご期待!

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